SSブログ

ペリカンの棲む湿地と海水浴場の賑わい -国立公園 人と自然(番外編5) ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園(アルバニア) [   国立公園 人と自然]

 欧州の最貧国のひとつアルバニアを知る人は、日本では少ないのではないだろうか。ましてや、国立公園となると、ほとんど知られていない。その国立公園のひとつ、ディヴィアカ・カラヴァスタ(Divjaka-Karavasta)国立公園の管理計画作成支援のための2年間の国際協力に、私の知り合いがJICA専門家として本日5月3日成田から旅立った。私は、このプロジェクトの計画策定のためのJICA調査団として、昨年(2011年)7月にアルバニアの国立公園を訪問した。

 s-カラヴァスタ湿地01264.jpgアルバニアは、地中海の中央に位置し、アドリア海とイオニア海に沿って広がり、バルカン半島の南西部に位置する。モンテネグロ、コソボ、マケドニア、ギリシャといった国々と国境を接し、海を隔ててイタリアとも接している。国土面積は四国の約1.5倍と小さいにもかかわらず、独特で変化に富んだ地形が特徴となっている。国土の3分の1が低地で、残りの3分の2は山岳か丘陵となっている。北部には2千m級の山々が連なり、アルバニアの最高峰はコラビ山(標高2,751m)である。全長450kmにもおよぶ海岸線には、数多くのラグーン(潟湖)があり、また内陸部にも湖沼が多い。

 ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園は、アドリア海沿岸の河口、干潟、砂丘と背後の地中海松(ディヴィアカ松)の森林を中心に2007年に指定された面積22,230haの国立公園だ。このうち、カラヴァスタ・ラグーンは、1994年にラムサール条約の登録湿地となっており、アルバニアでも最も重要な生態系の一つだ。特に、絶滅危惧種のニシハイイロペリカンは、世界の5%がこのラグーンに生息しているといわれている。

 s-ディヴィアカ海岸01275.jpg湿地に接する海岸部は遠浅の砂浜で、年間50万人もの海水浴利用者があり、夏の最盛期には1日に1万台もの車が海浜部に入り込む。私が訪問した夏の盛りの7月には、海浜部は車で埋め尽くされ、砂浜は家族連れや若者で賑わっていた。まるで私の居住地の近くの湘南の海辺のようだ。海岸に隣接する土地はディヴィアカ市所有地で、レストランなどが営業許可されている。国立公園としてのゲートや入園料徴収はないが、シーズン中には土地所有者でもある市により海岸部への入園料が徴収され、清掃など環境保全の財源となっている。

 ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園は、もともとは地中海松保護のためのディヴィアカ国立公園として指定されていた。このディヴィアカ国立公園にカラヴァスタ湿地などを加えたラムサール条約登録湿地(1994年)を核に、2007年10月に現在のディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園として指定された。こうした経緯もあり、国立公園の管理は地方森林局により行われているが、湿地生態系の保全などの専門知識と経験は十分ではない。

 また、国立公園とはいえ、公有地や民有地も含まれている。前述の海岸部の市有地ほか、民有地の農地や住宅地も含まれ、1万5千人以上が公園内に居住している。これまでこのブログでも紹介してきたように、途上国を含む海外の国立公園では、公園内の土地は原則として国有地という制度をとっているところが多い。いわゆる「米国型」だ。これに対して、日本では狭い国土と古くからの土地利用などのため、国立公園内にも多くの民有地が存在する。一般的には、米国や多くの途上国のような公園専用地型の公園制度を「営造物制」、日本やアルバニア、その他のヨーロッパ諸国のような民有地も含む公園制度を「地域制」と呼んでいる。

 こうした国立公園を有効に管理するため、アルバニアの保護地域では、広く関係者が参画する協働管理の確立をめざしている。管理者の環境・森林・水管理省だけではなく、公共事業省、観光省、関係地方自治体、保護地域内土地所有者、NGOなどの代表者から構成される「保護地域管理委員会」が設置され、管理計画を策定することになっている。しかし、実際のところ委員会の設置や管理計画の策定は遅々として進んでいない。

 法律・制度が形式上は充実していても、実効が上がらないのが途上国の特徴だと、このブログでも何度か書いてきた。類似の制度と長年の経験を有する日本の先進国としての出番がここにある。しかし、足の引っ張り合いで国会論議も進まず、必要な法制度さえも策定できない最近の日本は、はたして先進国といえるのだろうか。

 *アルバニアの保護地域制度については、筆者「協働管理の確立をめざすアルバニアの国立公園」(国立公園702、2012.4)を参照願います。

 (写真上)ラムサール条約登録湿地にもなっているペリカン営巣地の湿地
 (写真下)海水浴客で賑わう海岸


 (関連ブログ記事)
 「アルバニアのんびりカフェ
 「今年最後のインドネシア調査
 「愛知ターゲットと保護地域 -保護地域の拡大になぜ対立するのか
 「富士山の麓で国立公園について講演
 「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史
 「日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類
 「『米国型国立公園』の誕生秘話
 「アバター  先住民社会と保護地域
 「エコツーリズムの誕生と国際開発援助


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0