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植物名の由来・分類 [生物多様性]

 前回のブログ記事で、夏の海浜植物を取り上げた。掲載写真の4種中3種は、頭に“ハマ”の付く名前だ。これはすぐお分かりのとおり、海浜に生育する植物として「浜(はま)」が付けられたものだ。

 私はかつて、このように2種以上に共通する植物名の頭の部分、いわば接頭辞にあたるものを分類・カウントしたことがある(高橋進「植物和名接頭辞考-植物和名の接頭辞にみる自然と人間-」森林文化研究第12巻(1991年12月(財)森林文化協会発行) pp.133-142)。

 s-フジアザミCIMG0525.jpg日本に産する高等植物約7,000種の標準和名(環境庁1987年版)を分類したものだ。この結果では、先の“ハマ”のように、生育場所を示す接頭辞には、52分類、1,006種の植物が該当した。このうち、“ハマ”の接頭辞をもつ植物は、72種だった。

 生育場所を示す接頭辞で、一番種数の多かったのは、“ミヤマ”(深山)の165種、次いで“ヤマ”(山)(“ヤマザト”(山里)、“ヤマジ”(山地、山路)を含む)の115種、“イワ”(岩)79種、“シマ”(島)76種で、“ハマ”はその次、さらに“タカネ”(高嶺)58種と続いた(注.“シマ”は、“縞”の場合もあり、由来から分類)。

 s-ハクサンチドリ0786.jpgこうしてみると、、低地の植物との違いを示すものとして、山岳地に生育する植物を意味する接頭辞が多いのがわかる。

 具体的な山岳地名のついた植物も多く、67分類、396種にのぼった。単に読みからだけ拾うと、“フジ”が最も多いが、これは「富士」と「藤」の二つの意があるので、それぞれの植物名の由来を個別に当たって分類した。

 s-トウゴクミツバツツジCIMG0370.jpgこの結果、山岳地名で一番多いのは“イブキ”(伊吹山)の22種で、「富士山」に由来する“フジ”は19種、次いで“ハクサン”(白山)の18種、“ハコネ”(箱根)16種、“ニッコウ”(日光)15種、“アポイ”(アポイ岳)と“キリシマ”(霧島山)がそれぞれ12種、“アマギ”(天城山)、“オゼ”(尾瀬)、“ヒダカ”(日高山系)がそれぞれ11種ずつだった。

 該当種数第一位の“イブキ”の由来の伊吹山は、石灰岩で形成されているために固有の植物も多く、また関西大都市圏に位置して古くから研究の場にもなっていた。これらのこともあり、イブキジャコウソウ、イブキトラノオなど“イブキ”を冠した植物が多く、天然記念物にも指定され、花の山としても名高く、琵琶湖国定公園にも指定されている。

 s-ムニンツツジ.jpgこのほか、“エゾ”(200種)など地方名、あるいは山岳のほかにも島しょや半島など固有の地名に関連する接頭辞も多い。山岳や島などが多いのは、隔絶された地で自然が残り、また固有種なども多い結果と考えられる。

 s-コマクサCIMG0916.jpgさらに、“イヌ”(79種)などの動物に関連するもの、“アキ”(26種)など季節に関連するもの、さらには色や形状などに関連するものなど、およそ750の接頭辞に分類された。

 これらの分類作業をしたのは今から20年以上も前だ。このために、当時はまだそれほど普及していなかったパーソナル・コンピュータ(当時、3.5インチ・フロッピィが出回り始めた)を購入し、自前でプログラミングをして、休日などに分類・カウントをした。

 結果は、上記のとおり専門誌に掲載されたが、当時は研究者でもなかった私にとって、趣味の域を出なかった。その頃の情熱を、今はどれほど持ち合わせているだろうか。

 昔を懐かしむようでは、やはり齢か。否、こうして昔の結果が財産として活用されているのだから、前向きに良しとしよう。

 閲覧数が多く、関心を持つ読者が多いようなら、さらに植物接頭辞に着く山岳名のランキングと分布、さらに信仰対象との関係など、地方名ではどの地域が多いか、動物名ではどんな動物が多いか(犬が一番は上記のとおり)、色ではどうか、などなどこれからも続けていこう。少し元気が出そうかな?

 (写真右上) フジアザミ (富士山の名を冠した植物例)(富士山にて)
 (写真左上) ハクサンチドリ (白山の名を冠した植物例)(乳頭山にて)
 (写真右中) トウゴクミツバツツジ (関東を意味する東国を冠した植物例)(日光にて)
 (写真左下) ムニンツツジ (小笠原諸島の無人島を表す“ムニン”を冠した植物例)(小笠原・父島にて)
 (写真右下) コマクサ (動物 駒(こま)=馬を冠した植物例)(秋田駒ケ岳にて)

 (関連ブログ記事)
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JUNKO

礼文島に行った時、ハクサンチドリを見ました。高山植物の名前はほとんど知りませんが、自分の目で見たお花は覚えているものですね。大変興味深く読ませていただきました。
by JUNKO (2012-09-24 22:01) 

Sanchai

「イブキ」が付く植物がそんなに多いとは知りませんでした。うちの実家の裏山で、小さいころはよく上ったのですが、伊吹山を少し自慢したくなりました。
by Sanchai (2012-09-25 08:35) 

mimimomo

おはようございます^^
数を数えたことは勿論ないですが、接頭語のようなものは面白いと感じています。
山の名でイブキよりむしろ
ハクサンが多いと思っていました。
by mimimomo (2012-09-25 08:46) 

staka

皆さんコメントありがとうございます。
コメント設定がうまくいかず失礼しました。
植物名のブログ、これからも続けます。
by staka (2012-11-20 09:06) 

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