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三陸復興国立公園の中核として -国立公園 人と自然(14)陸中海岸国立公園 [   国立公園 人と自然]

 学期末やそのあとの熱帯林での長期調査研究などのため、ブログ記事の更新も2か月ぶりとなってしまった。しかし、本日3月11日には、なんとしても陸中海岸国立公園を取り上げたかった。

 2011年3月11日のあの日以来、このブログの「国立公園 人と自然」で陸中海岸国立公園をいつ取り上げるか悩んできた。環境省が復興事業の一環として「三陸復興国立公園(仮称)」の再編設立を決定したこともあり、震災一周年となるこの時期にやっと取り上げることにした。ただし、私自身はまだ被災地には足を踏み入れる機会がない。以下の紹介文は、およそ10年前にある新聞の連載コラム記事として書いたものだ。震災後の現在では、記述はあまりに現実離れしすぎているかもしれない。その点はご容赦願いたい。s-陸中海岸2_2(北山崎).jpg

 『陸中海岸国立公園は、岩手県久慈市から宮城県気仙沼市にかけての180kmに及ぶ海岸線である。岩手県宮古から北側は海食崖や海岸段丘が続く隆起海岸で、南側の大船渡周辺は陸地が沈んで複雑な海岸線を形成しているリアス式海岸だ。ここで見られる目もくらむような断崖絶壁あるいは眼鏡や蝋燭のような奇岩の数々は、わが国の長い海岸線の中でも代表的な景観だ。中でも、200m近い断崖が8kmも続く北山崎は、絵葉書やポスターにもよく登場する。また、1683(天保3)年に宮古常安寺の僧侶、霊鏡が発見したと伝えられる浄土が浜の白砂と奇岩の織り成す景色は、その名のとおり訪れる人々を安堵の世界に導く。

 三陸沖で多発する地震とこの複雑な海岸線は、この地域を津波の常襲地帯としている。津波をもたらすのは、沖合の地震だけではない。1960年には、太平洋のはるかかなたのチリ沖で発生した観測史上最大の地震により、発生から22時間後に津波が到達した。この津波による被害は、太平洋岸の各地で死者142名、家屋の全壊流出2800戸という大きなものだった。津波の高さは大船渡で実に5-6mにもなった。今でも、海岸の岩肌には信じられないほどの高さの所に津波の白い線が残っている。

 特に岩手県田老町は、この300年間に数十回にわたり津波の被害を受け、数度の全町壊滅をも経験している。現在では総延長2400mにもおよぶ防潮堤「田老万里の長城」が完成し、町を災害から守っている。また、宮城県唐桑半島には全国で唯一の「津波体験館」がある。座席に座ると、映像と音響に振動も加わって、津波を疑似体験することができる。

 海がもたらすものは災害ばかりではない。津軽石川(宮古市)や大槌川(大槌町)などには、サケが産卵のため遡上する。江戸時代初期にこのサケを江戸まで輸送するため考案されたのが「南部鼻曲がり鮭」、現在の新巻き鮭だ。考案者は、大槌地方を治めていた大槌孫八郎政貞だと伝えられている。岩手県は本州一のサケ漁獲量を誇り、シーズンには「鮭のつかみ取り」などのイベントも催される。』

 10年前の記述に、こんなに地震と津波に関して分量を割いていたとは、我ながら驚きだ。それだけ、訪れた際の印象が強かったということだろう。しかし、防潮堤が人々を救うことができなかったのは誠に残念としか言いようがない。s-陸中海岸1_2.jpg

 環境省の発表によれば、北山崎の断崖や浄土ヶ浜・浄土ヶ島などの地形には地震と津波による変化はなかったというが、歩道やレストハウスなど海岸沿いの施設は被災したようだ。中でも、高田松原は壊滅的な被害を受け、唯一残った「奇跡の一本松(希望の松)」も、塩害により枯死を待つばかりという。

 陸中海岸国立公園は、南三陸金華山国定公園や他の県立自然公園などとともに、三陸復興国立公園(仮称)に再編される予定だ。以前の文章の最後にも記したとおり、「海がもたらすのは災害ばかりではない」と思う。それを信じたい。「人と自然」の絆が一層深まり、海の恵みによって、一日でも早く被災地が復興され、かつての賑わいが再びもたらされますよう、切に祈っています。

1955年5月指定 12,212㌶
岩手、宮城にまたがる

 (写真 上・下)陸中海岸北山崎付近の風景(ともに震災前)

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