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巨樹との再会に思う [巨樹・巨木]

 ボゴール植物園(インドネシア)を久しぶりに訪れた私の目的の一つは、その巨樹に再会することだった。その巨樹とは、15年前に私がJICA生物多様性プロジェクトの初代リーダーとしてボゴールに住んでいた頃に初めて出会ったものだ。その巨樹は、フタバガキ科の大木で、巨大な板根を有している。日本に残してきた高校1年(当時)の娘が正月休みに来イした際に、インドネシアに連れてきた中学生(当時)の末娘と二人でその巨大な板根の上で写真を撮った。

 s-板根.jpgその写真は、今でも授業や講演などで熱帯雨林の特徴を紹介する際に使用することがある。熱帯雨林は温度も高く、菌類その他の生物も豊かで、落葉などはすぐに分解されてしまう。おまけに降雨量も多いから、流亡も激しく、養分の豊富な土壌の厚さは日本に比べればずっと薄く、樹木の根は浅い。一方で、高い温度と豊富な水分、そして強い日射は、樹木の成長を促進する。いわば巨体だが足腰の弱い相撲取りのようなものだ。熱帯林の中では、ダウンバーストと呼ばれる強い下降気流などにより横倒しになった巨木を見ることができる。その巨木の根は、まるでおちょこになった傘ように底が平らで薄い。そのため、巨体を支える支柱のような役目をしているのが板根だ。

 ボゴール植物園のその巨樹との久しぶりの再会だったが、それが写真と同じ樹木とはとても思えなかった。私の記憶の中の巨樹は、娘たちを抱きかかえて飲み込んでしまうような巨大な板根を持っているはずだった。しかし目の前にあるのは、確かに巨大な板根ではあるが、記憶の中の巨樹に比べればずいぶんと見劣りする。私は、ひょっとしたら他の樹木だったかもしれないと思い、懸命に目を凝らしながら園路を進んだ。結局はそれ以上の板根は現れなかったし、およその位置には間違いはないはずだから、例の写真の巨樹に違いない。まだ幼さの残っていた娘たちとの記憶の中の巨樹と、自分ひとりだけで眺めた巨樹と、同じ樹木のはずがまったく別のものとしか思えなかった。

 人の記憶とは、ずいぶん曖昧なものだ。時には、つらく苦しい記憶は忘れ去ってしまう。逆に、楽しかった思い出のみが積み重ねられていく。それが人類が長い歴史の中で獲得してきた生きる術というものなのだろう。私のインドネシアでの生活、子供がまだ幼かった頃の生活、を巨樹との再会で思い出した。この歳になると、そろそろ人生を楽しく悔いのない思い出で満たしておきたいと思うようにもなってくる。

 (写真)15年前の娘たちと板根のある巨樹の写真(ボゴール植物園にて)

 (関連ブログ記事)
 「悠久の時そして林住期 -余暇と巨樹とを考える
 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全
 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1


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コメント 2

mimimomo

こんにちは^^
板根と言うのは熱帯樹林特有のものなのでしょうね。
石垣島の方へ行ったとき大きな板根を持つ木に出会いました。
by mimimomo (2015-07-09 11:32) 

staka

mimimomoさん
八重山地方でも、サキシマスオウという大きな板根を持つ樹木が知られています。
石垣島で出会ったのも、きっとそれでしょうね。
by staka (2015-07-10 10:08) 

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