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熱帯林の空中散歩 -熱帯林の調査研究 [生物多様性]

 まだ日の出前というのに、少しでも動き回ると汗が吹き出す。そんな熱帯雨林の林内から抜け出すと、さわやかな風が流れ、霧の海原に樹冠が墨絵のように遠くまで浮かんでいる。熱帯特有のけたたましい鳥の鳴き声やギボン(テナガザル)の吠え声が、足元から沸き起こってくる。マレーシア半島部パソ保護区の森で、高さ50mの樹冠観察用タワーに上った時の光景だ。別の時には、ホーンビル(サイチョウ)というくちばしの巨大な鳥のつがいが空を舞い、枝にとまるのも観察できた。

 s-樹冠01564.jpg生物多様性の宝庫と言われる熱帯雨林には、実に数多くの生物が生息している。樹木も高さ30mから50mもの高木になり、何層かを形成している。ちょうど山に登ると標高によって植物の種類が変わる(植生の垂直分布)のと同様に、熱帯林では林床から高木の先(樹冠)までのそれぞれの高さで生物相も変化する。花が咲き、実がついても、地上からでは観察することもできない。最近では地球温暖化の関係もあり、呼吸や光合成を行う葉をつけた樹冠への関心も高い。

 かつて、熱帯林での生態研究者は、ロッククライミングのようにロープで樹上まで登って観察した。それを効率よくするために、さまざまな工夫がなされてきた。気球で少しずつ高度を上げて観察する方法もあるが、空間がないとバルーンの使用はできない。高層ビルの工事現場でみかけるようなクレーンで樹冠を観察しているところもある。しかしこれだと、クレーンのアーム(腕)の長さの範囲しか観察できない。日本の山でみかける集材機のように、谷に索道をかけてそこにリフトをつけて移動しながら観察する方法もとられている。

 s-キャノピータワー01527.jpgs-キャノピーゴンドラ.jpgいろいろな工夫と試行錯誤がなされてきたが、日本人研究者もよく訪れるマレーシアでは、先ほどの半島部パソやボルネオのランビルなどで、何本かのタワーとそれらを結ぶ回廊が設置されている。タワーは、高木にやぐらを組んでテラスをつけたものだが、最近では独立したパイプ組のものも建設されている。そのタワーを吊り橋のような回廊で結んで、そこを歩きながら樹木の葉や実、昆虫などを観察・研究するのだ。回廊は英語ではキャノピー・ウォークウェイ(canopy walkway)と呼ばれるが、まさに樹冠・林冠の空中散歩道といったところだ。しかし、工事現場の足場のような階段を登るのも、50mもの高さとなると疲れるし、コケで滑るところもあり、なかなかスリルもある。ときには踊り場にヘビが休んでいることもあるという。もちろん、ウォークウェイも足を踏み外したら大変だ。時には命綱をつけないと使用させてもらえない施設もある。

 近年では、こうした研究用の観察施設がエコツアーに使用されることも多い。エコツアー用にわざわざこのような施設を設置しているところもある。エコツーリズムが盛んな中米コスタリカでは、観光客が小型のゴンドラから林冠を眺めることもできる。モンテベルデ国立公園では、フィールドアスレチック場にあるようなロープに付けた滑車にぶら下がって樹上を移動するスリルも味わえる。その名もスカイウォークと呼ばれている。

 s-キャノピーウォークウェイ4260569.jpgインドネシアのグヌン・ハリムン・サラック国立公園では、私がJICA生物多様性プロジェクトの初代リーダーをしていた際に、チカニキのリサーチ・ステーションに隣接してキャノピー・ウォークウェイを設置した。当初はもちろん研究用に使用されていたが、その後は維持経費ねん出のためもあってか、エコツーリズム観光客にも開放するようになった。それだけではない。ついにはジュラルミンの足場が盗まれてしまい、使用できなくなってしまった。

 熱帯林の空中散歩も、研究者だけの特権ではもったいないが、さりとて研究に支障が出たり、事故が起きては元も子もない。

 (写真上)雲海に浮かぶ樹冠(パソ保護区の観察タワーから)
 (写真中)観察タワー(パソ保護区・マレーシア)
 (写真下)キャノピー・ウォークウェイ(グヌン・ハリムン・サラック国立公園・インドネシア)
 (写真左)エコツーリズム樹冠観察用ゴンドラ(コスタリカ)
 
 (関連ブログ記事)
インドネシア生物多様性保全プロジェクト2 (調査研究活動)
インドネシア生物多様性保全プロジェクト1
熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本


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mimimomo

こんにちは^^
キャナピーウォークって元はと言えば、
研究のための施設として作られたものだったのですね~
何とも色んなものを作ってあると《単に観光用かと思っていたので》思っていました。
by mimimomo (2013-01-15 15:48) 

staka

そうなんです。本当は研究用です。
でも、研究者の皆さんも結構楽しんでますよ。
mimimomoさんも体験されたように、樹海の景色は素晴らしいですからね。
研究者だけに独り占めさせておくのはもったいないですね~(笑)
by staka (2013-01-16 00:28) 

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