SSブログ

熱帯林の保全 それとも遺伝子組換え食品? -「生活の中の生物多様性」講演の反応 [生物多様性]

 人々は、日本の日常生活がもたらす熱帯林の破壊よりも、直接的な遺伝子組換え食品のほうに関心が強いようだ。

 先週、大学公開講座で「生活の中の生物多様性 ~食料、薬品などの生物資源をめぐる国際攻防~」と題する講演をした。昨年の名古屋COP10で関心の高まった「生物多様性」をめぐる国際関係について、コロンブスの大航海時代から現代のバイオテクノロジーの時代までの私たちの日常生活との関連から、生物多様性の意味、条約をめぐる国際間の駆け引き(南北問題)などを海外で撮影したスライドなどを示しながら解説した。

 s-オイルパームプランテーション00762.jpgとくに、COP10の成果である「愛知目標(ターゲット)」「名古屋議定書」「名古屋・クアラルンプール補足議定書」から、それぞれ「生物多様性の保全」「遺伝資源へのアクセスと利益の配分(ABS)」 「遺伝子改変生物・遺伝子組み換え食品」について、私たちの日常生活との関連を示した。たとえば、日本で生産されるスナック菓子などに使用されるパーム油のためにオイルパームなどのプランテーションが拡大されて熱帯林が破壊されていること。先住民の生活の知恵である自然生薬が製品化されて、私たちはその薬品を使用して多国籍企業には莫大な利益をもたらすが、原産国には利益が還元されないばかりか知的財産権のために伝統的な利用も危うくなること。除草剤耐性作物など遺伝子組換え食品・生物の安全性が議論になり、「カルタヘナ議定書」や「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が作成されるまでに長い年月がかかったこと。

 つい先日、講演後に聴衆から集めたアンケートの集計結果が送付されてきた。 これによると、「遺伝子組換え食品」に関心が寄せられているようだ。私としては、むしろオイルパームや茶畑、ゴム園などのプランテーションやエビ養殖などによる熱帯生態系の破壊の一因が私たちの日常生活にも関連していることを訴えたかった。そして、私たちを含めた先進国の生活を支えるために、特に多国籍企業の知的財産権の主張のために、原産国である途上国住民の伝統的な生活が維持できなくなっていることを訴えたかった。

 自分の意図と相手の反応が異なることはよくあることだ。 話術が未熟だといえばそれまでかもしれない。日常生活にとどまらず、一国の政治の世界、いや世界の国同士の折衝の場でも起こりうることだ。時として、誤解では済まない事態を招くことになる。これが政治の世界では、その被害は計り知れない。

 一方で、今回のアンケート結果には、丁寧な解説で、難しそうな生物多様性がよくわかり、目からうろこが落ちたような思い、との感想も多く寄せられていた。 私が今回の講演でもっとも意図したのはこの点だ。その意味では、ホッとしている。終わりよければ、すべて良し。まっ、いいか。「生物多様性をわかりやすく解説する」ことを目指しているこのブログを続ける元気も出てきた。

 (写真) 一面のオイルパームのプランテーション(インドネシア・ジャワ島)

 (関連ブログ記事)
 「遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)
 「愛知ターゲット 保護地域でなぜ対立するのか -COP10の背景と課題(4)
 「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)
 「ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)
 「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)
 「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって
 「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
 「金と同じ高価な香辛料


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0