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米国の捕鯨 ペリー提督とジョン万次郎、そして小笠原諸島 -捕鯨 文化と倫理のはざまで(2) [ちょっとこだわる:民俗・文化・紀行・時事など]

前回記事で、日本は「国際捕鯨委員会(IWC)」を脱退して商業捕鯨を今年7月から再開したことを紹介した。

日本の捕鯨に強硬に反対していたのは、米国やオーストラリアなどだが、そもそも反対国の中心的な米国は、捕鯨を一度も行ったことはないのだろうか。

いや、そんなことはない。米国も立派(?)な捕鯨国の時代があった。

その証拠が、米国の作家ハーマン・メルヴィルの『白鯨』だ。
彼が捕鯨船に乗船していたときの体験をもとに創作された、「モビィ・ディック」と呼ばれる白いマッコウクジラと捕鯨船のエイハブ船長との闘争を描いた小説だ。

19世紀には、米国の捕鯨船団が世界中に進出していた。
この米国の捕鯨船の目的は何だったのだろうか。

欧米では、クジラのヒゲは、中世以来女性の下着やコルセットの芯にも使用されてきた。
また、竜涎香(りゅうぜんこう)というマッコウクジラの腸内で生じた結石状の物質は、香料として古来珍重され、高級香水などに使用されてきた。

しかし主目的は、ランプ用の鯨油を得ることで、そのための皮と骨以外の90%を占める肉の部分は海洋投棄されてきた。

それは、日本のような鯨肉などすべてを利用するものではなかった。

なお、鯨肉食の文化は日本だけではなく、エスキモーやイヌイットなど北極地方の先住民族も鯨肉食を伝統文化としている。
このため、捕鯨モラトリアムにおいても「先住民生存捕鯨」として捕鯨が認められている。

いずれにしても日本と欧米の反捕鯨国との対立の根底には、クジラ利用の伝統の差があるのは確かなようだ。


ところで、江戸時代末、米国が鎖国する日本に黒船を派遣して開国を要求したことは、歴史の授業で学ぶところだ。

その開国要求は、単に産品の通商(貿易)のためだけではなく、捕鯨船のための補給基地確保の意味合いも大きかったのだ。
独立後間もない米国では、捕鯨は主要な産業ともなっていた。

日本に開国を迫った人物として知られるペリー提督は、琉球から浦賀へ入港する前に、小笠原諸島の父島に立ち寄って上陸している。

その小笠原諸島には、ペリー上陸以前から、欧米系の人々が住んでいた。
元々は火山活動によって生成した無人島だったが、捕鯨船の補給基地として人々が移住してきたのだ。

そのことを伝え聞いた江戸幕府は危機感を覚え、日本初の太平洋横断を成し遂げた咸臨丸で領土保全のための開拓調査隊を派遣した。

小笠原の父島には、この時に亡くなった乗組員の墓も残っている。

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そして、先住の欧米の人々に日本領土宣言をしたのは、通詞(通訳)として乗船していたジョン万次郎だった。

万次郎は、足摺岬にほど近い現在の高知県土佐清水市中ノ浜の貧しい漁師の家に生まれた。

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岬の先端には、ジョン万次郎の銅像が建っている。

万次郎が14歳の時に乗り込んだカツオ船が、遭難して黒潮に流され、無人島(現在の鳥島)に漂着した。

その万次郎らを救出したのは、太平洋上でマッコウクジラを追いかけていた米国捕鯨船ジョン・ハウランド号のホイットフィールド船長だった。
船長の故郷フェアヘーブン(マサチューセッツ州)で暮らすことになった万次郎は、航海術なども学び、英語も堪能になった。

幼少期に日本を離れた万次郎は、日本への望郷の念が消えることはなく、死罪も覚悟して鎖国政策の国禁を犯して帰国した。

しかし、既に欧米諸国による開国要求などにさらされていた江戸幕府にとっては、万次郎の海外情報と英語能力は、死罪とするにはもったいないものだった。

こうして、上記のとおり、万次郎が咸臨丸で小笠原にまでやって来ることになったのだ。


それにしても「捕鯨」が、江戸末期のペリー提督の開国要求や居酒屋チェーンの名前にまで採用されて有名になったジョン万次郎、そしてそれを結びつける小笠原諸島と繋がるとは、歴史も面白いものだ。

そして、領土問題で揺れる昨今の日本で、江戸幕府による小笠原諸島の領有宣言がなく、そこが米国領となっていたら・・・と思うと、江戸幕府の対応に感心するとともに、歴史も面白いなどと呑気なことは言っていられなくなる。

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