ss 上橋菜穂子『香君』を生物多様性の視点で読んでみた(3) [生物多様性]
このブログでも、人間が一方的に決めつけてしまう雑草などについて取り上げたことがある。
有名なものとして、沖縄のハブ退治のために導入したジャワマングースが、ニワトリなどの家畜・家禽やアマミノクロウサギなど固有種を襲ったり、ボウフラ退治のために導入したカダヤシ(蚊絶やし、タップミノー)が在来種メダカをはじめ稚魚を食べてしまう例などがある。
ss 上橋菜穂子『香君』を生物多様の視点から読んでみた(2) [生物多様性]
作品賞など11部門でアカデミー賞を受賞した映画「タイタニック」(ジェームズ・キャメロン監督、1997年公開)でも、船底の客室でフィドルの演奏に合わせてアイリッシュダンスに興じ、救命艇にも乗船できずに犠牲となったアイルランド移民の姿が描かれている(と記憶しているけど)。
ss 今日はバレンタインデーにつきチョコの話を [生物多様性]
ss 上橋菜穂子『香君』を生物多様性の視点で読んでみた(1) [生物多様性]
上橋さんがインスピレーションを受けたバナナの話に関連する物語と生物多様性の関係については、次回のブログ記事で。
目次は、下の過去記事からどうぞ。
ss 白馬岳で白山の高山植物を鑑賞 植物名に付された山岳名 [生物多様性]
白馬岳で高山植物撮影
北アルプスの白馬岳(2932.3m)に登山した。腰痛起因の大腿部痛をおしての登山のため、大雪渓ルートは避けて、比較的容易な栂池から白馬大池のルートをとった。
さすが天然記念物に指定されるほど高山植物で有名なだけあって、数えきれないくらいの花々。
花だけではなく、ライチョウの親子も。
頻繁に写真を撮るので、行程はゆっくりだ。
若かりし頃の植物写真撮影は、フィルム代や現像代を気にして、構図や被写界深度など慎重に見極めるため、撮影枚数は少なかった。
しかし今では、デジタルでフィルム代もかからないし、最近ではデジカメも持たずにスマホだけ。あとで構図の修正もできる。シャッターを切る数は圧倒的に多い。
それでも、ついつい昔の癖で、構図などを気にしてしまうことも多いし、撮影枚数も若い人に比べれば少ないのでは。
今回はこうしてフィルム代を気にせずに撮影した多くの高山植物の写真から、そのごく一部の「ハクサン」の名を冠した高山植物をご紹介。
その前に、ちょっとご説明・・・・
植物名の分類
かつて私は、約8000種の日本産高等植物(『植物目録』環境庁1987年)名の接頭辞部分を解析・分類したことがある。
その結果は、動植物名、地名、色彩、物品、大小などの形容詞、数字、生育場所など701の接頭辞に分類できた。
その分類の中では、地名に関する接頭辞(227分類、該当する接頭辞が冠された植物1805種)が圧倒的に多く、マツやキクなど植物に関する116分類1165種、オオ(大)やコ(小)、ホソ(細)など形容詞の111分類1912種、イヌやチャボなど動物が59分類337種などと続く。
動物名を冠した高山植物の代表のひとつがコマクサ。花の形状が馬(駒)に似ているからという。今回の白馬岳にも多数が生育。
該当種数の多いものは、なんといってもオオ(大)の262種だ(このうち、オオバ(大葉)が付くのが76種)。オオの次には、ヒメ(姫)の256種、エゾ(蝦夷)200種、ミヤマ(深山)165種といった具合だ。
地名に関するものでは上述のとおり、エゾ(蝦夷、該当植物200種)が圧倒的に多く、ツクシ(筑紫、68種)、リュウキュウ(琉球、67種)、ヤク(シマ)(屋久島、66種)など。
白馬岳にも生育するウルップソウは地名の付された植物名で、その由来は千島列島のウルップ島で最初に発見されたからという。
植物名に付く山岳名
山地・山岳名に関する接頭辞は65分類(392種)で、植物種数の多いものをあげると、イブキ(伊吹山、22種)、フジ(富士山、19種、ただし、植物の藤を由来とするものは除く)、ハクサン(白山、18種)、ハコネ(箱根山、16種)、ニッコウ(日光山、15種)などとなる。
山地・山岳名を冠した植物は、必ずしもその山固有(そこだけに生育)というわけではないが、ウルップソウのように最初に発見された場所として付される場合も多い。
ちなみに、種数1位の伊吹山は、滋賀県と岐阜県にまたがる標高1377mの日本百名山の山地だ。石灰岩地帯特有の植物も多く、牧野富太郎など多くの植物学者により調査されてきたこともあり、イブキを冠する植物名が多い。
その代表のひとつがイブキトラノオ。白馬岳にも多く生育していた。
これは、動物名のトラ(虎)を冠した植物でもある。トラノオ=虎の尾(2023/08/20追記)
白山の名を冠した高山植物
白山は、富士山、立山とともに日本三大霊山といわれている。信仰だけでなく高山植物の宝庫でもあり「花の白山」としても有名だ。
先の分類でも、伊吹山、富士山に次いで第3位の18種の植物名にその名が冠されている。
(以上の植物名の分類と山岳については、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生』(ちくま新書)にも記載されているのでご参照を。拙著の内容・書評は、はてなブログ「『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用」)
ということで、やっと本記事の本題「白馬岳で白山の高山植物を鑑賞」する。お待たせしました。
とはいうものの、今回の登山で写真撮影できたものはわずか3種だけ。
写真を見直していたら、もう1種発見して追加したので4種。(2023/08/20追記)
羊頭狗肉、期待外れはご容赦を!
ハクサンイチゲ(2023/08/20追加)
おまけで、今回の白馬岳ではないけれどハクサンチドリ
(関連ブログ記事)
ss チコちゃんに叱られないよう、雑草について考える! [生物多様性]
先日(2023年5月19日)放映のNHK総合テレビの人気番組「チコちゃんに叱られる!」で、「雑草ってなに?」が取り上げられていた。
チコちゃんに叱られないように、雑草について考えてみたい。
チコちゃんの答えは・・・
「雑草ってなに?」のお答えは、「望まないところに生えているすべての草」とか。
私のブログに興味を持っていただいている読者の方々には、とっくにお分かりのことだろうと思う。
良いものと悪いもの?
前回記事「坂本龍一 街頭音採録の背後には」で、故 坂本龍一氏が、「人間は勝手に、良い音と悪い音に分けている。公平に音を聴いた方が良い」と語っていたことを紹介した。
これに関連して、拙著『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書)からの「害虫と益虫(害獣や雑草とそうでないものなども)の線引きは、人間の一方的な価値判断であり、それも現時点でのものだ。」との私の考えも紹介した。
そう、チコちゃんの答えのとおり!
雑草(害虫なども)は、人間が勝手に役に立たないと考えたり、邪魔だと考えたりしているにすぎないのだ。
そして番組出演者が質問していたが、「同じ草でも、あるところでは雑草で、違うところに生えていたら雑草でなくなることがあるの?」という疑問が当然のごとく湧いてくる。
そのとおり!
同じ草でも、きれいな花が咲くからといって庭に植えていた植物が、繁茂しすぎて邪魔になり、突然に雑草として扱われてしまうことがあるのは、身に覚えのある方も多いだろう。
ドクダミは雑草?薬草?
今は盛りに白い花が咲いているドクダミも、畑や庭、空き地、道端などでは雑草として扱われることが多い。
でも、ドクダミは名無しの雑草ではなく、ちゃんと名前を覚えられているからまだましか?
それもそのはず、ドクダミの独特の臭いの元となるデカノイルアセトアルデヒドの精油成分には殺菌作用もあり、化膿止めや皮膚炎などに効果があるとされている。
ほかにも利尿作用や便秘改善効果、血圧安定効果などもあり、「ドクダミ茶」としても古くから利用されてきた。
江戸時代に貝原益軒の著書である本草学の『大和本草』や寺島良安の類書(百科事典)『和漢三才図絵』などにも薬草としての記載がある。
現在でも、れっきとした薬草で、厚生労働省が発行する「日本薬局方」に「十薬」という生薬名で記載されている。
雑草だけではない!
害虫の蚊やハエも、役に立つことはあるのだ。
ハエの幼虫ウジが化膿して壊死した傷口を食べて、傷の回復を早めることから、チンギス・ハーンが負傷兵士手当のために大量のウジを戦場に運んだり、現代の病院でも使用されていることは、上記の拙著でも紹介したところだ(第3章 便益と倫理を問いなおす 第2節 生物絶滅と人間、「眠れぬ夜にカの根絶を考える」参照)。
多様性と多面性
こうした人間の役に立つかどうか、の前に、害虫や雑草たちも、自然界ではなくてはならない存在でもある。
人間に望まれるかどうか?
そんなの関係ないっ!
蚊やハエが鳥や魚の餌にもなって生態系を支えているのは、わかりやすい例だ。
こうして、あらゆる生物が他の生物と関わり合いながら自然界(生態系)で生きていることこそが、「生物多様性」なのだ。
これは、本ブログの主題のひとつだ。
一方で、前回ブログでも拙著から引用したとおり、「(害虫など)この線引きは、科学技術の進展、生活様式(ライフスタイル)の変化、さらには倫理観の変化などによって、いつ反転してしまうかもわからない」。
この多くの個の存在を認める「多様性」も大事だけれども、ひとつの個も角度によって(見方によって)さまざまな価値や意味を持つ「多面性」(多義性など)も大事かと思う。
このことについても、後日考えてみたい。
多様性と多面性は、自然界・生物だけではなく、人間社会でも真剣に考えてみる必要があるだろう。
拙著目次は下記記事からどうぞ
ss シカの増加はオオカミ絶滅のせい? シカ食害と対策を考える旅路 [生物多様性]
私がかつて(およそ半世紀ほど前)北海道の阿寒湖で仕事をしていた時には、動物の写真を撮りたい一心でエゾシカの姿を求めたが、なかなか目にすることもできなかった。
釧路市に出かけた帰りの夕刻、霧の立ち込めた沿道の牧場で時折数頭のシカを見ることができ、それだけで心躍ったものだ。
しかし最近(といっても5年ほど前)阿寒湖を訪れた際には、平地の牧場では10頭は超えるであろう群れを見ることができたし、山間部のエゾマツの林でもクマザサの林床からシカが頭をもたげているのを何度も目撃できた。
今回は、シカの個体数増加と日光国立公園、尾瀬国立公園での生態系への影響と対策をみてみる。
目次
・シカの増加
・皆伐と温暖化
・シカの食害と対策
・オオカミ再導入?
ss カカオ農家支援の情熱活動 ガーナでチョコの生産販売 [生物多様性]
ss バレンタインチョコとSDGs [生物多様性]
義理チョコ(懐かしい!)からも縁遠くなったけど、今日(2月14日)はバレンタインデー
そこでチョコレートの話をしよう。
と言っても、チョコの美味しさや人気ブランドではなく、チョコをめぐる歴史と植民地化などの国際関係など、いわばチョコレートと生物多様性(生物資源)だ。
最近はバレンタインチョコの選択も、ブランドやデザインなどではなく、SDGsの観点が盛り込まれることが多いと言う。
SDGsについては後日アップとして、まずは
目次
バレンタインデーにちなんでチョコレートの話の続き。
前回に記したように、チョコレートは元々は今と違って飲用だった。
そして、現代のようなチョコレートの形状になったのは、オランダやイギリス、スイスなどの人々の発明と工夫による。
そのチョコレートの原料はカカオ豆で、生産量の第1位はコートジボワール、2位がガーナ、そしてインドネシアが第3位、ナイジェリアが第4位だ(総務省統計局「世界の統計2022」)。
現代ではアフリカの国々でカカオ豆の生産量が多いようだが、そもそもカカオの原産地はどこなのだろうか。
目次
ss オオカミ信仰 関東最強のパワースポット三峯神社 [生物多様性]
「ニホンオオカミは犬との混血?」記事で、三峯神社などでのオオカミ信仰について記事を書くことをお約束してからからほぼ1か月が経ってしまった。
そこで、この記事では、「人間と野生動物」の関係の視点から、オオカミ信仰をみてみよう。そして、三峯神社探訪も。
目次
ss ニホンオオカミは犬との混血? [生物多様性]
NHKテレビ「ダーウィンが来た!」で「解明!本当のニホンオオカミ」(2023/2/19放送)を観た。
120年ほど前に絶滅したニホンオオカミ。残されていた標本は、実はイヌと交雑したものだったと判明した、というものだった。
ss 続 光るメダカで逮捕者 ―遺伝子組換えとカルタヘナ法 [生物多様性]
ss 光るメダカで逮捕者 ―遺伝子組換えとカルタヘナ法 [生物多様性]
遺伝子が組み換えられて体が赤色に光るメダカを違法に飼育するなどしたとして、メダカ販売店経営者など計5人が逮捕されたという(2013年3月8日、警視庁発表)。
カルタヘナ法による国の承認を受けずに、遺伝子組換え生物を飼育・販売などしたもので、同法による逮捕者は初めてだそうだ。
それでは、遺伝子組換え生物とは、そしてカルタヘナ法とは何か、みてみよう。
目次
ブログ再開しました! [生物多様性]
私は15年前から、このブログで、生物多様性、世界遺産・国立公園、巨樹・巨木などについて発信してきました。
ブログ開設の目的の一つが、生物多様性について、多くの人に理解してもらいたいとの思いからでした。
その意義・目的は一定程度達成されたと思います。
一方、ブログ閉鎖後2020年10月には中国の昆明で、COP10で採択された自然共生などの世界目標「愛知目標」を更新して、ポスト2010年目標を採択する予定のCOP15が開催されるはずでした。
しかし、新型コロナ・パンデミックに対する中国のゼロコロナ政策のため、何度も開催延期となり、ついには2022年12月にカナダのモントリオールで開催されました。
モントリオールは条約事務局の所在地ですが、議長国はあくまで中国という変則的なCOP会議でした。
ここで採択されたポスト2010年目標が、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」です。
この2030年までの世界目標は、新聞などマスコミで取り上げられたことは取り上げられましたが、「持続可能な開発目標SDGs」や「地球温暖化=気候変動」などに比べると知名度は圧倒的に低い現状です!
そもそも「生物多様性」自体の知名度が低いのが実情です。またまたヒガミですけど・・・
若者たちも生物多様性保全のための行動を起こしているので、微力ながら応援もしたいとも思いました。
こんなことから、ブログを再開した次第です!
引き続き、よろしくお願いします。
「週刊エコノミスト」の書評に掲載 『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書) [生物多様性]
niceのお返しはしておりませんが(気まぐれでniceつけることもありますが)、ブログは拝見させていただいています。
面白い記事、ためになる記事、癒される記事・・・・
楽しみにしています。
信濃毎日新聞書評ページに掲載 『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書) [生物多様性]
過分なお言葉をいただき、正直なところホッとしております。やはり、評価は気になるところです。
このたび、信濃毎日新聞(2021/2/21付)書評ページの「かばんに一冊」の欄で、拙著が取り上げられました。
要点を捉えたご高評をいただき、筆者として、大変ありがたく、また励みにもなります。
さらに、高校生の国語授業の副読本(問題集)に拙著から引用したいとの申し出(掲載許可申請)を出版社2社からいただいています(それぞれ別ページ)。
著書内容に近い理科や社会科の教材ではなく、国語科ということで、予想外の驚きと嬉しさを感じています。
過分なるご評価を寄せていただいた皆様方にあらためて感謝申し上げたく、ブログに掲載させていただきました。
ちくま新書『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』出版 [生物多様性]
題名は「生物多様性」ですが、自然科学(理科)だけではなく、歴史、地理、政治、経済、社会、倫理、民族など幅広い分野が含まれています。
単なる理論や知識だけではなく、実際の体験や映画などの話題も豊富。
生物多様性を問いなおす
世界・自然・未来との共生とSDGs
著者:高橋 進(著)
レーベル:ちくま新書(1542)
出版社:筑摩書房 (2021/1/10)
新書:286ページ
価格:880円(税込968円)
ISBN : 978-4-480-07365-5
【商品解説】SDGsを見据え、将来世代に引き継ぐべき「三つの共生」とは? 地球公共財をめぐる収奪・独占という利益第一主義を脱し、相利共生を実現する構図を示す。
【「TRC MARC」の商品解説】生物多様性を、「生物資源」と人類の「生存基盤」というふたつの価値と、その両方を統合した「地球公共財」と位置づけて考察。自然共生社会の実現やSDGsを見据え、将来世代に引き継ぐべき「3つの共生」を提起する。
【目次】
プロローグ 混乱の中での問いかけ
第一章 現代に連なる略奪・独占と抵抗
1 植民地と生物資源西洋料理とコロンブスの「発見」/ヨーロッパの覇権/チョウジと東インド会社/プラントハンターと植物園/日本にも来たプラントハンター/日本人が園長―ボゴール植物園物語/ゴムの都の凋落
2 熱帯林を蝕む現代生活そのエビはどこから?/東南アジアのコーヒー栽培/インスタントコーヒーとルアックコーヒー/ほろ苦いチョコレート/日本に流入するパームオイル/地球温暖化と生物多様性/熱帯林の消失
3 先進国・グローバル企業と途上国の対立先住民の知恵とバイオテクノロジー/グローバル企業と生物帝国主義/搾取か利益還元か/農業革命と緑の革命/品種改良と遺伝子組換え/バイオテクノロジー企業の一極支配/途上国と先進国の攻防/生物多様性条約/遺伝子組換え生物の安全性をめぐって/名古屋議定書=生物の遺伝資源利用の国際的ルール/ポスト愛知目標からSDGsへ
第二章 地域社会における軋轢と協調
1 先住民の追放と復権放逐された人々/保護地域の発生/国立公園の誕生と拡散/地域社会との軋轢と協調/先住民への土地返還/排除から協働へ/日本の国立公園は?
2 地域社会と観光植民地とサファリ観光/エコツーリズムの誕生/エコツーリズムと地域振興
3 植民地の残影から脱却するためにインドネシアの国立公園/地域社会と協働管理の胎動/多様な管理実態/エコツーリズムと地域住民
第三章 便益と倫理を問いなおす
1 生きものとの生活と信仰オオカミ信仰/駆逐か共生か/米国の捕鯨と小笠原/捕鯨をめぐる文化と倫理/もののけ姫―森の生きものと人間
2 生物絶滅と人間アイルランドのジャガイモ飢饉/第六の大量絶滅/眠れぬ夜にカの根絶を考える/生物多様性の誕生/キーワードは変遷する/生物多様性が必要な理由/絶滅生物は、炭鉱カナリアでありリベット一つである
第四章 未来との共生は可能か
1 過去から次世代への継承自然の聖地/世界遺産富士山/植物名と山岳信仰/現代に蘇る聖なる山/国境を越えた国際平和公園/悠久の時を生きる巨樹/巨樹―未来への継承
2 持続可能な開発援助とSDGs地域住民と連携した熱帯林研究/持続可能な国際開発援助/コスタリカの挑戦/SDGsの系譜/「環境の炎」が「開発の波」に打ち消される/生物多様性とSDGs
終 章 ボーダーを超えた三つの「共生」
世界・自然・未来との共生を目指して/生物多様性保全の二つのアプローチ/第三のアプローチ/「全地球的」問題か、「一地域の」問題か/「資源ナショナリズム」か、「地球公共財」か/生きとし生けるものへの眼差しの変化/人間は自然の「支配者」ではなく、「一員」である/三つの共生
エピローグ 幸せの国から
参考文献
青いバラ ― 品種改良と遺伝子組換え [生物多様性]
それぞれのバラには、その姿を彷彿とさせるような素晴らしい名前も命名されていた。
「プリンセス・ミチコ」など、皇室3代の女性たち、ミチコ、マサコ、アイコのそれぞれの名が付いたバラもあった。
バラにこれら多くの種類があるのは、古今東西の園芸家たちが丹精を込めて、長い月日をかけて、品種改良してきた結果だ。
園内では、愛好家グループによる自慢のバラの展示会も催されていた。
そこで展示即売されていた「ラプソディ・イン・ブルー」という名のバラを買った。
家に帰ってきてよく見ると、花の色はどちらかといえば紫色で、名前ほどの青ではないが、やはり展示されていた他のバラの色に比べると珍しい感じがした。
なんでも、バラには青の色素はなく、青いバラの誕生は世界のバラ愛好家の夢だったそうだ。
英語で「青いバラ(Blue Rose)」は、不可能(存在しないもの)の意味も持つほどだったとか。
私が買い求めた「ラプソディ・イン・ブルー」など、一見青いバラのように見えるのも、赤い色素を抜いて青に近づけていったようだ。
このように、バラなどの園芸植物は、昔から「品種改良」が重ねられて、多くの品種が作られてきた。
品種改良は、人間にとって好ましい形態や性質などを持つ個体同士を繰り返して交配させて理想形に近づけていく方法で、園芸植物や農作物、家畜などでは盛んに行われてきた。
1940年代から60年代にかけて世界各地で行われた「緑の革命」は、穀物やジャガイモなどの高収量品種を導入して飢饉を救おうとする農業革命だ。
これを主導したノーマン・ボーローグ博士は、1970年にノーベル平和賞も受賞している。
これらの「品種改良」は、人工的に受粉などを繰り返すなど、自然界では起こりえないことではあるが、原理は「自然の摂理」、すなわち受粉や受精によるものだ。
一方、「青いバラ」の誕生は、従来の品種改良ではなく、「遺伝子組換え」によるものだ。
青いバラを開発したサントリー(「青いバラ」への挑戦)によれば、青色の色素をもった植物の中から青色遺伝子を取り出して、バラに導入したそうだ。
ペチュニアやパンジーの青色遺伝子を導入したバラが咲いたが、残念ながら花は赤色や黒ずんだ赤色。
その後も、試行錯誤を繰り返し、2004年に「青いバラ」の開発に成功したという。1990年のプロジェクト開始から実に15年近くの歳月を要したことになる。
その過程では、青いバラよりも一足早く青いカーネーションの誕生に成功した。「ムーンダスト」と名付けられた青色カーネーションは、世界で最初の遺伝子組換えによる花きの商業化となった。
さらに販売までには、もう一つのハードルがある。
遺伝子組換えによる生物(GMO、あるいはLMOという)が生態系などに影響を及ぼさないことを実証して、「カルタヘナ法」による認可を得なければならない。
「カルタヘナ法」は、生物多様性条約に基づく「カルタヘナ議定書」の国内法だが、詳細は本ブログ記事「遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)」および「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって」を参照願いたい。
園芸品種や農作物などでは、今や従来型の「品種改良」よりも「遺伝子組換え」による新品種の開発が幅をきかせている。
自然の摂理の上に立った「品種改良」から、「遺伝子組換え」という神の領域にまで足を踏み込んだ人間の行く末は?
別に私は有神論者でもないし、バイオテクノロジーを否定するわけでもないけれど、自然界を我が物顔で支配するかの如く奢り高ぶった人間の未来には警戒せざるを得ない。
どこかの総理大臣もだけどね。
【本ブログ内関連記事リンク】
大船植物園 満開のバラとシャクヤク
青いケシの花に誘われて
アジサイとシーボルト そしてプラントハンターと植物園
遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)
MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって
名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)
日本もトランプの自国第一主義? 名古屋議定書パブリックコメント開始 [生物多様性]
本ブログの更新は、せいぜい週一でしたが、このところ
ブログネタがなくなり、また大学稼業では試験など何かと多忙な時期でもあり、
ブログ更新が滞ってしまいました。
ところで、
連日のように、トランプ米国大統領の言動が世界中の話題になっている。
特定国からの移民・難民の入国禁止措置などは、反対陣営だけではなく、英国など同盟国首脳や連邦裁判所などからも反対意見が続出している。
安倍首相は、国会論戦でも明確な反対意見は表明しないようだけれども。
TPPなど経済政策では特に「アメリカ第一主義」が際立っている。
自国の経済を優先するあまり、地球温暖化の「パリ協定」からの離脱も表明している。(地球環境と一国至上主義 (その1) 気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって)
でも、これも今回が初めてではない。
かつての「京都議定書」でも当時のブッシュ大統領は、大統領就任直後に議定書から離脱してしまった。
やっと米国も参加する枠組み「パリ協定」が締結されたとたんに、またこの騒動だ。
「生物多様性条約」に至っては、米国は締結(批准)さえもしていない。
製薬業や食品業において、生物資源の利用や遺伝子組み換えに制限がかかるのを嫌がってのことだ。(地球環境と一国至上主義(その2) 生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって)
この途上国などに産する生物資源(遺伝資源)の利用とそれから生じた私益配分のルールを定めたのが「名古屋議定書」だ。
名前から分かるとおり、2010年に名古屋で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」で採択されたものだ。
この議定書は、世界各国の批准を経て、2014年から発効している。
しかし、議定書採択の舞台となり、議長国として取りまとめの中心となったはずの日本は、未だに名古屋議定書を批准していない。
産業界の懸念やそれを受けた関係省庁などの意見がまとまらず、国内での実施ルール作りが進まなかったからだ。
まさに生物多様性条約を批准しない米国と同じと言われても仕方ない!!??
トランプ大統領の移民・難民政策に明確な反対を唱えない日本は、米国追随と思われても仕方ない!!??
それでもやっと、名古屋議定書国内措置に関する指針案が策定され、本年1月20日からパブリックコメント(意見募集)が開始されるまでに至った。
これまで本ブログで何度も取り上げた「名古屋議定書」だけれども、早く批准をしてブログネタにならないようになってほしい!?
1月20日のパブコメ開始で、繰り返しの内容ではありますが、なんとか記事更新ができてホッと一息。
次回はいつ????
また、しばらくお休みさせていただくかも・・・・
【本ブログ内関連記事リンク】
偉大な英国、強大な米国? ― 英米の選挙に思う一国至上主義の復活と環境問題
地球環境と一国至上主義 (その1) 気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって
地球環境と一国至上主義(その2) 生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって
「シーボルト展」をハシゴ ― 日本に魅せられた男の驚異的な日本収集
選挙と生物多様性
名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)
キリンが絶滅!!? [生物多様性]
「キリンが絶滅するかもしれない!」というショッキングなニュースが、数日前のニュースで流れた。
ご存知の方も多いだろう。
メキシコのカンクンで開催されている生物多様性条約第13回締約国会議(CBD-COP13)で、国際自然保護連合(IUCN)が8日に発表した絶滅危惧種リスト(レッドリスト)の最新版に、キリンが絶滅危惧種(絶滅危惧2類)として追加されたものだ。
動物園の人気者パンダが絶滅危惧種なのは誰でも知っているだろうが、キリンもとはね~
私も、今回のニュースで初めて知った。
小さなころから動物園で馴染んでいたキリンだが、初めて野生のキリンを見たのは、ケニアのナイロビ国立公園だった。
ニュース記事によれば、30年前の1985年には15万5000頭はいたのが、2015年には9万700頭にまで減少したと推定されている。
アフリカのサバンナ草原の農業開発などによる生息地の縮小や密猟、そして戦乱などが生息数減少の原因という。
一方で、アフリカ南部では観光用の自然保護区などキリンの生息数は増加しているともいう。
実際、南アフリカのクルーガー国立公園では、ライオン、ゾウ、インパラ、イボイノシシなどたくさんの動物とともに、キリンも見ることができた。
それだけではない。
肉屋の店頭でも、キリンの肉が売られているのだ!!
上↑の写真は、ブッシュ・ミートといって、野生動物の肉を販売している専門店の店頭だ。
日本でも最近はジビエといって、狩猟した動物の肉を食用にすることが、有害獣駆除の推進の上からも流行っている。
アフリカでは、草原を駆け回る動物を追って、それを食肉とすることは人類誕生からずっと行ってきたことだ。
店頭の肉が、本物の野生動物か、牧場のような所で増殖された、いわば家畜かは不明だけれど・・・
それにしても、多くの子どもたちが縫いぐるみで、そして動物園で慣れ親しんできたキリンが、ジャイアントパンダのように特定の動物園でしか見ることができなくなるとは、考えたくな~い。
そのためには、アフリカの人々の貧困、そして何よりも内乱の根絶を達成しないとね。
【本ブログ内関連記事リンク】
サファリの王国と地域社会 -国立公園 人と自然(番外編3) クルーガー国立公園(南アフリカ共和国)
インドネシアで蚊の絶滅について考える -生物多様性の倫理学
遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)
愛知ターゲット 保護地域でなぜ対立するのか -COP10の背景と課題(4)
COP10閉幕と記事の流行 -私的新聞時評
アクセスの多い「名古屋COP10成果」ブログ記事
オオカミ復活!? - シカの増加と生態系かく乱を考える
三峯神社 狼伝説と関東最強パワースポット ー 秩父の神社と巨樹(1)
「シーボルト展」をハシゴ ― 日本に魅せられた男の驚異的な日本収集 [生物多様性]
前者の日本博物館展覧会は、夏から国立歴史民俗博物館(千葉県)でも開催されていて、行ってみたいと思っていたけど結局行くことができなかった。
11月6日までの江戸東京博物館(東京都)での会期を逃すと、その後は西日本方面の巡回となってしまうので、会期末ギリギリのところで観覧した。
シーボルトは、ご存じのとおり江戸末期に長崎出島に来日した人物で、日本に近代西洋医学を伝えたほか、伊能忠敬の日本地図を国外に持ち出そうとしたシーボルト事件で有名だ。
シーボルトはドイツ人医師だが、自然史研究を行うためにオランダ陸軍の募集に応じて、当時のオランダ領東インド(現、インドネシア)で勤務の後、出島オランダ商館付の医官として1823年に来日した。
日本はまだ江戸時代で鎖国中だったから、オランダ軍軍医となったことが、結果として日本との結びつきのきっかけになった。
来日したシーボルトは、日本そのものに魅せられたようだ。
長崎での滞在中、そして商館長の江戸参府への随行としての道中、各所で自分自身、あるいは日本人協力者により、ありとあらゆる自然や文物を収集し、あるいは自然・文物のほか生活の様子などを絵に描かせた。
オランダに帰国したシーボルトは、愛する日本の理解をヨーロッパでも深めるために、収集物を展示した「日本博物館」設立を構想して、各方面にその実現を働きかけた。
展示会は実現したものの、日本博物館の設立は実現しなかったという。
今回の展示品は、シーボルトが夢見た日本博物館への展示予定品の一部というが、動植物の標本・スケッチから絵画、漆器、仏像などの美術・工芸品、生活用具、人々の生活のスケッチなどなど、膨大なものだ。
展示品は撮影禁止のため、写真でご覧いただけないのが残念だ(カタログは購入したけどネ)。
もっとも、数が多すぎて、とてもブログ記事では紹介できない・・・。
この後、長崎、名古屋、大阪を巡回するそうなので、関心のある方は展覧会へどうぞ。
江戸東京博物館のシーボルト展の後、上野の国立科学博物館で開催されているシーボルトの標本展をハシゴした。
膨大な日本の文物を収集したシーボルトだが、彼の日本滞在の当初の目的は、医者としての診療とともに、日本の自然の科学的調査だった。
シーボルトが収集した動植物の標本、スケッチ画、鉱物標本などは、多くがオランダに送られ、現在でもライデン国立植物標本館などに保管されている。
その標本などをもとに著されたのが『日本植物誌』、『日本動物誌』などだ。
その実物が国立科学博物館と前述の江戸東京博物館のシーボルト展に展示されていた。
私も写真では見たことがあったが、実物を見るのは初めてで、その大きさ(およそ40㎝x30㎝)には驚いた。
ライデンに保存されていた標本のうち、複数あるものが日本に返還されたその一つだ。
長崎で出会った日本の娘、タキを愛し、発見したアジサイの学名として「オタクサ」を付した。つまり、「おタキさん」のなまりという。
ちなみに、タキとの間の愛娘イネは、西洋医学を学んだ日本最初の女医としても有名だ。
シーボルトによりヨーロッパにもたらされたアジサイやヤマユリなどは、ヨーロッパにはない珍しい植物として、上流階級にもてはやされた。
ヨーロッパ産のユリの花は小型なため、日本産の美しく大きな花をも持つユリ、中でもカノコユリは絶賛されたという。
このように、当時のヨーロッパ貴族階級では園芸ブームが起きており、東洋やアメリカ新世界などの珍しい植物を売り込んで一獲千金をもくろむ者も多かった。
彼らを「プラントハンター」と呼ぶが、シーボルトも結果としてその一翼を担ったともいえよう。
シーボルトなどによりヨーロッパにもたらされたアジサイやユリなどは、その後に園芸植物として品種改良されて、日本に逆輸入されている。
江戸時代には、シーボルトほかにも、ケンペル、ツンベルク、フォーチュンなどが動植物の標本類をヨーロッパにもたらした。
→ ブログ記事「アジサイとシーボルト そしてプラントハンターと植物園」
シーボルト尽くしの秋の一日を楽しんだ。
ちなみに、昼食は江戸東京博物館のある両国で、ちゃんこ鍋を味わった。
【緊急追伸】
このところ、世界は米国次期大統領に決まったトランプ氏の話題で持ちきりだ。
まさにトランプ旋風だが、本ブログの主要テーマでもある環境、人と自然との関係への影響もいろいろと出てきそうだ。
その第一が、地球温暖化防止のための世界の枠組み「パリ協定」からの離脱だ。
生物多様性条約をめぐる自然資源の利用と利益配分にも、依然として参加の見込みはないだろう。
グローバル企業寄りとも思えるその政策は、かつてのブッシュ親子大統領の時代を彷彿とさせる。
米国追随政策が多い日本(TPPだけは別?)の、このところの世界への対処も気がかりなところだ。
トランプ次期米国大統領のこれまでの言動が、単に選挙用だったのかどうか私には判断できない。
ただ、トランプショックで世界の環境や生活が台無しになるのだけは御免だ。
【本ブログ内関連記事リンク】
アジサイとシーボルト そしてプラントハンターと植物園
花菜ガーデンのユリ
生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
(緊急追伸関連)
偉大な英国、強大な米国? ― 英米の選挙に思う一国至上主義の復活と環境問題
地球環境と一国至上主義(その2) 生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって
地球環境と一国至上主義 (その1) 気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって
地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その2 なぜ歴史的合意か
地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その1 条約採択と京都議定書
見返りを求める援助 求めない援助
そのチョコレートはどこから? [生物多様性]
そんなものには縁遠かったが、バレンタインデー前日の土曜日に、3月に出かける海外調査(マレーシアのボルネオ島・サラワク州)の航空券手配に行った近所の旅行社の女性社員(女性二人だけの営業所)からチョコをもらった↓。
もちろん義理チョコ(?)、というより営業アイテムだが、何となく心はホンワカと!!
そこで遅ればせながら、バレンタインデーにつきもののチョコレートの話題。
チョコレートの原料はカカオ豆だ。
カカオの実は、幹から直接垂れ下がったように付いている。
熟れたカカオの赤黒い実を割ると、中には白い果肉が20~30個ほど。
ほのかな甘さの果肉を食べた後、種子を捨てないように農園主に諭された。
カカオ豆は、この種子のことだ。
これが、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。
写真↓は、白い果肉とカカオ豆の断面(紫色のもの)。
チョコレートにポリフェノールが豊富な理由は、この辺にありそうだ。
カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。
少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。
現在ではジャングルの中に埋没しているマヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ、ユカタン半島)。
ここでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。
そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたようだ。
そのラテンアメリカも、コロンブス以降の大航海時代には、スペイン人などに征服された。
チョコレートを既に造っていたマヤの帝国や広大な領土を南米に広げた(←追加修正しました2016/02/21)インカの大帝国も、スペイン人などの征服者によって破壊され、滅ぼされた。
インカ帝国の首都クスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。
路地の奥には、観光名所ともなっている12角の石組みが
そして、トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。
現在のようなチョコレートの製造法は、オランダのバンホーテン社が19世紀に開発した。
しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。
カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカにはヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。
農園といっても、カカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。
その後、ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。
新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。
19世紀の帝国主義の時代、チョコレートを巡ってもヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたのだ。
現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴ、ルワンダなど)を獲得した国の一つだ。
日本のチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、ヨーロッパ列強の植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。
ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。
オランダの植民地となったインドネシアは、現在ではガーナに次いで世界第3位のカカオ豆生産国となっている。
中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。
しかし、世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。
その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。
また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。
ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。
バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案したとの説が有力だ。
企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、途上国の人々の生活も翻弄されていると思うと、何やら複雑な思いだ。
もっとも、販促は今に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンは、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。
でも、これによる大量消費(だけではないが)で、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんも罪深い?
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「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)」
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「金と同じ高価な香辛料」
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「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」
「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」
「一番人気の世界遺産 空中都市 マチュピチュ」
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地球環境と一国至上主義(その2) 生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって [生物多様性]
その際に署名開放された二つの条約は、「双子の条約」とも称される。
国連気候変動枠組条約と生物多様性条約だ。
双子の条約というものの、単に同時期に誕生しただけではない。
前回ブログ記事で取り上げたような、産業経済を優先する米国の対応、そして、日本で生まれた議定書に参加しない日本政府の状況まで、そっくりだ。
今回の生物多様性条約の目的は、①生物多様性の保全、②生物資源の持続可能な利用、③利用から生じる利益の衡平な配分、の3点だ。
条約作成過程では、大航海時代以降の西欧の植民地主義・帝国主義による生物資源搾取の歴史から、途上国によって先進国に対する様々な主張がなされた。資源原産国としての認知と尊重、資源利用への対価、技術移転と資金援助、遺伝子組換え生物の安全性などだ。(生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで)
(インドネシア・スマトラ島にて)
これに対し、農産物改良や新薬発見のために新たな生物資源を探査・利用したい多国籍企業などの意向も受けた先進国は、無制限の技術移転やその際の知的財産権侵害などに懸念を示し、知的財産権の確保などを主張した。いわゆる南北対立だ。
この結果として途上国の主張を取り入れて、利益の衡平な配分やバイオテクノロジーの安全性などが条文に盛り込まれた。(ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2))
生物多様性の保全に関しては異議もなく、むしろ条約制定を推進してきた米国だったが、途上国の主張を取り入れた妥協の条文となって、雲行きも怪しくなってきた。
当時の米国大統領は、共和党のパパ・ブッシュ(ジョージ・H・W・ブッシュ)だ。
産業経済界からの要請を受けた議会に押されて、京都議定書から離脱したあのブッシュ大統領の父親だ。(地球環境と一国至上主義 (その1))
ブッシュ大統領は、結局、リオ・サミット期間中に157か国が署名した生物多様性条約に署名さえもしなかった(気候変動枠組条約には署名)。
後に、民主党のクリントン大統領は署名はしたものの、やはり議会の圧力に屈して、批准はできなかった。
現在でも、米国は生物多様性条約を認めておらず、したがって条約の締約国会議(COP)にも正式参加できない状態だ。
その後のCOPで条約実施の具体策などを示す議定書が討議され、遺伝子組換え生物の扱いなどについては「カルタヘナ議定書」が採択(2000年)された。(MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって)
この議定書の補完と、生物資源利用のルール(遺伝資源へのアクセスと利益配分 ABS)についての議定書策定が、2010年に名古屋で開催されたCOP10で議論された。
最終日までもつれ込んだが、何とかABSは「名古屋議定書」として採択された。(名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3))(カルタヘナ議定書の補完は、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」として、先立つMOP5で採択された)
日本にとっても、途上国に存する生物資源の利用は不可欠だが、現代ではかつての植民地時代のように自由に持ち出すことはできない。
そのためのルールを定めたのが「名古屋議定書」で、資源原産国の途上国はもちろん、EUなど多くの先進国の締結により、2014年に発効している。
議定書締結国の先進国企業などは、途上国資源利用に際しては、対価を支払う必要が生じる。
しかし、負担増を懸念する日本の産業経済界は、名古屋議定書の批准(締結)に慎重であり、いまだに締結の目途は立っていない。
まさに、条約そのものを締結していない米国に何と類似してきたことか。
そして、日本で誕生した名古屋議定書を批准しないのは、日本で生まれた京都議定書の延長を認めなかったのと何と類似していることか。(地球環境と一国至上主義 (その1))
まあ、生物多様性条約を批准(締結)しているだけ、米国よりもまだましか?!
富士山と箱根が「富士箱根国立公園」に指定されて、今月は80周年。
その記念に依頼された原稿をやっと書き終えて、ブログ更新の余裕もできました(^_^)
【本ブログ内関連記事リンク】
「地球温暖化と生物多様性」
「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」
「ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)」
「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)」
「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって」
「遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)」
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上記ブログ記事の生物多様性条約の成立と南北対立を詳しく、わかりやすく解説。
そのほか、生物多様性と私たちの生活、さらに生物資源の伝播など本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。おかげさまで第2刷。
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生物多様性とは何か。生物多様性保全の必要性、これからの社会を持続するための「種類を越えた共生」「地域を越えた共生」「時間を越えた共生」の3つの共生など。
世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
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オオカミ復活!? - シカの増加と生態系かく乱を考える [生物多様性]
その団体の名は、「一般社団法人 日本オオカミ協会」で、機関誌は「フォレスト・コール」という。
この団体では、日本では絶滅したオオカミを復活させ、シカの林木被害などで荒れている森の生態系を復活させようとしているそうで、昨年には「日米独オオカミシンポ2015」を開催した。
本州・九州・四国に生息していたニホンオオカミは、明治末期に奈良県吉野の山中で捕獲されたのを最後に絶滅したといわれている。北海道でも、明治開拓以降にエゾオオカミが絶滅した。
ニホンオオカミが最後に捕獲された紀伊半島山間部には現在でもオオカミが生息している、ということを信じている人々がいるのが、時々テレビ番組で取り上げられたりもする。
オオカミ絶滅の原因には、毛皮採取のため、家畜を襲う害獣駆除のため、ジステンバーなど伝染病のため、森林開発による生息地縮小などのため、などいくつかの原因があげられる。ひとつの原因ではなく、これらの複合と考えるのが適当だろう。
オオカミなどの肉食動物(消費者)が草食動物を食べ、その草食動物は草などの植物(生産者)を食べ、そして肉食動物の死骸は土壌生物など(分解者)によって植物の栄養となる。これを「食物連鎖」というのは、生物の教科書などでもおなじみの図だ。
食物連鎖が循環的とすると、上下の垂直的にみたものに「生態系ピラミッド」がある。底辺を構成する多くの生物の栄養をより高次の生物が消費し、段階が上がるにつれて個体数も少なくなることから、これをピラミッド状の三角形で図示したものだ。
かつての日本では、オオカミが生態系ピラミッドの頂点に君臨していた。
そのオオカミの絶滅によって、森林では生態系も大きく変化した。
その象徴的な現象が、シカの個体数増加、分布域拡大と林木食害の増大だろう。
近年のシカの増加には、地球温暖化による降雪量減少の結果、冬期でも雪に足を取られることなく移動することができ、また餌となる植物も豊富であることなどの影響が大きい。
しかし、天敵であるオオカミの絶滅も無関係ではないだろう。
温暖化の影響でシカが増加しても、天敵の存在があれば、一定の個体数コントロールがなされるはずだ。
こうして個体数が増加し、冬期には比較的雪の少ない平地に移動するシカの群れによって、日本各地で林木の樹皮食害による枯死や高山植物などの食害が問題となっている。
日光国立公園では、有名な霧降高原のニッコウキスゲの大群落がシカの食害で絶滅寸前になってしまった。群落全体をネットで囲んだり、シカを追い払ったりと、絶滅を回避するための努力が続けられている。
戦場ヶ原でも、特別保護地区の戦場ヶ原にシカが侵入し、貴重な高山植物などを食べ荒らしている。
このため、シカが侵入しないように、戦場ヶ原全体をネットで囲んでいる。
ネットの外側(戦場ヶ原の周囲)(↓写真の上側)は、シカによって林床の草が食われて裸地になっている。
それに対して、内側(戦場ヶ原側)(↓写真の手前)は、シカに食われないために緑が残っている。
その差は歴然としている。
しかし、ネットの破れ目などからシカが戦場ヶ原内に侵入することがある。
餌としての草の少ない時期には、シカは下あごの歯で樹木の樹皮を下からめくりあげて食べる。
周囲すべての樹皮を剥がされた樹木は、栄養や水分の移動ができなくなり枯死する。
樹皮の食害防止のためには、幹にネットを巻き付ける。
尾瀬でも、やはりシカによる貴重な植物の食害が問題となっている。
ニッコウキスゲなどは食べられてしまうが、一方で毒素があるといわれるコバイケイソウはシカが食べずに繁茂している。
シカが尾瀬沼や尾瀬ヶ原に侵入しないように、周囲をネットで囲い、登山道にはシカのヒズメが滑って侵入しにくくするための鉄板(グレーチング)が設置されている。
シカも高山植物を絶滅させようとしているわけではなく、生きるために餌としているだけなのだ。
小鹿のバンビはかわいいが、高山植物や林木に被害が出ると目の敵にするのも可哀そうな気がするけど・・・人間の身勝手さか。
前述の団体では、こうした生態系の管理のためにも、オオカミ復活が必要だと主張している。
実際、世界で最初の国立公園のイエローストーン国立公園(米国)のオオカミ再導入は、生態系管理の実験としても有名だ。
家畜を襲うとして駆除されて絶滅したオオカミを、カナダから再導入して復活させ、増えすぎたエルク(シカ)による生態系の荒廃から再生しようとしている。
ドイツなどヨーロッパ各地でも、オオカミの復活が実現しているという。
ニホンオオカミ協会会長の丸山直樹さん(東京農工大学名誉教授)によれば、日本のオオカミはアジア大陸のオオカミと同種であり、導入しても外来種による遺伝子攪乱には該当しないという。また、意外と臆病で人間を襲うこともほとんどなく、日本の家畜飼育状況では家畜を襲うことも考えられないという。
オオカミは、生態系の食物連鎖の頂点に君臨する肉食動物だが、人間との接触も古く、前回ブログ記事(中国文明と縄文文化 - 兵馬俑展と三内丸山、登呂遺跡)の縄文時代には、既にオオカミを飼い慣らした縄文犬と呼ばれるイヌが家畜(狩猟犬、ペット)として飼育されていたそうだ。
(縄文犬ではない、ただの雑種、2008年に17歳で死亡)
また、古代から信仰の対象ともなり、オオカミの名は大神から由来したとする説もあるくらいだ。
奥多摩の御岳神社(東京都青梅市)では、魔除けや獣害除けの霊験として信仰されていた。
古代から人間と共生してきたオオカミ。
その関係が狂ったのはいつからだろうか。
今年の「全国巨木フォーラム」は、狼信仰の中心でもある三峯神社のある埼玉県秩父市で10月に開催される。
単なるロマンチシズムでは無責任になるが、科学的な根拠をもってオオカミ復活について考えてみるのも悪くはない?!
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「原始信仰と世界遺産の原生林 -国立公園 人と自然(9) 吉野熊野国立公園」
「夏の思い出 - 久しぶりの尾瀬訪問」
「自然保護の原点 古くて新しい憧れの国立公園 -国立公園 人と自然(19)尾瀬国立公園」
「『米国型国立公園』の誕生秘話」
「中国文明と縄文文化 - 兵馬俑展と三内丸山、登呂遺跡」
「巨木フォーラム in小豆島 (1)」
アジサイとシーボルト そしてプラントハンターと植物園 [生物多様性]
関東地方にも、しばらく前に梅雨入り宣言があった。この季節というと、何といってもアジサイだ。ブログにもアジサイが花盛りだ。
わが家の庭にも、ごく普通のアジサイがあるが、株ごとに色が違う。
一番好きな色は青。 「ヒマラヤの青いケシ」と同じだ。
それぞれの色のアジサイだが、咲くにしたがって微妙に色が変わっていくところがまた良い。
そんなところから、花言葉は「移り気」とか。アジサイには可哀そう?
アジサイと言えば、シーボルトを思い出す。
シーボルトは、江戸時代末期に来日したドイツ人医師で、日本ではほとんどの人が名前を知っているくらいの有名人だ。
鎖国中の日本では、オランダ商館付医師として長崎出島に居住し、日本人に西洋医学を広めた。
長崎で出会った日本人女性「滝」を愛し、日本で採取した新種植物に「オタクサ」の名を付けた。
この植物こそ日本が原産の「アジサイ」であり、「オタクサ」は「お滝さん」から由来していると言われている。
シーボルトは、アジサイのほかにも多くの植物や動物を採取し、その標本をオランダなどに送っている。その標本類は、現在でもオランダの国立植物学博物館ライデン大学分館などに保存されている。
帰国後は、『日本植物誌』や『日本動物誌』を著して、日本の自然を広くヨーロッパに紹介した。自然だけではなく、伊能忠敬の日本地図を持ち出そうとしたシーボルト事件でも有名だ。
シーボルトの来日に先立つこと約130年前には、同じくドイツ人のケンペルが来日して、日本中を調査して『日本誌』を著し、特に多くの日本の植物をヨーロッパに紹介した。
シーボルトも、ケンペルも、そして両者の間に来日したツンベルク(ツェンベリー)(スウェーデン人)も、ともに医師であり、博物学者でもあった。
日本国内での移動は厳しく制限されていたが、商館長の江戸参府の際には書記とともに随行を認められた医師として、長崎から江戸までの旅をすることができた。
彼らは、途中の箱根などで多くの動植物を採集した。ハコネサンショウウオやハコネグサなど、彼らによって新種として命名されたものも多い。
このように、世界各地で植物を探検し、ヨーロッパに導入した人々を「プラントハンター」と呼ぶ。
もともとは、園芸ブームで希少品種を金に糸目もつけずに買い込むヨーロッパ貴婦人に、新大陸などの珍しい植物を売り込んで一攫千金を目論んだ人々の呼称だった。
日本原産のアジサイも、シーボルトらによってヨーロッパに持ち込まれ、その後品種改良されて園芸品種として逆輸入されているという。
プラントハンターは、園芸植物だけではなく、その後は医薬品の原材料探索などにも関わり、生物多様性条約では遺伝資源の利用などの南北対立の源ともなった。
プラントハンターが採取した植物の中継・順化の基地となったのが植物園であり、イギリスの王立キュー植物園(キュー・ガーデン)はそのネットワークの中心だった。
これらについては、別の機会に紹介しよう。
下記↓の拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店)では、シーボルトも含めたプラントハンターや植物園、さらに生物資源の伝播と南北対立などを紹介しています。
【本ブログ内関連記事】
「青いケシの花に誘われて」
「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」
「ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)」
「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)」
「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」
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世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
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『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係
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青いケシの花に誘われて [生物多様性]
大涌谷の噴気活動警戒の影響か、土曜日というのになんとなく箱根の人出は少ない気がする。
園内に入ると早速、鉢植えの青いケシ(ブルーポピー)がお出迎え。なんと園内には1,000株が鉢や直植えで展示されているという。
ネパールやブータン、チベット、雲南などヒマラヤの標高およそ3000~5000mの高山に産して、何種かあるみたいだ。展示でもピンクなど色変わりもあった。
昨年に訪問したブータンの国花でもある。残念ながら見ることはできなかったけれど。
園内には、青いケシのほか、思いのほか多くの花が咲いていて、それはそれは美しかった。
花の写真もたくさん撮ったが、ほんのいくつかをご紹介。
湿生花園では、毎年、青いケシ展を開催しているが、ケシの花はその都度買い入れているという。
ケシだけではなく、ミズバショウは新潟県からなど、ほとんどの植物を現地から補充しているというから、裏方も大変だ。
ところでつい先日、水族館でのイルカ展示でのニュースがあった。和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁で捕獲されたイルカを買い入れている施設が会員の日本の動物園水族館協会を国際組織の世界動物園水族館協会が除名すると通告したものだ。
それに対して、日本動物園水族館協会では、追い込み漁のイルカの購入は中止し、国際組織に残留する決定をしたという。
最近では生態展示などのようにずいぶんと改善したが、入手方法だけではなく、見世物になっている動物にも思いやるべきだという動物解放論も提起されている。
植物園でも、同じような問題が起きないとは限らない。かつての大航海時代などには、プラントハンターと呼ばれる人々が、世界中から珍しい野生植物をかき集めてヨーロッパ貴族に売りつけたりしていた。
ヒマラヤ地方から入手されたという青いケシの花を見て感動している自分。野生のものではなく、人工的に繁殖・栽培されたものを入手していると信じたい。
(補注)
植物園や動物園・水族館などで野生生物を展示・繁殖することは、単なる見世物というより、学習上あるいは絶滅危惧生物の保護上も必要なものだ。
生物多様性条約では、自然状態での保護(生息域内保全)とともに、人工的管理下での保全や繁殖(生息域外保全)の必要性が規定されている。
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「プラントハンター」や「生物多様性条約」(生息域内保全と生息域外保全を含む)、「動物解放論」、「自然保護の必要性」など、本記事にも関連する内容も豊富。
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生物多様性とは何か。生物多様性保全の必要性、これからの社会を持続するための3つの共生など。
世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
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『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係
インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3
対立を超えて ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4
目立たない花 [生物多様性]
この季節、多くのブログに美しい花々が咲き乱れている。
天邪鬼というわけではないが、「目立たない花」が気になった。
「目立たない花」の定義があるわけではないけれど、①小さな花、②緑色など葉や茎と区別しにくいもの、といったところだろうか。
別に目立たない花のコレクションをしているわけでもないが、ここ数日の散歩の途中や勤務先構内でたまたま出会ったいくつかの目立たない花々。
スマホで撮ったけれども、小さな花にはピント合わせが難しくて。それに花の盛りも早すぎたり、逆に過ぎていたりして・・・
秋には赤く目立つ実を付けるカキも、花は地味だ
秋を彩るカエデの花も小さく目立たない
ドングリのなるカシ類の花も、一つ一つは目立たない(特に雌花序)が、穂状に集まって垂れる(雄花序)と結構目立つ
カラスノエンドウは紅のかわいい花。花の色は目立つが、小さくて
イネ科の花は、緑色でどれも目立たない
腐生植物オニノヤガラの一つ一つ花は小さくて茶色で目立たないけれど、総状に集まった姿は春の緑の中では異様に目立つ
生物多様性の世界では、たとえば食物連鎖として知られているとおり、どんな生物種でも、生態系全体にとっては不可欠だということを教えてくれている。
目立たない花でも、精一杯生きているのには変わりない。花の価値に違いはないはずだ。
美しい花を愛でるのは、人間が勝手に評価しただけだ。
雑草や害虫などと人間に勝手に選別された生物でも、生物界ではどれも重要だし、将来は医薬品の原料などとして人間にとっても役に立つ存在になるかもしれない。
それだけではない。その植物がなければ、生きていけない生物もたくさんいる。
春の女神とも呼ばれるギフチョウは、特定のカンアオイだけに卵を産み、幼虫はその葉を食べる(食草)といった例などが知られている。
どの種も、生態系を構成して生態系を支え、いなくなれば生態系のバランスは崩れてしまうのだ。
人間社会だって同じだろう。目立たない人でも、必ず誰かに必要とされ、世の中のためにはなっているのだ・・・・ということを生物界から学びたいものだ。
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サイレント・スプリング? [生物多様性]
花も咲き乱れ、虫や野鳥たちも賑やかになるこの時期に、生命の躍動が感じられないという化学農薬DDTへの警告を発したのは、米国の女性科学者レイチェル・カーソン著『サイレント・スプリング(邦題:沈黙の春)』(1962年)だ。
地球環境問題に対する世界の関心が高まる契機ともなった著名な書物だ。
わが家の庭で、これを体感するかのような現象が見られた。農薬で処理された作物の種と不稔性品種改良、あるいは遺伝子組換えの作物?
家人が庭で大豆の種を蒔いた。若芽が出ると早速見張りをしていたキジバトが降り立ち、若芽をついばみ全滅に近い。農家が野鳥を害鳥として嫌う気持ちもわかる気がする。
庭で果実が実った時も、野鳥との競争だった。先日も、キンカンにカラスが群がり実を食べだしたので、あわてて刺で手を痛めながら収穫した。
大豆とほぼ同時に種を蒔いたツルナシインゲンの方は、食べられることもなく青々とした芽が育っている。
キジバトが大豆は好物だけれども、インゲンは嫌いとも思えない。
異なるのは生産地で、大豆種子(豆)は国産で、インゲン種子(豆)はアメリカ産というくらいだ。さらに、インゲン種子のパッケージをよく見ると、「チウラム粉衣処理」と書いてあった。種が薄赤に色付されていたのは、このことか。
ネットで調べると、チウラムとは農薬の一種で、殺菌剤や鳥の忌避剤として使われているらしい。なるほど、土壌細菌による腐りなどを避けて種の発芽率を上げ(パッケージでは発芽率85%以上の表示が)、おまけに鳥がついばむのを避けることができるとは、一石二鳥だ。
確かに無処理の国産大豆はキジバトの食害にあい、農薬処理のアメリカ産インゲン豆はキジバトも食べない。
自家栽培の立場からはありがたいが、野生生物も寄り付かないのはどうか、ちょっと気になる。いくら分解が速くて人体に無害だとはいえ、やはり気になる。昔から、「虫も好かない」というけれど。
これが、体感サイレント・スプリングその1。
その2は、最近人気の豆苗(とうみょう)。
豆苗とはエンドウ豆の若菜で、最近では植物工場で豆を発芽させたものが出回り、水だけで育ち、安く栄養も豊富で、何度も再収穫もできる。人気が出るはずだ。
冬の青菜の少ない時期に、わが家でも室内で栽培して何度か収穫をした。春になって青菜も出回るようになったので、残った株を庭に植えてみた。
すくすく伸びたツルには、かわいらしいピンクの豆の花がたくさんついた。しかし、実(豆)はならない。
原因はよくわからないが、わが家の庭では豆類は比較的よく育つので、土壌や養分が原因で実がつかないとは思えない。
仕事柄気になるのは、「遺伝子組換え」作物だ。国内では大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、トウモロコシなどに遺伝子組換え品種の流通が認められている(農水省HP)。
したがって大豆でなくてエンドウ豆ならば遺伝子組換えの可能性は低いかもしれないが、国内の豆苗商品にはアメリカ産のグリーンピース新芽も出回っているとか。真偽は確認できないが、やはり気になるところだ。
それと、不稔性品種もあるそうだ。実や種ができないように開発された品種で、品種改良や遺伝子組換えにより作られる。
種ができないから、農家や園芸家は、自家再生できずに種子や苗を毎年種苗会社から買い続けなければならない。
先進国多国籍企業の種苗会社や農薬会社が途上国原産の植物から不稔性作物を開発して、これを途上国の農民に売りつけて収益をあげることで、生物多様性の南北問題の争点事例の一つにもなっている。
園芸品種にも、この不稔性(F1不稔性)が多い。(写真は、不稔性のパンジー)
豆苗の場合には、ひょっとするとこちらの方かも知れない。
あるいは、単に何かの条件の関係で実が成らないだけかも知れない。
インゲン豆の件と同時進行だったので、ついつい疑心暗鬼になってしまう。
いずれにしても、思いがけず体感したわが家のサイレント・スプリングにもつながりかねない不気味な現象。
科学的な根拠も明確でないのにいたずらに不安を増長させるのもどうかと思うが、一方で安全性が確認されていない以上慎重にならざるを得ないとも思う。
環境政策では、「予防原則」というのがある。
新技術などに不確実性があって環境や健康に重大な影響を与える恐れがある場合には、その影響の因果関係が科学的に十分証明されていなくとも予防的に規制するべきというものだ。
産業経済界などからは必ずしも受け入れられないが、世の中、慎重すぎて臆病なほうが良いこともある。
化学物質だけではなく、遺伝子組換えも、それから原発も、と思うけれど・・・ネ
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生物多様性とは何か、その必要性、遺伝子組換えとグローバル企業なども。
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見返りを求める援助 求めない援助 [生物多様性]
安部首相の対「イスラム国」支援のための2億ドル拠出表明と日本人人質殺害との関係が、国会を含めて多くの関心を集めている。
そんな中、安部内閣は「開発協力大綱」を2月10日閣議決定した。これは政府の途上国援助(ODA)の基本方針を示すもので、以前からの「政府開発援助(ODA)大綱」に代わるものだ。1992年に閣議決定されたODA大綱では、環境保全がODAの基本理念の一つとされ、「先進国と開発途上国が共同で取り組むべき全人類的な課題」と位置付けられている。
今回の大綱見直しでは、これまで禁止してきた他国軍への援助を、非軍事目的という限定付きながら認めることとなった。安全保障法制度の見直しの行方とともに、今後を注視していきたい。そのほか、中国の援助への対抗も視野にした援助対象国の拡大など、国益重視が目立つ。
これらについて、私なりの意見はいろいろあるが、今回のテーマは、新たな方針となった「見返りを求める援助」についてだ。
“見返りを求める援助”には、外務省をはじめ政府のトラウマが源になっているようだ。というのも、1990年に始まった湾岸戦争の際、日本は130億ドル(関連も含めればそれ以上の額)もの多額の援助をしていたにもかかわらず、戦後91年に米紙に掲載されたクウェート政府による30か国への謝意広告に、日本の名が入っていなかったのだ。
せっかく多額の援助をしたにもかかわらず、評価されなかったということだ。つまり、金の援助だけではなく、姿の見える援助が求められ、それ以来、PKO協力法成立(1992年)をはじめ、自衛隊の海外派遣などが強化されていった。この一連の動向は、現在の安保法制の見直しや今回のODAの他国軍への援助解禁にもつながるものだろう。
米国を含めて多くの国々が湾岸戦争に介入したのは、この地域が石油産地ということがあったのは明白だと思う。まさに、“見返りを求めて”のことだった。
当時の日本の援助はクウェート政府に評価されなかったが、20年後の東日本大震災の際には、クウェート政府は“湾岸戦争時の恩返し”として復興支援に原油500万バレル(当時の時価で約450億円相当)の無償提供を表明した(朝日新聞2011年4月27日ほか)。結局は見返りもあったということだ。
このブログの主要テーマの一つでもある「生物多様性」分野でも、“見返りを求める援助”が幅をきかせてきた。
生物多様性には、食料、木材・繊維、医薬品などの原材料を提供したり、レクリエーションや芸術・文化の源となるなどの精神的な効果、さらには生存の基盤となる酸素や水の供給・浄化など、さまざまな機能・効果(生態系サービス)がある。
このうち、食料・医薬品など生物資源の利用は、コロンブス以来の大航海時代、植民地・帝国主義時代には、産出国への援助のかけらもない文字通りの搾取だった。1992年に成立した「生物多様性条約」をめぐる交渉では、まさに生物資源の原産国(途上国)とその利用国(先進国)とのせめぎあい(南北対立)があった。さすがに20世紀後半になると援助も考慮されるようになってきたが、その本質は今でも“見返りを求める援助”には違いない。(「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」)
その典型的な例が、コスタリカ生物多様性研究所(INBio インビオ)と米・独などの多国籍製薬・化学会社メルク社との間で結ばれた契約だろう。メルク社がインビオに援助する見返りとして、インビオは国内で調査研究した生物情報をメルク社に提供するというものだ。もちろん、メルク社ではその情報をもとに、製薬開発を進めることができる。かつては無償で搾取していた生物資源の対価を、資源利用から得た利益として原産国に支払わなくてはならない時代となったのだ。(「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)」)
しかし生物多様性は、前述のように生物資源としての機能だけではなく、生存基盤としても重要なものだ。その生物多様性が、地球上の特に豊富な熱帯地域(多くが途上国)で失われている現状において、はたして保全のための援助は見返りを求めるものだけでよいのだろうか。
例えばわかりやすく、酸素供給機能の確保のための熱帯林保全援助を考えてみる。これは援助国だけではなく、広く人類、さらには生物全体に貢献するものだ。これを“見返り”とみなすかどうかで、この議論は大きく変わる。たぶん、今回の「開発協力大綱」での“見返りを求める”ことには、このようなものは含まれず、もっと具体的、直接的な生物資源のようなものを想定しているのだろう。
拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店)では、生物資源の確保を目的とした援助と人類共通の生存基盤の保全を目指した国際協調による支援との両者が必要であることを提唱した(拙著 第11章および第13章)。
私は、1995~1998年の間、インドネシアでのJICA生物多様性保全プロジェクト初代リーダーとして赴任していた。生物多様性の宝庫であるインドネシアの熱帯林の保全が、インドネシアはもちろん、人類にとっても必須だとの思いから活動していた。(「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」) それが、結局は自国だけではなく、人類全体への見返りにもなるのだけれども。
しかし、インドネシア政府高官から、日本はこのプロジェクトの見返りとして、インドネシアからどんな生物資源を期待しているのかと真顔で聞かれた。当時、地球全体の生物多様性保全しか頭になかった私にとって、その発言を聞いた時には一種の戸惑いとショックさえ感じた。それが、拙著執筆のもとともなった(拙著 あとがき)。
インドネシアでのプロジェクト赴任の当時から、日本の援助であることをPRすることに主眼をおいた「顔の見える援助」が声高に叫ばれ、提供機器などには日本の援助品であることを示すマークのODAシールが貼付されるようになった。プロジェクトにも、日本の援助であることをさまざまな媒体で表明するように要請があった。それはそれで、必要なこととは思うが・・・。
一方で、親が子に示す愛のように、見返りを求めない、無償の愛というのもある。あるいは、相手が喜べばそれで本望ということもある。誤解されやすいことわざの一つとして取り上げられる「情けは人の為ならず」。これも、本来の意味は、他人に対する情けも、いずれは自分に巡り返ってくるという意味だ。
貴重な税金を使う援助(ODA)においては、直接的な、あるいは短期的な「見返り」を求めない援助というのはありえないのだろうか。もっとも、親の愛も、ひょっとすると将来の介護をあてにしているかもしれない、と疑うのは考えすぎだろうか。こんな発想が浮かぶだけでも悲しいことだが。
ところで、昨年11月の世界国立公園会議(「第6回世界国立公園会議 inシドニー」)でオーストラリア滞在中にホテルでCNNを視ていたら、日本政府のCMが流れてきた。海外で活躍する日本人の紹介で、幾つかのパターンがあるようだけど、最後に必ず安部首相の顔写真が登場する。
“顔の見える援助”という言葉もあり、日本の宣伝はいいけれど、安部首相のこれでもかの顔写真の宣伝はどうもね。
【ブログ内関連記事リンク】
「インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3」
「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)」
「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」
「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」
「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」
【生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ】
世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
生物多様性に関わる国際援助の新たな枠組みも提示。
本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。
高橋進 著 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店刊 2014年3月
目次、概要などは、アマゾン、紀伊国屋、丸善その他書店のWEBなどの本書案内をご参照ください。
対立を超えて -『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4 [生物多様性]
拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』の第Ⅳ部のご案内です。
これでご案内は、とりあえず終了です。
実は現在、国際学会での研究発表のため、ブータンのブムタンに滞在中です。
この記事は予定投稿ですが、ハッカーによるなりすましの遠隔操作ではありませんので念のため(笑)
第Ⅳ部では、生物多様性保全のための政策アプローチについて考察し、これまでのまとめを行う。
まとめとして、まずは第12 章で、地球環境問題としての広がり、地球公共財、生命中心主義などの視点から課題を考察する。
さらに、地球温暖化、自然災害や国際平和、聖なる山と巨樹を継承することなどに対する生物多様性・保護地域の新たな役割と期待について考え、対立を超えて共生するための政策アプローチと地域、種類、時代を超えた三つの共生を提案する(第13 章)。
【目 次】
第Ⅰ部 生物多様性をめぐる国際関係
(ブログ記事「『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1」参照)
第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係
(ブログ記事「『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係」参照)
第Ⅲ部 インドネシアの生物多様性保全と国際開発援助
(ブログ記事「インドネシアの生物多様性と開発援助 -『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3」参照)
第Ⅳ部 対立を超えて──生物多様性・保護地域 その新たな役割と期待
第12章 生物多様性保全への政策アプローチの検討
広がりとしての地球環境問題への政策対応
地球公共財としての政策対応
生命中心主義への政策対応
第13章 生物多様性・保護地域の新たな役割と期待
地球温暖化と生物多様性
生物多様性・保護地域と自然災害
聖なる山と巨樹の継承
国境を越えた国際平和公園
生物多様性保全の政策アプローチ
持続可能な開発と三つの共生
あとがき
参考・引用文献
索引
【ブログ内関連記事】の紹介は、↑の目次にリンクを貼りました。写真も関連記事にリンクしています。
書籍内(↑も含む)の写真は、すべて著者が世界各地で撮影してきたものです。
『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店刊
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