SSブログ

テーブルマウンテンが林立する「失われた世界」 -国立公園 人と自然(番外編2) カナイマ国立公園(ベネズエラ) [   国立公園 人と自然]

 世界遺産、カナイマ(Canaima)国立公園は、南米ベネズエラのギアナ高地にある。そこはまた、イギリス人作家アーサー・コナン・ドイルの小説「失われた世界(The Lost World)」(1912年)の舞台としても知られている。1962年に指定された3万平方キロを超える面積の公園には、最高峰(標高2810m)のロライマ(Roraima)山をはじめとする2000m級のテーブルマウンテンと呼ばれる台形状の山地が密林の中に林立している。これらのテーブルマウンテンは、2億5千万年前に大地が激しい雨で削り出されて造り出されたもので、世界でも最も古い地層のひとつ17億年前の地質がむき出しになっている。この密林とテーブルマウンテンのカナイマ国立公園は、1994年に世界遺産に登録された。

 s-カナイマNP1.jpgそのひとつ、標高2560mのアウヤン・テプイ(Auyan Tepuy)(先住民の言葉で、悪魔の山の意)の頂上から流れ落ちるエンジェル(Angel)(スペイン語では、アンヘル)の滝は、世界最高の落差979mを誇る。流れ落ちた水は、あまりの落差のために滝壺まで届く前に霧となってあたりに飛び散ってしまう。また、切り立った崖によって隔離されたテーブルマウンテン上では、固有の生態系が形成されている。水かきがなく、泳ぐことも跳び跳ねることもできない体長4cmほどの原始的なカエル、オリオフリネラのように独自の進化を遂げたものも多い。ドイルはおそらくこのようなテーブルマウンテン探検の報告を聞いて、恐竜がいまだに生き続ける「失われた世界」を着想したのだろう。学生時代に級友たちと見たアメリカ映画「失われた世界」(1960年)の迫力満点の恐竜決闘シーン(実は、トカゲとワニに背びれなどを付けた特殊撮影という)は、定期試験が終わった解放感もあってか妙に記憶に残っている。

 私がこの公園を訪れたのは、20年近く前になる。カラカスで開催された「第4回世界国立公園・保護地域会議」に参加した際に、当時日本ではまだ馴染みの薄かったエコツーリズムを体験しようと思ったのがきっかけだ。双発プロペラ機DC3でアマゾン源流部の密林の上を飛んで降り立ったのは、空港というよりはただの広場だった。空港ターミナルも、茅葺きのあずまやだ。宿泊は、キャンプ・カナイマというロッジ群で、それぞれのロッジは地域の伝統的な建物デザインを模しているという。エコツーリズムのプログラムは、トレッキング、ボートでの川下り、滝壺巡りなど多彩だ。ガイドは、植物の名前とその資源としての利用法(薬草、食料、染料など)などを教えてくれる。有機物が多く茶褐色の川のカヌー下り、滝壺の横断はスリル満点だ。世界一のエンジェルの滝へのセスナでの観光飛行もある。私のときには、あいにくの雨模様で世界一の滝の全容を見ることはできなかったが。

 しかし、私が関心をもったのは、ロッジのベッドメーキングに来た地域住民だ。もともとは密林の中での狩猟採集と少しばかりの畑での作物で暮らしていたという。ところが貨幣経済社会になり現金も必要になったが、密林地域での産業は結局のところ観光しかない。観光といっても売り物は大自然。エコツーリズムは、その売り物を破壊しないような持続型の観光だ。そして、ガイド、車や船の運転手はもちろん、ベッドメーキングやレストランのコックなど、さまざまな職業が生まれ、地域に経済効果をもたらしてくれる。ある程度経済的に余裕のできた地域社会は、国立公園内の自然資源に頼る必要もなくなり、自然も保護される。つまり、エコツーリズムは、自然保護と地域社会との両立をめざすものでもある。s-インディオ子供(カナイマ).jpg

 最近は、日本を含め、世界各地でエコツーリズムが盛んだ。だが実際のところ、エコツーリズムが一種のブランド(商品名)となり、多数の観光客が参加している例も多い。持続型の観光ではなく、従来型のマス・ツーリズム(団体旅行などの観光)と変わりなく、自然への影響も懸念される。さらに、地域経済への波及効果もわずかながらの労働収入だけで、落とされた金銭の大半は中央あるいは国外資本が持ち出すことも多い。

 キャンプ・カナイマの夕方、ロッジの脇を流れる川の下流からカヌーがやってきた。当時の写真で確認したところ、そこには上半身裸の男性と少し穴のあいたTシャツを着た男性、それに赤ん坊を抱いた女性と二人の子供が乗船していた。おそらく家族で下流の町に買い出しに出かけた帰りだったのだろう。そして、ポリバケツのようなものも積まれていたのが、今でも印象に残っている。アマゾン源流の密林で、何世紀にもわたり森の資源を利用して生活してきた人々。彼らも今や「現代文明」と無縁の生活はできない。否が応でも生活の中にプラスチック製品も持ち込まざるをえない。あの人たちは、今はどんな生活をしているのだろうか。ロッジのベッドメーキングの母親についてきた子供の無垢な目が、私の脳裏に焼き付いている。

 (写真上)カナイマ湖とテーブルマウンテン
 (写真下)コテージのベッドメーキングの母親に着いてきた先住民の子供

 (関連ブログ記事)「エコツーリズムの誕生と国際開発援助」 「エコツーリズムと保全について考える」、「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本」  「日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類」 「国立公園 人と自然(番外編1) ワイ・カンバス国立公園(インドネシア) ゾウと人との共存を求めて」 「国立公園 人と自然(7) 霧島屋久国立公園 -世界遺産の島の縄文杉とトイレ問題
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0