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捕鯨再開とIWC脱退 -捕鯨 文化と倫理のはざまで(1) [ちょっとこだわる:民俗・文化・紀行・時事など]

昨日は、土用の丑の日。
この日に鰻を食べる習慣も、鰻の高値が続き断念している人も多いようだ。

これは、養殖用の稚魚シラスウナギの激減が原因だ。
ニホンウナギは、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種として2014年以来レッドリストに掲載されている。

絶滅のおそれがある種をわざわざ食べる必要があるのか。許されるのか。
これは、まさに食文化とも結びついた問題だ。

しかし、「土用の丑の日に鰻」というのは、かの有名な平賀源内が鰻屋に頼まれて考え出したキャッチコピーだという。

ということは、たかだか300年の「食文化」?

絶滅種と食文化との関係は、世界中でもいろいろと話題になっているが、日本でもウナギ(ニホンウナギ)のほかに、マグロ(クロマグロ)もレッドリストに掲載されている。



同様に、長年にわたり国際問題となっているのが鯨だ。

s-クジラ1(小笠原) (1).jpg

小笠原にて

今年(2019年)7月1日から、日本では商業捕鯨が31年ぶりに再会された。
捕鯨再開から約1か月、皆さんは鯨肉を既に召し上がっただろうか。

団塊世代の私には、学校給食での片栗粉の半透明の白い衣に包まれた琥珀揚げ(竜田揚げ)やスライスされた白い脂身の縁がピンクに染色されたベーコンなどのクジラ献立の記憶が鮮明だ。

懐かしく、食べてみたいと思う半面、「生物多様性保全」を生業のひとつとしている身としては、別に食べなくともとも思う。

この「捕鯨」について考えてみたい。

捕鯨を管理する国際組織「国際捕鯨委員会(IWC)」が設立されたのは、第二次世界大戦後の1948年だ。
当初はクジラ資源の管理のための捕獲頭数制限などが目的だった。

その後、国際的に野生生物の保護がクローズアップされるようになると、ストックホルム(スウェーデン)で開催された「国連人間環境会議」(1972年)では、10年間の捕鯨禁止を求めた米国の提案が圧倒的多数で採択された。

欧米の反捕鯨国が主張するのは、クジラ個体数の減少による絶滅の危機だ。
さらに、高等な哺乳類であるクジラを殺戮することに対する倫理的な反対論も根強い。

こうして、ついに1982年のIWCでは、商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)が決議された。

これにより、日本は南極海での商業捕鯨から撤退して、調査捕鯨を開始した(1987年)。

現在の日本市場に出回っている鯨肉には、この調査捕鯨で捕獲されたものも含まれているため、姿を変えた商業捕鯨との批判が付きまとっている。

長年にわたる商業捕鯨再開の提案が、昨年2018年9月のIWC総会で否決された日本は、今年2019年6月30日にIWCを脱退した。

IWC脱退により、南極海での調査捕鯨実施も不可能となるが、伝統ある捕鯨文化とクジラ産業を保護するためとして、前述のとおり7月1日から日本の排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨を再開したのだ。

対象となるのは、日本が資源枯渇はしていないと主張するミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラの三種だ。


ところで、最初に「国連人間環境会議」で捕鯨停止(モラトリアム)を提案した米国には、捕鯨の文化はないのだろうか。

次回記事では、ハーマン・メルヴィル『白鯨』(モビィ・ディック)やペリーの開国要求、さらには数奇な日本人の運命なども紹介しつつ、米国の捕鯨をみてみよう。


それにしても、自国の意見が認められないからといってIWC脱退を決定した日本政府の態度は、自国の利益にならないとして生物多様性条約を批准せず、また地球温暖化防止のための京都議定書やパリ協定から脱退(を表明)した米国と重なるところがある。

さらには、満州からの撤退勧告決定を不服として国際連盟から脱退(1933年)した戦前の日本政府の姿とも重なる、と思うのはちょっと思い過ぎだろうか。

思い過ぎであることを祈るが・・・


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