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噴火とリゾートに揺れた野口英世の故郷 -国立公園 人と自然(4) 磐梯朝日国立公園 [   国立公園 人と自然]

 この公園は、東北地方の中部から南部にまたがり、出羽三山、朝日連峰、飯豊連峰、磐梯吾妻、猪苗代湖などの地域を含むわが国で3番目に大きな国立公園だ。ブナ林などの落葉広葉樹林にはツキノワグマ、カモシカ、ニホンザルなどが生息している。また那須火山帯に属しているため、各地に温泉も多い。

 出羽三山は、羽黒山、月山、湯殿山の総称で、開山以来1400年の歴史を有する信仰の山として名高い。多くの人々が参拝するが、開山以来女人禁制で、開山1400年祭の1993年にやっと解かれた。湯殿山周辺には即身仏、いわゆるミイラ仏も安置されている。一方、月山は夏スキーのメッカとしても有名だ。

 s-飯豊山(大日岳).jpg朝日連峰、飯豊連峰では、縦走の小屋泊まりには寝袋や食料の持参が必要だ。長いアプローチも相俟って、中部山岳などの山々に比べれば登山者はまだ少ない。稜線部はなだらかで、遅くまで残る雪は雪田や湿地となっていて、そこに生育する可憐な高山植物を楽しみながらのんびりとした山行が楽しめる。下山後の温泉もまた魅力だ。飯豊山の雪渓の氷にウィスキーボンボンを混ぜて仲間と食べたシャーベットのほろ苦い味は、懐かしい学生時代の思い出だ。

 裏磐梯に点在する200以上の湖沼群は、紅葉シーズンを始め、四季折々にその姿を変え、訪れる人々を楽しませる。中でも五色沼は、その名のとおり、毘沙門沼や赤沼、青沼などそれぞれの湖沼の水に含まれた成分と天気によって、コバルトブルーやエメラルドグリーンなど神秘的に色彩が変化する。これらの湖沼群は、磐梯山の大噴火によってできたものだ。1888年(明治21年)7月、千年の沈黙を破って、水蒸気爆発を起こした磐梯山は、当時、小磐梯山と呼ばれた山頂部を吹き飛ばした。磐梯山のあの独特の山容は、このときの名残だ。この噴火によって麓に流れ出た大量の土石や泥流により、五色沼、桧原湖、小野川湖、秋本湖などの堰止湖が誕生した。それだけではない、細野、雄子沢、秋元原などの部落は流れ出た土石の下に埋もれ、秋元原部落では12戸すべてが埋没して67名の行方不明者を出した。地域全体では、500名近い犠牲者が出たという。桧原湖ではこのときに水没した桧原本村の鳥居を今でも湖水中に見ることができる。

 この噴火は当時の大ニュースとなった。帝国大学(現、東京大学)は早速、関谷清景教授と菊地安助教授を調査に送った。また、読売新聞は、7月17日付で第1報を生々しく伝えるとともに、その後も噴火直後の被災地を独自調査した田中智学の「磐梯紀行」を30回に亘って連載し、8月7日に掲載された噴火直後の猪苗代湖の写真は、日本の新聞紙上初の報道写真ともいわれている。

s-桧原湖と磐梯山.jpg この地出身の有名人といえば、何といっても野口英世だろう。千円札にも肖像が載っているが、意外とその業績や子供時代のエピソードを知らない若い人が多い。私の子供時代には、映画や読み物でよくお目にかかったものだ。英世は、1876年(明治9年)に現在の猪苗代町に生まれた。1歳のときに囲炉裏に落ちて左手を大火傷した。映画で見た、火傷で付いてしまった指を小刀で切り離そうとする英世の姿を子供心にも鮮明に覚えている。成績は優秀で、周囲の人たちの募金により手術を受け、不自由ながらも左手は使えるようになった。それがきっかけで、医学を学ぶようになったという。米国留学などを経て、数々の病原体発見などの業績によって、多くの賞を授与された。残念ながら51歳の若さで、アフリカでの黄熱病研究中に感染して亡くなった。磐梯山の大噴火は、英世が11歳の時だから、きっとその目で直に見たに違いない。生家の猪苗代湖畔には、野口英世記念館が設立されている。東京都新宿区にも、野口英世記念会館が設立されている。小学生のころはその脇を通って通学したこともあり、私にとって英世は身近に感じる存在だ。

 以前に紹介した雲仙・普賢岳など、わが国では火山噴火による犠牲も大きい。磐梯山では、尊い犠牲を払いながらも大噴火によって生じた湖沼群景観は、その後の高速道路や新幹線の整備もあって、この地域を高原リゾート地に変えていった。噴火から100年後のバブル経済は全国的なリゾートブームを巻き起こしたが、磐梯山周辺でもスキー場やゴルフ場の開発などが始まった。しかしこれも、結局は土地の買占めと自然破壊の爪痕を残したに過ぎなかったというのでは余りにも犠牲が大きい。

磐梯朝日国立公園 1950年9月指定 186,404㌶ 山形、福島、新潟にまたがる

 (写真上)なだらかな稜線の連なる飯豊連峰大日岳
 (写真下)大噴火で山頂が吹き飛んだ独特の山容の磐梯山と噴火によってできた桧原湖

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