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ss 上橋菜穂子『香君』を生物多様性の視点で読んでみた(3) [生物多様性]

上橋菜穂子さんの『香君』について、


第1回では、ウマール帝国がオアレ稲の配布を通じて、飢餓に苦しむ周辺国を属国として支配してきた、その支配構造と源泉について生物多様性の視点から紹介した。


それはまさに、品種改良の結果生み出された多収量品種よる緑の革命や遺伝子組換えによる除草剤耐性農作物品種ターミネーター遺伝子を組み込んだ不稔種子などによる現代のグローバル企業の戦略そのものだった。




第2回では、オアレ稲一辺倒となった耕作地にヒシャという恐ろしいバッタが繁殖して稲を食べ尽くし、飢餓が蔓延する虫害の光景から、モノカルチャー(単一耕作)の危うさを紹介した。
その例として、アイルランドのジャガイモ飢饉を映画タイタニック風と共に去りぬとの関連とともに紹介した。
 


でも、『香君』の物語での重要なテーマは、その題名にも表されている「香り」であることは明らかだ。


出版社(文藝春秋)のwebサイトによれば、著者(上橋菜穂子さん)は次のようなコメントを寄せているという。
 
「草木や虫、鳥や獣、様々な生きものたちが、香りで交わしている無数のやりとりをいつも風の中に感じている、そんな少女の物語です。」
 
主人公のアイシャは、あらゆる風景・出来事に香りを感じることができ、香りで生きものの声さえも聴き分けることができる。
 
アオレ稲の作付けにより他の植物が生育しなくなってしまうのさえ、香り(匂い)から理解する。
 
「土の中には様々な、ごくごく小さな生き物がいて、それぞれ独特な匂いを放って」いて、「複数の匂いが混然一体となって土の匂いを作っている」が、「オアレ稲が植えられている場所では、その匂いが変わってしまう」。「オアレ稲を植えると他の穀類が育たなくなってしまうのは、そのせい」なのだと。



そして、香りとともに重要なテーマは、生きものたちがコミュニケーション、上記の著者の言葉で言えば「香りで交わしている無数のやりとり」をしているということだ。


無粋ながら、この重要なテーマである生きものたちのコミュニケーション・関係性についてが今回(第3回)だ。


最近では、動物はもちろんのこと、声を発しないとされる植物さえも、声なき声を発して情報交換しているらしいことが科学的にも証明されつつある。樹木は種類が異なってもそれぞれの根が菌根菌の菌糸によって繋がり、栄養などのやり取りもしていることが同位体元素で確かめられてもいる。
 
また、害虫によって葉を食われた植物は、特別な匂いを発して害虫の存在を周囲に知らせ、害虫の天敵を誘導してやっつけることまですることも分かってきた。


まさに、香君の物語のように、「香りで交わしている無数のやりとり」の世界だ。
いわば、自然のネットワークである。


さらに物語では、香君の教えとして、アイシャに次のように語らせている。
「人にとってはいてほしくない虫も、その虫を食べて生きる鳥にとっては、いなくなれば困る食糧であり、鳥がいなければ、虫は増え過ぎて草木が困る。香君が風に知る万象とはそういうもの — 必ずしも人にとって利益ばかりではないものが満ちて、巡っているすべてのことである。」
 
これこそが生態系であり、生物多様性の考え方でもある。
皆さんよくご存じの「食物連鎖」に象徴されるように、あらゆる生物は、異性や餌、日照などを巡って競争し、時には喰うか喰われるかの死闘を演じ、また時には互いに助け合う共生関係(相利共生)を築いて生命を繋いできたのだ。
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日照を求めて競い合いながらも、分かち合い共生しているカプールの林冠
(クアラルンプール(マレーシア)の森林研究所構内にて)

このブログでも、人間が一方的に決めつけてしまう雑草などについて取り上げたことがある。

 
雑草のほかにも、人が勝手に害虫・害獣として決めつけ、その駆除のために導入した天敵(益虫・益獣)がかえって生態系や人の生命・健康、農林水産業などに大きな被害をもたらした例は無数にある。

有名なものとして、沖縄のハブ退治のために導入したジャワマングースが、ニワトリなどの家畜・家禽やアマミノクロウサギなど固有種を襲ったり、ボウフラ退治のために導入したカダヤシ(蚊絶やし、タップミノー)が在来種メダカをはじめ稚魚を食べてしまう例などがある。


生態系、人の健康、農林水産業などに甚大な被害を及ぼすとして「外来生物法」による特定外来生物に指定されているものの多くは、こうして人によって持ち込まれたもの(外来種、外来生物)だ。
 
これらの事例を含め、共生の考え方、必要性、そして私的共生論については、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)をご参照ください。
目次は、下の過去記事からどうぞ。




上橋さんは、もともと文化人類学者で、物語にもその知識が光っている。
さらに、「上橋菜穂子『香君』を生物多様性の視点で読んでみた(1)」でも紹介したとおり、いわば生物多様性に関連する実に多くの書籍を読み込んで物語を執筆しているから、単なるファンタジーには終わらないのだ。
 
医者や弁護士、さらには元組員など、その経歴や専門性をもとに小説家となった人も多い。
 
私もいつかは、専門分野を活かした小説でも書こうかなと構想、いや夢想?はしているのだけれども・・・

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ss 上橋菜穂子『香君』を生物多様の視点から読んでみた(2) [生物多様性]

前回に続いて、上橋菜穂子『香君』を生物多様の視点から読んでみると・・・


ウマール帝国は、神授の稲オアレ稲によって属国を支配してきた。

その支配構造と源泉は、現代の多国籍アグリビジネス企業のビジネス戦略とそっくりだということを前回の記事で示した。


物語では、さらに生物多様性の視点から興味深い出来事が続いて起きる。


オアレ稲一辺倒となった耕作地にヒシャという恐ろしいバッタが繁殖して稲を食べ尽くし、飢餓が蔓延する光景が描かれている。すなわち虫害だ。

現在の香君と少女アイシャが、この害虫に対処するのが物語の山場でもある。


前回の緑の革命で記したとおり、プランテーションなど大規模なモノカルチャー(単一耕作)では、病害虫や気象により作物などが全滅する(大きな被害を被る)リスクの高いことが弊害としてよく語られるところだ。


私たちは体形や顔つき、性格なども一人一人異なり、新型コロナやインフルエンザなどの感染症にも罹りやすい人と罹りにくい人がいる。これも生物多様性。

生物多様性条約で示されている3つの多様性のひとつ、遺伝子レベルの多様性だ。


しかしモノカルチャーでは、同じ性質の作物、時には遺伝的に全く同一の作物(クローン)が広範囲に栽培されており、病害虫などに対する耐性も同一となる。このために全滅の危機が高くなるのだ。


つまり、自然界での生物多様性は、絶滅回避のためにも重要といえる。

ほかにも、進化の源泉などの重要要素があるが、これらについては後日に譲る。

 

日本でも、これを示す出来事が何度も起きている。


そのひとつ。かつてブランド米として全国で広範囲の作付面積を誇ったササニシキは、1993年の大冷害によって壊滅的な被害を被り、以降の生産量(作付面積)は激減することになった。


ササニシキ以外の作付けでは比較的被害が少なかったことから、モノカルチャーの危機がクローズアップされることとなった。


こうしたモノカルチャーによる悲劇として世界的に有名なものに、アイルランドのジャガイモ飢饉がある。


ジャガイモの原産地はラテンアメリカのアンデスだが、アイルランドは原産地に似て気候が冷涼で、土壌も貧弱のために他の作物が育ちにくい。なにしろ、海藻を土壌代わりに敷いたというくらいだ。

また貧しい農民にとってジャガイモは、コムギ栽培と違って小作地代を払う必要のないありがたい作物だった。

これらの理由から、アイルランドのジャガイモ栽培は急激に増加して、18世紀半ば頃にはジャガイモがほとんど唯一の食糧となっていた。


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土壌がほとんどなく石ころだらけで、強風の大地。掘り上げた石を風除けとした耕地(アイルランド・アラン諸島にて)


しかし、塊茎(種芋)を植えるジャガイモ栽培は、遺伝子組成が同一のクローンでもあり、当時アイルランドで栽培されていた約300億株の全てが同一クローンのランパー種によるモノカルチャー(単一耕作)だった。


このため、遺伝的多様性を失ったジャガイモ栽培は、疫病の攻撃に耐えることはできず全滅した。


このジャガイモ飢饉により、100万人以上が餓死し、150万人もの人々が米国など海外に移民となって出国して、アイルランドの人口は半減したという。


悲劇の豪華客船タイタニック号の沈没事故では、新天地米国への夢を抱いて最後の寄港地アイルランド南部のコーブ(当時はクイーンズタウン)で乗り込んだ多くのアイルランド人が、救命具の備えもない三等客室に閉じ込められたまま犠牲となったことが知られている。


作品賞など11部門でアカデミー賞を受賞した映画「タイタニック」(ジェームズ・キャメロン監督、1997年公開)でも、船底の客室でフィドルの演奏に合わせてアイリッシュダンスに興じ、救命艇にも乗船できずに犠牲となったアイルランド移民の姿が描かれている(と記憶しているけど)。


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どこのパブでもアイリッシュ音楽のライブが始まる(アイルランド・ゴールウェイにて)


余談だけれども、アイルランド系移民の子孫たちからは、自動車王ヘンリー・フォードやケネディ元大統領をはじめ、政財界、スポーツ界、芸能界などで多くの有名人が輩出されている。


全米で3000万人とも4000万人ともいわれるこれらアイルランド系米国人たちにより、毎年3月17日には全米が緑色に染まるがごとくのセント・パトリック・デーの祭が各地で催される。


また、セント・パトリック・デーを祝う人々の心の中には常に、古代ケルトの聖地であり、中世アイルランドの大王の宮殿があったとされるタラの丘があるという。

タラの丘は、アイルランド人の心の聖地でもあり、原点でもあるのだ。


アカデミー賞作品賞受賞映画「風と共に去りぬ」(ヴィクター・フレミング監督、1939年製作、1952年日本公開)で、南北戦争のさ中、ヒロイン、ビビアン・リー演じるスカーレット・オハラが、クラーク・ゲーブル演じるレット・バトラーとも別れ、すべてを失った失意の中で夕焼けを背に再起を誓った「タラ」の地。

そここそは、父ジェラルドが、自分の出身地アイルランドのタラの丘にちなんで命名した開拓農場だった。


 
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アイルランド人の聖地、タラの丘(アイルランド・ミース州にて)


オアレ稲やアイルランドのジャガイモ飢饉などは、モノカルチャー(単一耕作)の危うさを象徴的に示している。


自然は、それぞれの種が多様な形質を備え、そして多くの種が生存競争をし、また助け合いながら生きること、つまり画一的であるよりも多様であることの方が、健全で強い生物社会を作り上げることを教えてくれる。

この自然が用意した仕組みこそが、生物多様性だ。


画一化・同質化がもろいということは、農業に限らず私たちの社会全般にも当てはまるのではないだろうか。

多様性と画一化のバランスは難しい?

 


拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)では、専門書の引用のほか、もののけ姫アバタージュラシックパーク猿の惑星などの映画も取り上げて生物多様性を語った。


本当は、たとえばアイルランドのジャガイモ飢饉では上記のように、風と共に去りぬタイタニックの映画も取り上げたかったのだけれども、総ページ数の関係で割愛せざるを得なかった。


まぁ、テーマの生物多様性からは、自分でも「余談」と自覚しているから仕方ないけどネ。

そのうちにアイルランド紀行的な記事もアップしてみようと思うけれど、いつになるかわからないのであまり期待されないほうが良いかも?


拙著の目次などは、下の過去記事からどうぞ。




 

『香君』の物語の主人公アイシャは、植物や昆虫たちのやりとりを香りの声のように感じ取る鋭い嗅覚の持ち主だ。


そのアイシャが体験する自然界の生物同士の相互作用ネットワークについては、またまた次回ということで!!






 

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ss 今日はバレンタインデーにつきチョコの話を [生物多様性]

今日はバレンタインデー


そこで、予定(「上橋菜穂子『香君』を生物多様性の視点で読んでみた(2)」)を急遽変更して、チョコレートの話にしたい。


といっても、過去記事の再編集なのでご容赦を。

これって、最近のNHK番組並み?


 

チョコレートのふるさと


チョコレートの原料カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。


糖質に富んだ果肉とともに発酵したカカオ豆は、露天で乾燥した後に粉砕、焙煎され、トウガラシやバニラなどの香辛料とともに熱湯で混ぜられて、晩餐会などの飲み物になったという。


少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。


そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたという。


マヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ・ユカタン半島)。現在ではジャングルの中に埋没して点在している数々の遺跡は、雲間に浮かぶ天空の城ラピュタを彷彿とさせる。


ここウシュマルでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。


 
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魔法使いのピラミッド
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総督の館(奥)と生贄の心臓を置く台チャックモール(手前)

 


ヨーロッパ列強の征服


貨幣代わりに使用されたカカオ豆は、ラテンアメリカ全体に広まった。


しかし、チョコレートを既に造っていたマヤやインカの大帝国も、スペイン人などの征服者(コンキスタドール)によって破壊され、滅ぼされた。


インカ帝国の首都だったクスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。

コンキスタドールでさえも、堅牢な石積みを破壊することができなかったのだ。


 
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中央部の黒っぽい平滑な石積みがインカ時代のもの(クスコにて)


トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。


しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。


カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカには、ヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。


農園といっても、日陰を好むカカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。


 


カカオ栽培の世界伝播拡大


ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。


新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。


19世紀の帝国主義の時代、ヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたが、チョコレートもこの争いに組み込まれていったのだ。


現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴ、ルワンダなど)を獲得した国の一つだ。


世界のカカオ豆生産量第1位のコートジボワールは、かつて象牙海岸とも称されたフランス領西アフリカだった。


日本でチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。



インドネシアのカカオ栽培


カカオの生産地はアフリカ、なかでもガーナが有名だが、東南アジアにも伝播した。

インドネシアは世界第3位の生産国だ。


インドネシアのスマトラ島にあるカカオ果樹園を訪れた。


カカオ豆は、カカオの木の幹から直接垂れ下がったように付いている20〜30cmほどのラグビーボールのような実の中に詰まっている。

幹に直接付いているような実の付き方は、ジャックフルーツなど熱帯果実には多いが、日本の果実を見慣れているとちょっと驚く。


カカオの赤黒く熟れた実を割ると、20〜30個ほどの白い果肉が顔を出す。

この果肉、食べるとほのかな甘さがある。

カカオ農園で果肉を食べた時、農園主に中の種子を捨てないように注意された。


この種子がカカオ豆だ。

このわずかな豆が、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。


下の写真のように、カカオ豆の断面を見ると紫色だ。

チョコレートにポリフェノールが豊富なことを物語っていそうだ。


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幹からぶら下がるカカオの実(インドネシア・スマトラ島ランプン州にて)

 


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カカオの白い果肉とその中のカカオ豆の断面(下の紫色)

 



チョコレートの製造


カカオは、前記のとおり原産地のラテンアメリカでは飲み物として利用され、チョコレートとはいうもののヨーロッパに伝わった後も飲料だった。現代の日本で私たちが飲むココア飲料のような飲み方だ。


アール・ヌーヴォーを代表する作家の一人アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)のリトグラフ(版画の一種)の作品。

「ショコラ・イデアル(チョコレート・アイデアル)」(1897年)という独特の淡い色彩の宣伝ポスターの中央には、湯気の立ち昇る三つのチョコレートのカップを盆に載せた母親と、その足元に駆け寄る二人の子供が描かれている。

商品は、六カップ用のカカオ粉末だ。


ということは、少なくとも19世紀末にはまだ、チョコレートといえば引用だったということだろう。現在でも、ラテンアメリカや北米、ヨーロッパでは、飲み物の「ホット・チョコレート」に人気がある。最近では、日本のカフェなどのメニューにも登場している。


 

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アルフォンス・ミュシャ「ショコラ・イデアル」(小田急百貨店・ミュシャ展にて)


現代の日本で目にするようなチョコレートの製造は、オランダのカスパルスとコンラート・Jのバンホーテン(ファン・ハウテンとも)親子の発明が契機となっている。


彼らは、脂肪分の少ない粉末チョコレート、すなわちココアパウダーの製法(1828年に特許取得)とアルカリ塩を加えて飲みやすくする製法(ダッチプロセス)を開発した。この親子こそ、現代に続くココア製造会社バンホーテン社の創業者だ。


その後、イギリス人ジョセフ・フライによって固形チョコレート、現代で言う板チョコが発明された。


さらに、スイス人科学者アンリ・ネスレ(ネスレ社創業者)の粉ミルク製法開発、これを利用したスイスのチョコレート製造業者ダニエル・ペーターによる板状ミルクチョコレート開発などにより、徐々に現代のチョコレートに近づいていった。


 


チョコレートの現代


ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。 


また、中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。


一方で、世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。


その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。


また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。


ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。


最近では、こうした生産地の人々の生活向上や環境保全にも配慮して、原料や製品を適正価格で継続的に買い付けて流通させる「フェアトレード」の仕組みが注目されている。


これが、地球上の誰一人も取り残さずより良い世界を目指す、2030年までに達成すべき17ゴール(目標)を示した「持続可能な開発目標(SDGs)」に合致する仕組みであり、経済・社会・環境のそれぞれを調和させ、先進国も含めたすべての国、さらには企業や自治体、市民一人ひとりが取り組むべき行動だ。


私たちがバレンタインチョコを選ぶときに、単に味わいやデザイン、ブランドイメージではなく、製品となるまでの原料生産(カカオ生産)から製造過程、さらにパッケージなどの廃棄処分までも考慮することが、SDGsの達成には求められるのだ。


バレンタインデーにチョコレートを贈る習慣は、日本のチョコレートメーカーが販売促進のために考案したとの説がある。


バレンタインチョコを食べながら、過去そして現代、未来を考えてみるのも良いだろう。


義理チョコでさえも、バレンタインチョコをもらう当てもない私だけれども・・・・


 


この記事のネタ原稿は、例によって拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)


目次等は





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ss 上橋菜穂子『香君』を生物多様性の視点で読んでみた(1) [生物多様性]

ご訪問いただきありがとうございます。

いつもながら記事更新もできず、たいへんなご無沙汰でした。


1月には昨年9月・11月に続いてまたサラワク・クチンを訪問。



でもその間に、上橋菜穂子さんの『香君』(上下)(文藝春秋)を読んだ。
著者・上橋さんの7年ぶりの長編だという。
児童書に分類されることが多いが、成人でも十分楽しめる。


物語は、ウマール帝国の活き神の香君と、属国の西カンタル藩王国の藩王の孫で植物や昆虫たちのやりとりを香りの声のように感じ取る鋭い嗅覚の持ち主である少女アイシャの活躍を中心に進む(あらすじは省略)。


この物語には、生物多様性の観点から実に興味深い出来事がたくさん登場する。


それもそのはず。
あとがき(『香君』の長い旅路)によれば、著者・上橋さんは、ロブ・ダン著『世界からバナナがなくなる前に』(青土社)をはじめ、多くの生物学・農学などの専門書から刺激・知識を得て本書を執筆したという。巻末には、参考文献の一覧も掲載されている。

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バナナのプランテーション(インドネシア・スマトラ島にて)
輸出用バナナが傷つかないように袋掛けがされている

上橋さんがインスピレーションを受けたバナナの話に関連する物語と生物多様性の関係については、次回のブログ記事で。


本当は、このブログのタイトルも、「上橋菜穂子『香君』を生物多様性から読み解く」とでもしたほうが、なんとなく専門家っぽくてカッコイイ(?)のだけれども、深く論じるだけの時間的余裕もないので、今回は物語の出来事と生物多様性の関係の指摘だけにとどめておく。
 
この物語、そもそもは遥か昔、神郷から降臨した初代香君が携えてきたというオアレ稲をめぐる話だ。


このオアレ稲は、神が授けた奇跡の稲で、多収量品種のためウマール帝国の人々は食糧にも事欠かず繁栄を謳歌していた。


ウマール帝国は、この稲を分け与えることで飢えに苦しむ周辺の多くの国々を属国として支配した。
なにしろこの稲、栽培した後は他の穀類は育たなくなり、種籾も残らない。このため、農民は常にウマール帝国から種籾をもらわなければ農業を継続できないのだ。
それだけではない。肥料もアオレ稲用の特殊な肥料を帝国から分けてもらわなければならない。


 
これって、どこかで聞いたことのあるような。
そう!
緑の革命だ。


緑の革命とは、途上国での飢餓を克服するためにロックフェラー財団の支援により高収量品種のコムギやトウモロコシ、コメなどを開発したものだ。
これらの品種は、世界銀行などの支援により1960年代から80年代にかけて途上国に続々導入されて飢餓が克服され、主導したノーマン・ボーローグ博士は1970年のノーベル平和賞を受賞した。


しかし、モノカルチャー(単一耕作)のために、ひとたび病虫害が発生すると作付けは全滅した。また、収穫量増大のためと、矮性品種(背丈の低い品種)が日光をめぐって雑草に負けないようにするためには、大量の化学肥料や除草剤などの使用が必要となった。


このために、土壌劣化も引き起こし、以前よりもかえって飢饉が激しくなってしまった。
また、化学肥料の大量投入、灌漑施設の整備などによる農民の経済的負担は、伝統的な途上国の農民を資本主義的市場経済に巻き込み、さらにバイオテクノロジーの発展により、多国籍アグリビジネス企業に巨大な市場を提供することにもなった。



さらに、多国籍企業は、強力な除草剤ラウンドアップ(成分名グリホサート)を開発すると同時に、除草剤耐性農作物品種も開発した。
すなわち、雑草だけを枯らす選択性の除草剤開発が困難なため、すべての植物を枯らす強力な除草剤を開発し、この除草剤の影響を受けない遺伝子を改変した除草剤耐性農作物品種を開発したのだ。


これは、除草剤と除草剤耐性作物とをセットにして販売して利益を得ようとするビジネスモデルの一種でもある。
この企業が特許を持つラウンドアップ(除草剤)耐性作物は、トウモロコシ、小麦、米、ダイズ、綿花、ナタネ、ジャガイモなど多品種に及び、世界的な農業従事者の減少などを受けて作付面積も世界中で広がっている。


さらに、多国籍企業は遺伝子組換えの技術を応用して、自社の特許を守るために、開発品種の子孫が種子をつけられないようにするターミネーター遺伝子を開発して、開発品種に組み込むまでになっている。
この結果、農民は播種用種子を毎年のように種子会社から買うことを余儀なくされる。


それだけではない。ターミネーター作物の生態系への漏出により、種子植物に種子のつかない不稔性が徐々に広がれば、生態系そのものの滅亡の恐れもあることが指摘されている。


現代の多国籍アグリビジネス企業の戦略は、まさにウマール帝国の支配構造とその源泉そのものだ。



物語では、オアレ稲一辺倒となった耕作地にヒシャという恐ろしいバッタが繁殖して稲を食べ尽くし、飢餓が蔓延する光景も描かれている。すなわち虫害だ。
そして、現在の香君と少女アイシャが、この虫害に対処するのが物語の山場でもある。


この虫害をめぐる出来事と生物多様性の関係、すなわち上記の「緑の革命」でもふれたモノカルチャー(単一耕作)自然界のネットワークについては、次回の記事をお楽しみに!


緑の革命、遺伝子組換え、多国籍企業の支配など、生物多様性をめぐる話題をさらに詳しく、また俯瞰的に知りたい方は、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)をご参照ください。

目次は、下の過去記事からどうぞ。
 

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ss 白馬岳で白山の高山植物を鑑賞 植物名に付された山岳名 [生物多様性]

白馬岳で高山植物撮影


北アルプスの白馬岳(2932.3m)に登山した。腰痛起因の大腿部痛をおしての登山のため、大雪渓ルートは避けて、比較的容易な栂池から白馬大池のルートをとった。


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白馬岳稜線

 


さすが天然記念物に指定されるほど高山植物で有名なだけあって、数えきれないくらいの花々。


 


お花畑の一部

 


 花だけではなく、ライチョウの親子も。


ライチョウの親子(ちょっと見難い?)


 


頻繁に写真を撮るので、行程はゆっくりだ。


若かりし頃の植物写真撮影は、フィルム代や現像代を気にして、構図や被写界深度など慎重に見極めるため、撮影枚数は少なかった。


しかし今では、デジタルでフィルム代もかからないし、最近ではデジカメも持たずにスマホだけ。あとで構図の修正もできる。シャッターを切る数は圧倒的に多い。


それでも、ついつい昔の癖で、構図などを気にしてしまうことも多いし、撮影枚数も若い人に比べれば少ないのでは。


 


今回はこうしてフィルム代を気にせずに撮影した多くの高山植物の写真から、そのごく一部の「ハクサン」の名を冠した高山植物をご紹介。


その前に、ちょっとご説明・・・・


植物名の分類


かつて私は、約8000種の日本産高等植物(『植物目録』環境庁1987年)名の接頭辞部分を解析・分類したことがある。


その結果は、動植物名、地名、色彩、物品、大小などの形容詞、数字、生育場所など701の接頭辞に分類できた。


その分類の中では、地名に関する接頭辞(227分類、該当する接頭辞が冠された植物1805種)が圧倒的に多く、マツやキクなど植物に関する116分類1165種、オオ(大)やコ(小)、ホソ(細)など形容詞の111分類1912種、イヌやチャボなど動物が59分類337種などと続く。


動物名を冠した高山植物の代表のひとつがコマクサ。花の形状が馬(駒)に似ているからという。今回の白馬岳にも多数が生育。


コマクサ(花の形状が駒)


 


該当種数の多いものは、なんといってもオオ(大)の262種だ(このうち、オオバ(大葉)が付くのが76種)。オオの次には、ヒメ(姫)の256種、エゾ(蝦夷)200種、ミヤマ(深山)165種といった具合だ。


地名に関するものでは上述のとおり、エゾ(蝦夷、該当植物200種)が圧倒的に多く、ツクシ(筑紫、68種)、リュウキュウ(琉球、67種)、ヤク(シマ)(屋久島、66種)など。


白馬岳にも生育するウルップソウは地名の付された植物名で、その由来は千島列島のウルップ島で最初に発見されたからという。


千島列島ウルップ島で発見されたウルップソウ


 


植物名に付く山岳名


山地・山岳名に関する接頭辞は65分類(392種)で、植物種数の多いものをあげると、イブキ(伊吹山、22種)、フジ(富士山、19種、ただし、植物の藤を由来とするものは除く)、ハクサン(白山、18種)、ハコネ(箱根山、16種)、ニッコウ(日光山、15種)などとなる。


山地・山岳名を冠した植物は、必ずしもその山固有(そこだけに生育)というわけではないが、ウルップソウのように最初に発見された場所として付される場合も多い。


 


ちなみに、種数1位の伊吹山は、滋賀県と岐阜県にまたがる標高1377mの日本百名山の山地だ。石灰岩地帯特有の植物も多く、牧野富太郎など多くの植物学者により調査されてきたこともあり、イブキを冠する植物名が多い。


その代表のひとつがイブキトラノオ。白馬岳にも多く生育していた。


これは、動物名のトラ(虎)を冠した植物でもある。トラノオ=虎の尾(2023/08/20追記)


伊吹山の名を冠したイブキトラノオ


 


白山の名を冠した高山植物


白山は、富士山、立山とともに日本三大霊山といわれている。信仰だけでなく高山植物の宝庫でもあり「花の白山」としても有名だ。


先の分類でも、伊吹山、富士山に次いで第3位の18種の植物名にその名が冠されている。


 


(以上の植物名の分類と山岳については、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生』(ちくま新書)にも記載されているのでご参照を。拙著の内容・書評は、はてなブログ「『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用」)


 


ということで、やっと本記事の本題「白馬岳で白山の高山植物を鑑賞」する。お待たせしました。


とはいうものの、今回の登山で写真撮影できたものはわずか3種だけ


写真を見直していたら、もう1種発見して追加したので4種。(2023/08/20追記)


羊頭狗肉、期待外れはご容赦を!


 


ハクサンフウロ

ハクサンシャクナゲ


ハクサンコザクラ


s-IMG_0389.jpg

ハクサンイチゲ(2023/08/20追加)


 


おまけで、今回の白馬岳ではないけれどハクサンチドリ


ハクサンチドリ


 


(関連ブログ記事)


「植物名の由来・分類」


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ss チコちゃんに叱られないよう、雑草について考える! [生物多様性]

先日(2023年5月19日)放映のNHK総合テレビの人気番組「チコちゃんに叱られる!」で、「雑草ってなに?」が取り上げられていた。

チコちゃんに叱られないように、雑草について考えてみたい。

チコちゃんの答えは・・・

「雑草ってなに?」のお答えは、「望まないところに生えているすべての草」とか。

私のブログに興味を持っていただいている読者の方々には、とっくにお分かりのことだろうと思う。

 

良いものと悪いもの?

前回記事「坂本龍一 街頭音採録の背後には」で、故 坂本龍一氏が、「人間は勝手に、良い音と悪い音に分けている。公平に音を聴いた方が良い」と語っていたことを紹介した。

 

bio-journey.hatenablog.com

 

これに関連して、拙著『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書)からの「害虫と益虫(害獣や雑草とそうでないものなども)の線引きは、人間の一方的な価値判断であり、それも現時点でのものだ。」との私の考えも紹介した。

 

そう、チコちゃんの答えのとおり!

雑草(害虫なども)は、人間が勝手に役に立たないと考えたり、邪魔だと考えたりしているにすぎないのだ。

そして番組出演者が質問していたが、「同じ草でも、あるところでは雑草で、違うところに生えていたら雑草でなくなることがあるの?」という疑問が当然のごとく湧いてくる。

そのとおり!

同じ草でも、きれいな花が咲くからといって庭に植えていた植物が、繁茂しすぎて邪魔になり、突然に雑草として扱われてしまうことがあるのは、身に覚えのある方も多いだろう。

 

ドクダミは雑草?薬草?

今は盛りに白い花が咲いているドクダミも、畑や庭、空き地、道端などでは雑草として扱われることが多い。

でも、ドクダミは名無しの雑草ではなく、ちゃんと名前を覚えられているからまだましか?

それもそのはず、ドクダミの独特の臭いの元となるデカノイルアセトアルデヒドの精油成分には殺菌作用もあり、化膿止めや皮膚炎などに効果があるとされている。

ほかにも利尿作用や便秘改善効果、血圧安定効果などもあり、「ドクダミ茶」としても古くから利用されてきた。

江戸時代に貝原益軒の著書である本草学の『大和本草』や寺島良安の類書(百科事典)『和漢三才図絵』などにも薬草としての記載がある。

現在でも、れっきとした薬草で、厚生労働省が発行する「日本薬局方」に「十薬」という生薬名で記載されている。

嫌われもののドクダミは薬草にもなる

 

雑草だけではない!

害虫の蚊やハエも、役に立つことはあるのだ。

ハエの幼虫ウジが化膿して壊死した傷口を食べて、傷の回復を早めることから、チンギス・ハーンが負傷兵士手当のために大量のウジを戦場に運んだり、現代の病院でも使用されていることは、上記の拙著でも紹介したところだ(第3章 便益と倫理を問いなおす  第2節 生物絶滅と人間、「眠れぬ夜にカの根絶を考える」参照)。

 

多様性と多面性

こうした人間の役に立つかどうか、の前に、害虫や雑草たちも、自然界ではなくてはならない存在でもある。

人間に望まれるかどうか?

そんなの関係ないっ!

蚊やハエが鳥や魚の餌にもなって生態系を支えているのは、わかりやすい例だ。

 

こうして、あらゆる生物が他の生物と関わり合いながら自然界(生態系)で生きていることこそが、「生物多様性」なのだ。

これは、本ブログの主題のひとつだ。

 

一方で、前回ブログでも拙著から引用したとおり、「(害虫など)この線引きは、科学技術の進展、生活様式(ライフスタイル)の変化、さらには倫理観の変化などによって、いつ反転してしまうかもわからない」。

この多くの個の存在を認める「多様性」も大事だけれども、ひとつの個も角度によって(見方によって)さまざまな価値や意味を持つ「多面性」(多義性など)も大事かと思う。

 

このことについても、後日考えてみたい。

多様性と多面性は、自然界・生物だけではなく、人間社会でも真剣に考えてみる必要があるだろう。

 

拙著目次は下記記事からどうぞ

bio-journey.hatenablog.com

 

 


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ss シカの増加はオオカミ絶滅のせい? シカ食害と対策を考える旅路 [生物多様性]

最近、各地で野生動物、特にシカが増えたという話を聞く。

私がかつて(およそ半世紀ほど前)北海道の阿寒湖で仕事をしていた時には、動物の写真を撮りたい一心でエゾシカの姿を求めたが、なかなか目にすることもできなかった。

釧路市に出かけた帰りの夕刻、霧の立ち込めた沿道の牧場で時折数頭のシカを見ることができ、それだけで心躍ったものだ。

しかし最近(といっても5年ほど前)阿寒湖を訪れた際には、平地の牧場では10頭は超えるであろう群れを見ることができたし、山間部のエゾマツの林でもクマザサの林床からシカが頭をもたげているのを何度も目撃できた。

s-DSC03456.jpg
エゾシカの親子(知床国立公園知床五湖にて)

今回は、シカの個体数増加と日光国立公園、尾瀬国立公園での生態系への影響と対策をみてみる。

目次

  ・シカの増加
  ・皆伐と温暖化
  ・シカの食害と対策
  ・オオカミ再導入?


>>続きは上の目次の各項目をクリック、全文はこちらから(はてなブログ「みどりの旅路」へ)

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ss カカオ農家支援の情熱活動 ガーナでチョコの生産販売 [生物多様性]

前回の記事「バレンタインチョコとSDGs」で紹介したガーナのカカオ農家を支援している田口さんについて、「はてなブログ」で再度取り上げて紹介しました。


私のように知識の押し売りではなく、行動でもって世の中を変える若い人々に声援を送りたいと思います。



スクリーンショット 2023-04-27 ガーナ農家支援.png
記事全文は、上の記事写真をクリックすればご覧いただけます。

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ss バレンタインチョコとSDGs [生物多様性]

昨日2023年4月14日付の朝日新聞夕刊(東京本社版)に、チョコレートの原料となるガーナのカカオ生産農家の支援を進めている「エンプレーソ」代表の田口愛さんを取り上げた記事が載っていました。


チョコも口にできない貧困に衝撃、高品質・高収入化で産地も消費者も笑顔に」というものです。


私も、はてなブログ「みどりの旅路」でバレンタイン時期にチョコレートとその原料のカカオを2回にわたり取り上げました。


はてなブログ「みどりの旅路」をすでにご覧いただいた方も多いかと思いますが、このssブログにはアップしてなかったので、遅ればせながらアップします!


はてなブログ記事全文は、下↓のそれぞれの記事タイトルのリンクからご覧ください!





義理チョコ(懐かしい!)からも縁遠くなったけど、今日(2月14日)はバレンタインデー

そこでチョコレートの話をしよう。

と言っても、チョコの美味しさや人気ブランドではなく、チョコをめぐる歴史と植民地化などの国際関係など、いわばチョコレートと生物多様性(生物資源)だ。

最近はバレンタインチョコの選択も、ブランドやデザインなどではなく、SDGsの観点が盛り込まれることが多いと言う。

SDGsについては後日アップとして、まずは

目次



バレンタインデーにちなんでチョコレートの話の続き。

前回に記したように、チョコレートは元々は今と違って飲用だった。

そして、現代のようなチョコレートの形状になったのは、オランダやイギリス、スイスなどの人々の発明と工夫による。

そのチョコレートの原料はカカオ豆で、生産量の第1位はコートジボワール、2位がガーナ、そしてインドネシアが第3位、ナイジェリアが第4位だ(総務省統計局「世界の統計2022」)。

 現代ではアフリカの国々でカカオ豆の生産量が多いようだが、そもそもカカオの原産地はどこなのだろうか。

目次


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ss オオカミ信仰 関東最強のパワースポット三峯神社 [生物多様性]

前回予告のオオカミシリーズ第2回、「オオカミ信仰 関東最強のパワースポット三峯神社」です。


野生動物は、近年では鳥獣被害や人的被害などの問題がクローズアップされ、さらに人獣共通感染症などの観点からも注目されています。

しかし一方で、家畜として人類に貢献し、ペットとして人類を癒してきた同類でもあります。


さらに、人類誕生直後から、野生生物は畏敬の対象、信仰の対象ともなってきました。

オオカミ信仰をもとめて、秩父の山奥、三峯神社への旅路です。

そして、巨樹信仰も!


〜記事冒頭より〜


ニホンオオカミは犬との混血?」記事で、三峯神社などでのオオカミ信仰について記事を書くことをお約束してからからほぼ1か月が経ってしまった。

そこで、この記事では、「人間と野生動物」の関係の視点から、オオカミ信仰をみてみよう。そして、三峯神社探訪も。

目次



スクリーンショット 2023-04-05オオカミ2.png
はてなブログ記事全文は、上↑画像をクリックしてご覧ください!

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ss ニホンオオカミは犬との混血? [生物多様性]

はてなブログ「みどりの旅路」に、「ニホンオオカミは犬との混血?」をアップしました。


2月中にアップした記事ですが、オオカミ絶滅、狼伝説、絶滅影響などについての記事の第1回です。

この後、第2回オオカミ信仰も、このssブログに近々アップします。


〜記事冒頭より〜


NHKテレビ「ダーウィンが来た!」で「解明!本当のニホンオオカミ」(2023/2/19放送)を観た。

120年ほど前に絶滅したニホンオオカミ。残されていた標本は、実はイヌと交雑したものだったと判明した、というものだった。



スクリーンショット 2023-04-05 オオカミ1.png
はてなブログ記事全文は、上↑の画像をクリックしてご覧ください!

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ss 続 光るメダカで逮捕者 ―遺伝子組換えとカルタヘナ法 [生物多様性]

はてなブログ「みどりの旅路」に、「続 光るメダカで逮捕者 ―遺伝子組換えとカルタヘナ法」をアップしました。


〜記事冒頭より〜


光るメダカの飼育と販売で逮捕者が出たことから、前回記事では遺伝子組換え生物やその取扱いに関する国際条約に基づく「カルタヘナ法」について取り上げた。
しかし、途中で息切れして(というか、あまり長文のブログもどうかとも思い)カルタヘナ法にまでたどり着けなかった。

ということで、前回記事の品種改良と遺伝子組換えの比較、その事例である緑の革命青いバラの紹介、これに関してのノーベル賞受賞とその後の評価などに続き、今度こそ遺伝子組換え生物をめぐる国際間の攻防に迫りたい。

 

目次


スクリーンショット 2023-03-21 続光るメダカ.png
はてなブログ記事全文は、上↑の画像をクリックしてご覧ください!

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ss 光るメダカで逮捕者 ―遺伝子組換えとカルタヘナ法 [生物多様性]

はてなブログ 「みどりの旅路」に、「光るメダカで逮捕者 ー遺伝子組換えとカルタヘナ法」をアップしました。


〜記事冒頭より〜


遺伝子が組み換えられて体が赤色に光るメダカを違法に飼育するなどしたとして、メダカ販売店経営者など計5人が逮捕されたという(2013年3月8日、警視庁発表)。

カルタヘナ法による国の承認を受けずに、遺伝子組換え生物を飼育・販売などしたもので、同法による逮捕者は初めてだそうだ。

それでは、遺伝子組換え生物とは、そしてカルタヘナ法とは何か、みてみよう。

目次




スクリーンショット 2023-03-16 ブログ光るメダカ.png
はてなブログ記事全文は、上↑の画像をクリックしてご覧ください!

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ブログ再開しました! [生物多様性]

退職を機に、2020年3月29日ブログ閉鎖宣言をしました。

その後、拙著の宣伝で何度か記事を追加しましたが、この度正式に2023年2月13日ブログ再開しました。


ただし、この「ssブログ」ではなく(ssブログの皆様スミマセン)、


はてなブログ」で、「みどりの旅路」のタイトルです。


私は15年前から、このブログで、生物多様性、世界遺産・国立公園、巨樹・巨木などについて発信してきました。

ブログ開設の目的の一つが、生物多様性について、多くの人に理解してもらいたいとの思いからでした。
その意義・目的は一定程度達成されたと思います。


一方、ブログ閉鎖後2020年10月には中国の昆明で、COP10で採択された自然共生などの世界目標「愛知目標」を更新して、ポスト2010年目標を採択する予定のCOP15が開催されるはずでした。

しかし、新型コロナ・パンデミックに対する中国のゼロコロナ政策のため、何度も開催延期となり、ついには2022年12月にカナダのモントリオールで開催されました。
モントリオールは条約事務局の所在地ですが、議長国はあくまで中国という変則的なCOP会議でした。

ここで採択されたポスト2010年目標が、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」です。

この2030年までの世界目標は、新聞などマスコミで取り上げられたことは取り上げられましたが、「持続可能な開発目標SDGs」や「地球温暖化=気候変動」などに比べると知名度は圧倒的に低い現状です!

そもそも「生物多様性」自体の知名度が低いのが実情です。またまたヒガミですけど・・・

若者たちも生物多様性保全のための行動を起こしているので、微力ながら応援もしたいとも思いました。 

こんなことから、ブログを再開した次第です!

引き続き、よろしくお願いします。

     みどりの旅路


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「週刊エコノミスト」の書評に掲載 『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書) [生物多様性]

またまた、宣伝の時だけのアップで失礼します。


拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)が、2021年3月23日付の週刊エコノミストの「話題の本 B00k Review」欄に取り上げられました。


先進国が途上国の生物資源を収奪してきた歴史が詳述」され、プラントハンターやチョウジ貿易の争奪戦、アマゾンからのゴム密輸出と英国の成功など、「ディテールがよく調べられていて面白い」のと過分な評価をいただきました。



* niceをいただき、ありがとうございます。
niceのお返しはしておりませんが(気まぐれでniceつけることもありますが)、ブログは拝見させていただいています。
面白い記事、ためになる記事、癒される記事・・・・
楽しみにしています。





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信濃毎日新聞書評ページに掲載 『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書) [生物多様性]

拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』には、Web書評やブログなど(Amazon評価も含む)で、高い評価をいただき感謝申し上げます。

過分なお言葉をいただき、正直なところホッとしております。やはり、評価は気になるところです。

このたび、信濃毎日新聞(2021/2/21付)書評ページの「かばんに一冊」の欄で、拙著が取り上げられました。
要点を捉えたご高評をいただき、筆者として、大変ありがたく、また励みにもなります。

さらに、高校生の国語授業の副読本(問題集)に拙著から引用したいとの申し出(掲載許可申請)を出版社2社からいただいています(それぞれ別ページ)。

著書内容に近い理科や社会科の教材ではなく、国語科ということで、予想外の驚きと嬉しさを感じています。


拙著からの引用箇所は、実際に高等学校で教壇に立たれている国語科の先生からのご推薦とのことでした。


また、日本体育大学ほかの大学、茨城県立高校など高校、さらに中学など、全国各地の2022年度入学試験問題(国語)に拙著の文章が引用されました(2023/2/23追記)。

過分なるご評価を寄せていただいた皆様方にあらためて感謝申し上げたく、ブログに掲載させていただきました。





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ちくま新書『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』出版 [生物多様性]

ブログの閉鎖を宣言しながら、恒例の新年のご挨拶「丑年につき牛の姿をお年賀代わりに」をアップしてしまいました。


またまた今回、拙著の出版のご案内をさせていただきます。

いよいよ書店での販売が開始されました。


これまでの本ブログでの記事内容も多く含まれています。

題名は「生物多様性」ですが、自然科学(理科)だけではなく、歴史、地理、政治、経済、社会、倫理、民族など幅広い分野が含まれています。

単なる理論や知識だけではなく、実際の体験や映画などの話題も豊富。


ご一読いただければ幸いです。


生物多様性を問いなおす  
    
世界・自然・未来との共生とSDGs

著者:高橋 進(著)
レーベル:ちくま新書(1542
出版社:筑摩書房 (2021/1/10)
新書:286ページ
価格:880円(税込968円)
ISBN : 978-4-480-07365-5

【商品解説】SDGsを見据え、将来世代に引き継ぐべき「三つの共生」とは? 地球公共財をめぐる収奪・独占という利益第一主義を脱し、相利共生を実現する構図を示す。

【「TRC MARC」の商品解説】生物多様性を、「生物資源」と人類の「生存基盤」というふたつの価値と、その両方を統合した「地球公共財」と位置づけて考察。自然共生社会の実現やSDGsを見据え、将来世代に引き継ぐべき「3つの共生」を提起する。

【目次】

プロローグ 混乱の中での問いかけ

第一章       現代に連なる略奪・独占と抵抗

1 植民地と生物資源

西洋料理とコロンブスの「発見」/ヨーロッパの覇権/チョウジと東インド会社/プラントハンターと植物園/日本にも来たプラントハンター/日本人が園長―ボゴール植物園物語/ゴムの都の凋落

2 熱帯林を蝕む現代生活

そのエビはどこから?/東南アジアのコーヒー栽培/インスタントコーヒーとルアックコーヒー/ほろ苦いチョコレート/日本に流入するパームオイル/地球温暖化と生物多様性/熱帯林の消失

3 先進国・グローバル企業と途上国の対立

先住民の知恵とバイオテクノロジー/グローバル企業と生物帝国主義/搾取か利益還元か/農業革命と緑の革命/品種改良と遺伝子組換え/バイオテクノロジー企業の一極支配/途上国と先進国の攻防/生物多様性条約/遺伝子組換え生物の安全性をめぐって/名古屋議定書=生物の遺伝資源利用の国際的ルール/ポスト愛知目標からSDGsへ

第二章 地域社会における軋轢と協調

1 先住民の追放と復権

放逐された人々/保護地域の発生/国立公園の誕生と拡散/地域社会との軋轢と協調/先住民への土地返還/排除から協働へ/日本の国立公園は?

2 地域社会と観光

植民地とサファリ観光/エコツーリズムの誕生/エコツーリズムと地域振興

3 植民地の残影から脱却するために

インドネシアの国立公園/地域社会と協働管理の胎動/多様な管理実態/エコツーリズムと地域住民

第三章 便益と倫理を問いなおす

1 生きものとの生活と信仰

オオカミ信仰/駆逐か共生か/米国の捕鯨と小笠原/捕鯨をめぐる文化と倫理/もののけ姫―森の生きものと人間

2 生物絶滅と人間

アイルランドのジャガイモ飢饉/第六の大量絶滅/眠れぬ夜にカの根絶を考える/生物多様性の誕生/キーワードは変遷する/生物多様性が必要な理由(わけ)/絶滅生物は、炭鉱カナリアでありリベット一つである

第四章 未来との共生は可能か

1 過去から次世代への継承

自然の聖地/世界遺産富士山/植物名と山岳信仰/現代に蘇る聖なる山/国境を越えた国際平和公園/悠久の時を生きる巨樹/巨樹―未来への継承

2 持続可能な開発援助とSDGs

地域住民と連携した熱帯林研究/持続可能な国際開発援助/コスタリカの挑戦/SDGsの系譜/「環境の炎」が「開発の波」に打ち消される/生物多様性とSDGs

終 章 ボーダーを超えた三つの「共生」

世界・自然・未来との共生を目指して/生物多様性保全の二つのアプローチ/第三のアプローチ/「全地球的」問題か、「一地域の」問題か/「資源ナショナリズム」か、「地球公共財」か/生きとし生けるものへの眼差しの変化/人間は自然の「支配者」ではなく、「一員」である/三つの共生

エピローグ 幸せの国から

参考文献 

 

 

 


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青いバラ ― 品種改良と遺伝子組換え [生物多様性]

先日の(といっても3週間も前になってしまうけれども)大船植物園では、城、赤、黄色を基調にとりどりの色、そして花弁の大きさや形、枚数なども実に変化がある多くのバラを見ることができた。

それぞれのバラには、その姿を彷彿とさせるような素晴らしい名前も命名されていた。

「プリンセス・ミチコ」など、皇室3代の女性たち、ミチコ、マサコ、アイコのそれぞれの名が付いたバラもあった。

バラにこれら多くの種類があるのは、古今東西の園芸家たちが丹精を込めて、長い月日をかけて、品種改良してきた結果だ。

園内では、愛好家グループによる自慢のバラの展示会も催されていた。

そこで展示即売されていた「ラプソディ・イン・ブルー」という名のバラを買った。

s-DSC02795.jpg


家に帰ってきてよく見ると、花の色はどちらかといえば紫色で、名前ほどの青ではないが、やはり展示されていた他のバラの色に比べると珍しい感じがした。

なんでも、バラには青の色素はなく、青いバラの誕生は世界のバラ愛好家の夢だったそうだ。

英語で「青いバラ(Blue Rose)」は、不可能(存在しないもの)の意味も持つほどだったとか。

私が買い求めた「ラプソディ・イン・ブルー」など、一見青いバラのように見えるのも、赤い色素を抜いて青に近づけていったようだ。

このように、バラなどの園芸植物は、昔から「品種改良」が重ねられて、多くの品種が作られてきた。

品種改良は、人間にとって好ましい形態や性質などを持つ個体同士を繰り返して交配させて理想形に近づけていく方法で、園芸植物や農作物、家畜などでは盛んに行われてきた。

1940年代から60年代にかけて世界各地で行われた「緑の革命」は、穀物やジャガイモなどの高収量品種を導入して飢饉を救おうとする農業革命だ。
これを主導したノーマン・ボーローグ博士は、1970年にノーベル平和賞も受賞している。

これらの「品種改良」は、人工的に受粉などを繰り返すなど、自然界では起こりえないことではあるが、原理は「自然の摂理」、すなわち受粉や受精によるものだ。


一方、「青いバラ」の誕生は、従来の品種改良ではなく、「遺伝子組換え」によるものだ。

青いバラを開発したサントリー(「青いバラ」への挑戦)によれば、青色の色素をもった植物の中から青色遺伝子を取り出して、バラに導入したそうだ。

ペチュニアやパンジーの青色遺伝子を導入したバラが咲いたが、残念ながら花は赤色や黒ずんだ赤色。

その後も、試行錯誤を繰り返し、2004年に「青いバラ」の開発に成功したという。1990年のプロジェクト開始から実に15年近くの歳月を要したことになる。

その過程では、青いバラよりも一足早く青いカーネーションの誕生に成功した。「ムーンダスト」と名付けられた青色カーネーションは、世界で最初の遺伝子組換えによる花きの商業化となった。


さらに販売までには、もう一つのハードルがある。

遺伝子組換えによる生物(GMO、あるいはLMOという)が生態系などに影響を及ぼさないことを実証して、「カルタヘナ法」による認可を得なければならない。

「カルタヘナ法」は、生物多様性条約に基づく「カルタヘナ議定書」の国内法だが、詳細は本ブログ記事「遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)」および「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって」を参照願いたい。

園芸品種や農作物などでは、今や従来型の「品種改良」よりも「遺伝子組換え」による新品種の開発が幅をきかせている。

自然の摂理の上に立った「品種改良」から、「遺伝子組換え」という神の領域にまで足を踏み込んだ人間の行く末は?

別に私は有神論者でもないし、バイオテクノロジーを否定するわけでもないけれど、自然界を我が物顔で支配するかの如く奢り高ぶった人間の未来には警戒せざるを得ない。

どこかの総理大臣もだけどね。

【本ブログ内関連記事リンク】

大船植物園 満開のバラとシャクヤク

青いケシの花に誘われて

アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)

MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって


名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)






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日本もトランプの自国第一主義?  名古屋議定書パブリックコメント開始 [生物多様性]

いつも拙い本ブログにご訪問いただき、ありがとうございます。
本ブログの更新は、せいぜい週一でしたが、このところ
ブログネタがなくなり、また大学稼業では試験など何かと多忙な時期でもあり、
ブログ更新が滞ってしまいました。

ところで、

連日のように、トランプ米国大統領の言動が世界中の話題になっている。

特定国からの移民・難民の入国禁止措置などは、反対陣営だけではなく、英国など同盟国首脳や連邦裁判所などからも反対意見が続出している。
安倍首相は、国会論戦でも明確な反対意見は表明しないようだけれども。

TPPなど経済政策では特に「アメリカ第一主義」が際立っている。
自国の経済を優先するあまり、地球温暖化の「パリ協定」からの離脱も表明している。(地球環境と一国至上主義 (その1)  気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって

でも、これも今回が初めてではない。
かつての「京都議定書」でも当時のブッシュ大統領は、大統領就任直後に議定書から離脱してしまった。

やっと米国も参加する枠組み「パリ協定」が締結されたとたんに、またこの騒動だ。

「生物多様性条約」に至っては、米国は締結(批准)さえもしていない。

製薬業や食品業において、生物資源の利用や遺伝子組み換えに制限がかかるのを嫌がってのことだ。(地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって

この途上国などに産する生物資源(遺伝資源)の利用とそれから生じた私益配分のルールを定めたのが「名古屋議定書」だ。
名前から分かるとおり、2010年に名古屋で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」で採択されたものだ。

この議定書は、世界各国の批准を経て、2014年から発効している。

しかし、議定書採択の舞台となり、議長国として取りまとめの中心となったはずの日本は、未だに名古屋議定書を批准していない。

産業界の懸念やそれを受けた関係省庁などの意見がまとまらず、国内での実施ルール作りが進まなかったからだ。

まさに生物多様性条約を批准しない米国と同じと言われても仕方ない!!??

トランプ大統領の移民・難民政策に明確な反対を唱えない日本は、米国追随と思われても仕方ない!!??

それでもやっと、名古屋議定書国内措置に関する指針案が策定され、本年1月20日からパブリックコメント(意見募集)が開始されるまでに至った。

これまで本ブログで何度も取り上げた「名古屋議定書」だけれども、早く批准をしてブログネタにならないようになってほしい!?

1月20日のパブコメ開始で、繰り返しの内容ではありますが、なんとか記事更新ができてホッと一息。

次回はいつ????
また、しばらくお休みさせていただくかも・・・・


【本ブログ内関連記事リンク】

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キリンが絶滅!!? [生物多様性]

「キリンが絶滅するかもしれない!」というショッキングなニュースが、数日前のニュースで流れた。
ご存知の方も多いだろう。

メキシコのカンクンで開催されている生物多様性条約第13回締約国会議(CBD-COP13)で、国際自然保護連合(IUCN)が8日に発表した絶滅危惧種リスト(レッドリスト)の最新版に、キリンが絶滅危惧種(絶滅危惧2類)として追加されたものだ。

動物園の人気者パンダが絶滅危惧種なのは誰でも知っているだろうが、キリンもとはね~
私も、今回のニュースで初めて知った。

小さなころから動物園で馴染んでいたキリンだが、初めて野生のキリンを見たのは、ケニアのナイロビ国立公園だった。

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ナイロビ国立公園(ケニア)にて



ニュース記事によれば、30年前の1985年には15万5000頭はいたのが、2015年には9万700頭にまで減少したと推定されている。

アフリカのサバンナ草原の農業開発などによる生息地の縮小や密猟、そして戦乱などが生息数減少の原因という。

一方で、アフリカ南部では観光用の自然保護区などキリンの生息数は増加しているともいう。

実際、南アフリカのクルーガー国立公園では、ライオン、ゾウ、インパラ、イボイノシシなどたくさんの動物とともに、キリンも見ることができた。

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クルーガー国立公園(南アフリカ)にて



それだけではない。
肉屋の店頭でも、キリンの肉が売られているのだ!!

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上↑の写真は、ブッシュ・ミートといって、野生動物の肉を販売している専門店の店頭だ。

日本でも最近はジビエといって、狩猟した動物の肉を食用にすることが、有害獣駆除の推進の上からも流行っている。

アフリカでは、草原を駆け回る動物を追って、それを食肉とすることは人類誕生からずっと行ってきたことだ。

店頭の肉が、本物の野生動物か、牧場のような所で増殖された、いわば家畜かは不明だけれど・・・

それにしても、多くの子どもたちが縫いぐるみで、そして動物園で慣れ親しんできたキリンが、ジャイアントパンダのように特定の動物園でしか見ることができなくなるとは、考えたくな~い。

そのためには、アフリカの人々の貧困、そして何よりも内乱の根絶を達成しないとね。

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「シーボルト展」をハシゴ ― 日本に魅せられた男の驚異的な日本収集 [生物多様性]

先週末、研究資料収集を兼ねて、『よみがえれ! シーボルトの日本博物館』(江戸東京博物館)と『日本の自然を世界に開いたシーボルト』(国立科学博物館)をハシゴした。

前者の日本博物館展覧会は、夏から国立歴史民俗博物館(千葉県)でも開催されていて、行ってみたいと思っていたけど結局行くことができなかった。

11月6日までの江戸東京博物館(東京都)での会期を逃すと、その後は西日本方面の巡回となってしまうので、会期末ギリギリのところで観覧した。

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展覧会ポスター

シーボルトは、ご存じのとおり江戸末期に長崎出島に来日した人物で、日本に近代西洋医学を伝えたほか、伊能忠敬の日本地図を国外に持ち出そうとしたシーボルト事件で有名だ。

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展覧会カタログ

シーボルトはドイツ人医師だが、自然史研究を行うためにオランダ陸軍の募集に応じて、当時のオランダ領東インド(現、インドネシア)で勤務の後、出島オランダ商館付の医官として1823年に来日した。

日本はまだ江戸時代で鎖国中だったから、オランダ軍軍医となったことが、結果として日本との結びつきのきっかけになった。

来日したシーボルトは、日本そのものに魅せられたようだ。
長崎での滞在中、そして商館長の江戸参府への随行としての道中、各所で自分自身、あるいは日本人協力者により、ありとあらゆる自然や文物を収集し、あるいは自然・文物のほか生活の様子などを絵に描かせた。

オランダに帰国したシーボルトは、愛する日本の理解をヨーロッパでも深めるために、収集物を展示した「日本博物館」設立を構想して、各方面にその実現を働きかけた。

展示会は実現したものの、日本博物館の設立は実現しなかったという。
今回の展示品は、シーボルトが夢見た日本博物館への展示予定品の一部というが、動植物の標本・スケッチから絵画、漆器、仏像などの美術・工芸品、生活用具、人々の生活のスケッチなどなど、膨大なものだ。

展示品は撮影禁止のため、写真でご覧いただけないのが残念だ(カタログは購入したけどネ)。
もっとも、数が多すぎて、とてもブログ記事では紹介できない・・・。

この後、長崎、名古屋、大阪を巡回するそうなので、関心のある方は展覧会へどうぞ。


江戸東京博物館のシーボルト展の後、上野の国立科学博物館で開催されているシーボルトの標本展をハシゴした。

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科学博物館企画展入口

膨大な日本の文物を収集したシーボルトだが、彼の日本滞在の当初の目的は、医者としての診療とともに、日本の自然の科学的調査だった。

シーボルトが収集した動植物の標本、スケッチ画、鉱物標本などは、多くがオランダに送られ、現在でもライデン国立植物標本館などに保管されている。

その標本などをもとに著されたのが『日本植物誌』、『日本動物誌』などだ。
その実物が国立科学博物館と前述の江戸東京博物館のシーボルト展に展示されていた。

私も写真では見たことがあったが、実物を見るのは初めてで、その大きさ(およそ40㎝x30㎝)には驚いた。
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膨大な植物標本の中でも、特に有名なのが「アジサイ」だ。
ライデンに保存されていた標本のうち、複数あるものが日本に返還されたその一つだ。

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科博シーボルト展にて

長崎で出会った日本の娘、タキを愛し、発見したアジサイの学名として「オタクサ」を付した。つまり、「おタキさん」のなまりという。

ちなみに、タキとの間の愛娘イネは、西洋医学を学んだ日本最初の女医としても有名だ。

シーボルトによりヨーロッパにもたらされたアジサイやヤマユリなどは、ヨーロッパにはない珍しい植物として、上流階級にもてはやされた。

ヨーロッパ産のユリの花は小型なため、日本産の美しく大きな花をも持つユリ、中でもカノコユリは絶賛されたという。

このように、当時のヨーロッパ貴族階級では園芸ブームが起きており、東洋やアメリカ新世界などの珍しい植物を売り込んで一獲千金をもくろむ者も多かった。

彼らを「プラントハンター」と呼ぶが、シーボルトも結果としてその一翼を担ったともいえよう。

シーボルトなどによりヨーロッパにもたらされたアジサイやユリなどは、その後に園芸植物として品種改良されて、日本に逆輸入されている。

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園芸品種として改良されたユリ(花菜ガーデンにて)

江戸時代には、シーボルトほかにも、ケンペル、ツンベルク、フォーチュンなどが動植物の標本類をヨーロッパにもたらした。

 → ブログ記事「アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

シーボルト尽くしの秋の一日を楽しんだ。
ちなみに、昼食は江戸東京博物館のある両国で、ちゃんこ鍋を味わった。


【緊急追伸】

このところ、世界は米国次期大統領に決まったトランプ氏の話題で持ちきりだ。

まさにトランプ旋風だが、本ブログの主要テーマでもある環境、人と自然との関係への影響もいろいろと出てきそうだ。

その第一が、地球温暖化防止のための世界の枠組み「パリ協定」からの離脱だ。

生物多様性条約をめぐる自然資源の利用と利益配分にも、依然として参加の見込みはないだろう。

グローバル企業寄りとも思えるその政策は、かつてのブッシュ親子大統領の時代を彷彿とさせる。
ビジネスマンというから、その傾向は強まるかもしれない。

米国追随政策が多い日本(TPPだけは別?)の、このところの世界への対処も気がかりなところだ。

トランプ次期米国大統領のこれまでの言動が、単に選挙用だったのかどうか私には判断できない。

米国の政策、日本の政策に対する考えもまとまらないので、この場での論評は控えることにする。

ただ、トランプショックで世界の環境や生活が台無しになるのだけは御免だ。


【本ブログ内関連記事リンク】

アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

花菜ガーデンのユリ

生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

(緊急追伸関連)

偉大な英国、強大な米国?  ― 英米の選挙に思う一国至上主義の復活と環境問題

地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって

地球環境と一国至上主義 (その1)  気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって

地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その2 なぜ歴史的合意か

地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その1 条約採択と京都議定書

見返りを求める援助 求めない援助





そのチョコレートはどこから? [生物多様性]

先週はバレンタインデー。

そんなものには縁遠かったが、バレンタインデー前日の土曜日に、3月に出かける海外調査(マレーシアのボルネオ島・サラワク州)の航空券手配に行った近所の旅行社の女性社員(女性二人だけの営業所)からチョコをもらった↓。

もちろん義理チョコ(?)、というより営業アイテムだが、何となく心はホンワカと!!

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そこで遅ればせながら、バレンタインデーにつきもののチョコレートの話題。

チョコレートの原料はカカオ豆だ。

カカオの実は、幹から直接垂れ下がったように付いている。

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実が付いたカカオの木(2014年 スマトラ島(インドネシア)にて)

熟れたカカオの赤黒い実を割ると、中には白い果肉が20~30個ほど。
ほのかな甘さの果肉を食べた後、種子を捨てないように農園主に諭された。

カカオ豆は、この種子のことだ。
これが、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。

写真↓は、白い果肉とカカオ豆の断面(紫色のもの)。
チョコレートにポリフェノールが豊富な理由は、この辺にありそうだ。

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カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。
少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。

現在ではジャングルの中に埋没しているマヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ、ユカタン半島)。
ここでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。

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ジャングルの中に点在する遺跡は、天空の城ラピュタを彷彿させる
(2002年 ウシュマル遺跡にて)

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魔法使いのピラミッド

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尼僧院

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総督の館(奥)と生贄の心臓を置く台チャックモール(手前)

そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたようだ。

そのラテンアメリカも、コロンブス以降の大航海時代には、スペイン人などに征服された。

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コロンブス像(2004年 バルセロナ(スペイン)にて)

チョコレートを既に造っていたマヤの帝国や広大な領土を南米に広げた(←追加修正しました2016/02/21)インカの大帝国も、スペイン人などの征服者によって破壊され、滅ぼされた。

インカ帝国の首都クスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。

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↑写真の中央部、黒っぽい平滑な石積みがインカ時代のもの(2011年 クスコにて)

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インカ時代の石積みのままの狭い道、石積みの上にはコロニアル風建物
路地の奥には、観光名所ともなっている12角の石組みが


そして、トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。

現在のようなチョコレートの製造法は、オランダのバンホーテン社が19世紀に開発した。
しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。

カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカにはヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。
農園といっても、カカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。

その後、ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。

新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。

19世紀の帝国主義の時代、チョコレートを巡ってもヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたのだ。

現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴ、ルワンダなど)を獲得した国の一つだ。

日本のチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、ヨーロッパ列強の植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。

ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。
オランダの植民地となったインドネシアは、現在ではガーナに次いで世界第3位のカカオ豆生産国となっている。

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インドネシアのカカオ農園(2013年 スマトラ島にて)


中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。

しかし、世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。

その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。

また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。

ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。

バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案したとの説が有力だ。

企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、途上国の人々の生活も翻弄されていると思うと、何やら複雑な思いだ。

もっとも、販促は今に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンは、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。

でも、これによる大量消費(だけではないが)で、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんも罪深い?

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生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)

インドネシアの生物資源と生物多様性の保全

一番人気の世界遺産 空中都市 マチュピチュ



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地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって [生物多様性]

1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(リオ・サミット)。
その際に署名開放された二つの条約は、「双子の条約」とも称される。
国連気候変動枠組条約と生物多様性条約だ。

双子の条約というものの、単に同時期に誕生しただけではない。
前回ブログ記事で取り上げたような、産業経済を優先する米国の対応、そして、日本で生まれた議定書に参加しない日本政府の状況まで、そっくりだ。

今回の生物多様性条約の目的は、①生物多様性の保全、②生物資源の持続可能な利用、③利用から生じる利益の衡平な配分、の3点だ。

条約作成過程では、大航海時代以降の西欧の植民地主義・帝国主義による生物資源搾取の歴史から、途上国によって先進国に対する様々な主張がなされた。資源原産国としての認知と尊重、資源利用への対価、技術移転と資金援助、遺伝子組換え生物の安全性などだ。生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで


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大航海時代の重要な生物資源チョウジ
(インドネシア・スマトラ島にて)

これに対し、農産物改良や新薬発見のために新たな生物資源を探査・利用したい多国籍企業などの意向も受けた先進国は、無制限の技術移転やその際の知的財産権侵害などに懸念を示し、知的財産権の確保などを主張した。いわゆる南北対立だ。

この結果として途上国の主張を取り入れて、利益の衡平な配分やバイオテクノロジーの安全性などが条文に盛り込まれた。ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)

生物多様性の保全に関しては異議もなく、むしろ条約制定を推進してきた米国だったが、途上国の主張を取り入れた妥協の条文となって、雲行きも怪しくなってきた。

当時の米国大統領は、共和党のパパ・ブッシュ(ジョージ・H・W・ブッシュ)だ。
産業経済界からの要請を受けた議会に押されて、京都議定書から離脱したあのブッシュ大統領の父親だ。地球環境と一国至上主義 (その1)

ブッシュ大統領は、結局、リオ・サミット期間中に157か国が署名した生物多様性条約に署名さえもしなかった(気候変動枠組条約には署名)。
後に、民主党のクリントン大統領は署名はしたものの、やはり議会の圧力に屈して、批准はできなかった。

現在でも、米国は生物多様性条約を認めておらず、したがって条約の締約国会議(COP)にも正式参加できない状態だ。

その後のCOPで条約実施の具体策などを示す議定書が討議され、遺伝子組換え生物の扱いなどについては「カルタヘナ議定書」が採択(2000年)された。MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって

この議定書の補完と、生物資源利用のルール(遺伝資源へのアクセスと利益配分 ABS)についての議定書策定が、2010年に名古屋で開催されたCOP10で議論された。


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生物多様性条約COP10の会議場
(2010年名古屋国際会議場にて)

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名古屋では市営地下鉄にもCOP10のロゴが

最終日までもつれ込んだが、何とかABSは「名古屋議定書」として採択された。名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)(カルタヘナ議定書の補完は、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」として、先立つMOP5で採択された)

日本にとっても、途上国に存する生物資源の利用は不可欠だが、現代ではかつての植民地時代のように自由に持ち出すことはできない。

そのためのルールを定めたのが「名古屋議定書」で、資源原産国の途上国はもちろん、EUなど多くの先進国の締結により、2014年に発効している。

議定書締結国の先進国企業などは、途上国資源利用に際しては、対価を支払う必要が生じる。

しかし、負担増を懸念する日本の産業経済界は、名古屋議定書の批准(締結)に慎重であり、いまだに締結の目途は立っていない。

まさに、条約そのものを締結していない米国に何と類似してきたことか。

そして、日本で誕生した名古屋議定書を批准しないのは、日本で生まれた京都議定書の延長を認めなかったのと何と類似していることか。地球環境と一国至上主義 (その1)

まあ、生物多様性条約を批准(締結)しているだけ、米国よりもまだましか?!


富士山と箱根が「富士箱根国立公園」に指定されて、今月は80周年。
その記念に依頼された原稿をやっと書き終えて、ブログ更新の余裕もできました
(^_^)

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地球温暖化と生物多様性

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ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)

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MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって

遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)

地球環境と一国至上主義 (その1)


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 上記ブログ記事の生物多様性条約の成立と南北対立を詳しく、わかりやすく解説。
そのほか、
生物多様性と私たちの生活、さらに生物資源の伝播など本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。おかげさまで第2刷。


生物多様性カバー (表).JPG高橋進著 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店

 生物多様性とは何か。生物多様性保全の必要性、これからの社会を持続するための「種類を越えた共生」「地域を越えた共生」「時間を越えた共生」の3つの共生など。

 世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
 
 
  
 目次、概要などは、下記↓のブログ記事、あるいはアマゾン、紀伊国屋、丸善その他書店のWEBなどの本書案内をご参照ください。

  『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1

 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係 

 インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3

 対立を超えて ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4



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オオカミ復活!?  - シカの増加と生態系かく乱を考える [生物多様性]

知人から、ある団体の機関誌をいただいた。
その団体の名は、「一般社団法人 日本オオカミ協会」で、機関誌は「フォレスト・コール」という。

この団体では、日本では絶滅したオオカミを復活させ、シカの林木被害などで荒れている森の生態系を復活させようとしているそうで、昨年には「日米独オオカミシンポ2015」を開催した。

本州・九州・四国に生息していたニホンオオカミは、明治末期に奈良県吉野の山中で捕獲されたのを最後に絶滅したといわれている。北海道でも、明治開拓以降にエゾオオカミが絶滅した。


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エゾオオカミ剥製(北海道大学植物園博物館にて)

ニホンオオカミが最後に捕獲された紀伊半島山間部には現在でもオオカミが生息している、ということを信じている人々がいるのが、時々テレビ番組で取り上げられたりもする。

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オオカミも残っていそうな深い森(吉野熊野国立公園大台ケ原大蛇ぐら)

オオカミ絶滅の原因には、毛皮採取のため、家畜を襲う害獣駆除のため、ジステンバーなど伝染病のため、森林開発による生息地縮小などのため、などいくつかの原因があげられる。ひとつの原因ではなく、これらの複合と考えるのが適当だろう。

オオカミなどの肉食動物(消費者)が草食動物を食べ、その草食動物は草などの植物(生産者)を食べ、そして肉食動物の死骸は土壌生物など(分解者)によって植物の栄養となる。これを「食物連鎖」というのは、生物の教科書などでもおなじみの図だ。

食物連鎖が循環的とすると、上下の垂直的にみたものに「生態系ピラミッド」がある。底辺を構成する多くの生物の栄養をより高次の生物が消費し、段階が上がるにつれて個体数も少なくなることから、これをピラミッド状の三角形で図示したものだ。

かつての日本では、オオカミが生態系ピラミッドの頂点に君臨していた。

そのオオカミの絶滅によって、森林では生態系も大きく変化した。
その象徴的な現象が、シカの個体数増加、分布域拡大と林木食害の増大だろう。

近年のシカの増加には、地球温暖化による降雪量減少の結果、冬期でも雪に足を取られることなく移動することができ、また餌となる植物も豊富であることなどの影響が大きい。

しかし、天敵であるオオカミの絶滅も無関係ではないだろう。
温暖化の影響でシカが増加しても、天敵の存在があれば、一定の個体数コントロールがなされるはずだ。

こうして個体数が増加し、冬期には比較的雪の少ない平地に移動するシカの群れによって、日本各地で林木の樹皮食害による枯死や高山植物などの食害が問題となっている。

日光国立公園では、有名な霧降高原のニッコウキスゲの大群落がシカの食害で絶滅寸前になってしまった。群落全体をネットで囲んだり、シカを追い払ったりと、絶滅を回避するための努力が続けられている。

戦場ヶ原でも、特別保護地区の戦場ヶ原にシカが侵入し、貴重な高山植物などを食べ荒らしている。

このため、シカが侵入しないように、戦場ヶ原全体をネットで囲んでいる。
ネットの外側(戦場ヶ原の周囲)(↓写真の上側)は、シカによって林床の草が食われて裸地になっている。
それに対して、内側(戦場ヶ原側)(↓写真の手前)は、シカに食われないために緑が残っている。
その差は歴然としている。

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しかし、ネットの破れ目などからシカが戦場ヶ原内に侵入することがある。

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戦場ヶ原に侵入したシカ

餌としての草の少ない時期には、シカは下あごの歯で樹木の樹皮を下からめくりあげて食べる。

周囲すべての樹皮を剥がされた樹木は、栄養や水分の移動ができなくなり枯死する。

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シカに樹皮を剥かれた樹木(戦場ヶ原での野外学習授業にて)

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森林内で見つけたシカの頭骨

樹皮の食害防止のためには、幹にネットを巻き付ける。

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黒く見えるのがネット

尾瀬でも、やはりシカによる貴重な植物の食害が問題となっている。
ニッコウキスゲなどは食べられてしまうが、一方で毒素があるといわれるコバイケイソウはシカが食べずに繁茂している。

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シカも嫌う?コバイケイソウの実(尾瀬にて)

シカが尾瀬沼や尾瀬ヶ原に侵入しないように、周囲をネットで囲い、登山道にはシカのヒズメが滑って侵入しにくくするための鉄板(グレーチング)が設置されている。

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尾瀬国立公園沼山峠にて

シカも高山植物を絶滅させようとしているわけではなく、生きるために餌としているだけなのだ。
小鹿のバンビはかわいいが、高山植物や林木に被害が出ると目の敵にするのも可哀そうな気がするけど・・・人間の身勝手さか。

前述の団体では、こうした生態系の管理のためにも、オオカミ復活が必要だと主張している。

実際、世界で最初の国立公園のイエローストーン国立公園(米国)のオオカミ再導入は、生態系管理の実験としても有名だ。
家畜を襲うとして駆除されて絶滅したオオカミを、カナダから再導入して復活させ、増えすぎたエルク(シカ)による生態系の荒廃から再生しようとしている。

ドイツなどヨーロッパ各地でも、オオカミの復活が実現しているという。

ニホンオオカミ協会会長の丸山直樹さん(東京農工大学名誉教授)によれば、日本のオオカミはアジア大陸のオオカミと同種であり、導入しても外来種による遺伝子攪乱には該当しないという。また、意外と臆病で人間を襲うこともほとんどなく、日本の家畜飼育状況では家畜を襲うことも考えられないという。

オオカミは、生態系の食物連鎖の頂点に君臨する肉食動物だが、人間との接触も古く、前回ブログ記事(中国文明と縄文文化 - 兵馬俑展と三内丸山、登呂遺跡)の縄文時代には、既にオオカミを飼い慣らした縄文犬と呼ばれるイヌが家畜(狩猟犬、ペット)として飼育されていたそうだ。

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我が家のイヌ
(縄文犬ではない、ただの雑種、2008年に17歳で死亡)

また、古代から信仰の対象ともなり、オオカミの名は大神から由来したとする説もあるくらいだ。
奥多摩の御岳神社(東京都青梅市)では、魔除けや獣害除けの霊験として信仰されていた。

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御岳山ケーブル

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御岳神社本殿

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御岳神社のお札

古代から人間と共生してきたオオカミ。
その関係が狂ったのはいつからだろうか。

今年の「全国巨木フォーラム」は、狼信仰の中心でもある三峯神社のある埼玉県秩父市で10月に開催される。

単なるロマンチシズムでは無責任になるが、科学的な根拠をもってオオカミ復活について考えてみるのも悪くはない?!


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アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園 [生物多様性]

関東地方にも、しばらく前に梅雨入り宣言があった。この季節というと、何といってもアジサイだ。ブログにもアジサイが花盛りだ。

わが家の庭にも、ごく普通のアジサイがあるが、株ごとに色が違う。

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土壌の酸性度によって色が変わると聞いているが、わが家の広くもない庭でそんなに酸性度が違うとも思えないけど。

一番好きな色は青。 「ヒマラヤの青いケシ」と同じだ。


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それぞれの色のアジサイだが、咲くにしたがって微妙に色が変わっていくところがまた良い。

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完全な青になる前の淡い青

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終期になるとやや紫がかってくる(右側部分)


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こちらは赤になる前

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花の中期?(奥)と盛り (手前)


そんなところから、花言葉は「移り気」とか。アジサイには可哀そう?

アジサイと言えば、シーボルトを思い出す。
シーボルトは、江戸時代末期に来日したドイツ人医師で、日本ではほとんどの人が名前を知っているくらいの有名人だ。

鎖国中の日本では、オランダ商館付医師として長崎出島に居住し、日本人に西洋医学を広めた。

長崎で出会った日本人女性「滝」を愛し、日本で採取した新種植物に「オタクサ」の名を付けた。

 

 

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シーボルト著『日本植物誌』(ちくま学芸文庫)(大場秀章 監修・解説)より

この植物こそ日本が原産の「アジサイ」であり、「オタクサ」は「お滝さん」から由来していると言われている。

シーボルトは、アジサイのほかにも多くの植物や動物を採取し、その標本をオランダなどに送っている。その標本類は、現在でもオランダの国立植物学博物館ライデン大学分館などに保存されている。

帰国後は、『日本植物誌』や『日本動物誌』を著して、日本の自然を広くヨーロッパに紹介した。自然だけではなく、伊能忠敬の日本地図を持ち出そうとしたシーボルト事件でも有名だ。

シーボルトの来日に先立つこと約130年前には、同じくドイツ人のケンペルが来日して、日本中を調査して『日本誌』を著し、特に多くの日本の植物をヨーロッパに紹介した。


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ケンペル(左)とバーニーの顕彰碑(元箱根にて)

シーボルトも、ケンペルも、そして両者の間に来日したツンベルク(ツェンベリー)(スウェーデン人)も、ともに医師であり、博物学者でもあった。

日本国内での移動は厳しく制限されていたが、商館長の江戸参府の際には書記とともに随行を認められた医師として、長崎から江戸までの旅をすることができた。

彼らは、途中の箱根などで多くの動植物を採集した。ハコネサンショウウオやハコネグサなど、彼らによって新種として命名されたものも多い。

このように、世界各地で植物を探検し、ヨーロッパに導入した人々を「プラントハンター」と呼ぶ。

もともとは、園芸ブームで希少品種を金に糸目もつけずに買い込むヨーロッパ貴婦人に、新大陸などの珍しい植物を売り込んで一攫千金を目論んだ人々の呼称だった。

日本原産のアジサイも、シーボルトらによってヨーロッパに持ち込まれ、その後品種改良されて園芸品種として逆輸入されているという。

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プラントハンターは、園芸植物だけではなく、その後は医薬品の原材料探索などにも関わり、生物多様性条約では遺伝資源の利用などの南北対立の源ともなった。

プラントハンターが採取した植物の中継・順化の基地となったのが植物園であり、イギリスの王立キュー植物園(キュー・ガーデン)はそのネットワークの中心だった。


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大温室パーム・ハウス(キュー植物園にて)

これらについては、別の機会に紹介しよう。

下記↓の拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店)では、シーボルトも含めたプラントハンターや植物園、さらに生物資源の伝播と南北対立などを紹介しています。

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青いケシの花に誘われて

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生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

見返りを求める援助 求めない援助

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 プラントハンターや植物園、さらに生物資源の伝播と南北対立なども紹介。その他、本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。おかげさまで第2刷。


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 生物多様性とは何か。生物多様性保全の必要性、これからの社会を持続するための3つの共生など。

 世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
 
 
  
 目次、概要などは、下記↓のブログ記事、あるいはアマゾン、紀伊国屋、丸善その他書店のWEBなどの本書案内をご参照ください。

  『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1

 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係 

 インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3

 対立を超えて ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4


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青いケシの花に誘われて [生物多様性]

 青いケシの花が咲いているというので、箱根湿生花園に出かけた。
 大涌谷の噴気活動警戒の影響か、土曜日というのになんとなく箱根の人出は少ない気がする。

 園内に入ると早速、鉢植えの青いケシ(ブルーポピー)がお出迎え。なんと園内には1,000株が鉢や直植えで展示されているという。


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 ネパールやブータン、チベット、雲南などヒマラヤの標高およそ3000~5000mの高山に産して、何種かあるみたいだ。展示でもピンクなど色変わりもあった。

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 昨年に訪問したブータンの国花でもある。残念ながら見ることはできなかったけれど。

 園内には、青いケシのほか、思いのほか多くの花が咲いていて、それはそれは美しかった。

 花の写真もたくさん撮ったが、ほんのいくつかをご紹介。


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タニウツギ


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チョウジソウ


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ハマナス


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ヒメサユリ


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ニッコウキスゲとイブキトラノオ


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尾瀬になかなか行けないので、ここでコウホネを


 湿生花園では、毎年、青いケシ展を開催しているが、ケシの花はその都度買い入れているという。

 ケシだけではなく、ミズバショウは新潟県からなど、ほとんどの植物を現地から補充しているというから、裏方も大変だ。

 ところでつい先日、水族館でのイルカ展示でのニュースがあった。和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁で捕獲されたイルカを買い入れている施設が会員の日本の動物園水族館協会を国際組織の世界動物園水族館協会が除名すると通告したものだ。


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イルカの群れ(小笠原にて)


 それに対して、日本動物園水族館協会では、追い込み漁のイルカの購入は中止し、国際組織に残留する決定をしたという。

 最近では生態展示などのようにずいぶんと改善したが、入手方法だけではなく、見世物になっている動物にも思いやるべきだという動物解放論も提起されている。

 植物園でも、同じような問題が起きないとは限らない。かつての大航海時代などには、プラントハンターと呼ばれる人々が、世界中から珍しい野生植物をかき集めてヨーロッパ貴族に売りつけたりしていた。

 ヒマラヤ地方から入手されたという青いケシの花を見て感動している自分。野生のものではなく、人工的に繁殖・栽培されたものを入手していると信じたい。



(補注)
 植物園や動物園・水族館などで野生生物を展示・繁殖することは、単なる見世物というより、学習上あるいは絶滅危惧生物の保護上も必要なものだ。
 生物多様性条約では、自然状態での保護(生息域内保全)とともに、人工的管理下での保全や繁殖(生息域外保全)の必要性が規定されている。



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インドネシアで蚊の絶滅について考える ―生物多様性の倫理学


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 「プラントハンター」や「生物多様性条約」(生息域内保全と生息域外保全を含む)、「動物解放論」、「自然保護の必要性」など、本記事にも関連する内容も豊富。

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目立たない花 [生物多様性]

 この季節、多くのブログに美しい花々が咲き乱れている。

 天邪鬼というわけではないが、「目立たない花」が気になった。

 「目立たない花」の定義があるわけではないけれど、①小さな花、②緑色など葉や茎と区別しにくいもの、といったところだろうか。

 別に目立たない花のコレクションをしているわけでもないが、ここ数日の散歩の途中や勤務先構内でたまたま出会ったいくつかの目立たない花々。

 スマホで撮ったけれども、小さな花にはピント合わせが難しくて。それに花の盛りも早すぎたり、逆に過ぎていたりして・・・


 秋には赤く目立つ実を付けるカキも、花は地味だ

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 秋を彩るカエデの花も小さく目立たない

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 ドングリのなるカシ類の花も、一つ一つは目立たない(特に雌花序)が、穂状に集まって垂れる(雄花序)と結構目立つ

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 アオキの類も小さな花だけれども、まとまれば目立つ
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 カラスノエンドウは紅のかわいい花。花の色は目立つが、小さくて

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 イネ科の花は、緑色でどれも目立たない

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 腐生植物オニノヤガラの一つ一つ花は小さくて茶色で目立たないけれど、総状に集まった姿は春の緑の中では異様に目立つ

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 生物多様性の世界では、たとえば食物連鎖として知られているとおり、どんな生物種でも、生態系全体にとっては不可欠だということを教えてくれている。

 目立たない花でも、精一杯生きているのには変わりない。花の価値に違いはないはずだ。

 美しい花を愛でるのは、人間が勝手に評価しただけだ。

 雑草や害虫などと人間に勝手に選別された生物でも、生物界ではどれも重要だし、将来は医薬品の原料などとして人間にとっても役に立つ存在になるかもしれない。

 それだけではない。その植物がなければ、生きていけない生物もたくさんいる。

 春の女神とも呼ばれるギフチョウは、特定のカンアオイだけに卵を産み、幼虫はその葉を食べる(食草)といった例などが知られている。

 どの種も、生態系を構成して生態系を支え、いなくなれば生態系のバランスは崩れてしまうのだ。

 人間社会だって同じだろう。目立たない人でも、必ず誰かに必要とされ、世の中のためにはなっているのだ・・・・ということを生物界から学びたいものだ。


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サイレント・スプリング? [生物多様性]

 いよいよ新緑の季節。

 花も咲き乱れ、虫や野鳥たちも賑やかになるこの時期に、生命の躍動が感じられないという化学農薬DDTへの警告を発したのは、米国の女性科学者レイチェル・カーソン著『サイレント・スプリング(邦題:沈黙の春)』(1962年)だ。

 地球環境問題に対する世界の関心が高まる契機ともなった著名な書物だ。

 わが家の庭で、これを体感するかのような現象が見られた。農薬で処理された作物の種と不稔性品種改良、あるいは遺伝子組換えの作物?

 家人が庭で大豆の種を蒔いた。若芽が出ると早速見張りをしていたキジバトが降り立ち、若芽をついばみ全滅に近い。農家が野鳥を害鳥として嫌う気持ちもわかる気がする。


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 庭で果実が実った時も、野鳥との競争だった。先日も、キンカンにカラスが群がり実を食べだしたので、あわてて刺で手を痛めながら収穫した。

 大豆とほぼ同時に種を蒔いたツルナシインゲンの方は、食べられることもなく青々とした芽が育っている。


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 キジバトが大豆は好物だけれども、インゲンは嫌いとも思えない。

 異なるのは生産地で、大豆種子(豆)は国産で、インゲン種子(豆)はアメリカ産というくらいだ。さらに、インゲン種子のパッケージをよく見ると、「チウラム粉衣処理」と書いてあった。種が薄赤に色付されていたのは、このことか。

 ネットで調べると、チウラムとは農薬の一種で、殺菌剤や鳥の忌避剤として使われているらしい。なるほど、土壌細菌による腐りなどを避けて種の発芽率を上げ(パッケージでは発芽率85%以上の表示が)、おまけに鳥がついばむのを避けることができるとは、一石二鳥だ。

 確かに無処理の国産大豆はキジバトの食害にあい、農薬処理のアメリカ産インゲン豆はキジバトも食べない。

 自家栽培の立場からはありがたいが、野生生物も寄り付かないのはどうか、ちょっと気になる。いくら分解が速くて人体に無害だとはいえ、やはり気になる。昔から、「虫も好かない」というけれど。

 これが、体感サイレント・スプリングその1。

 その2は、最近人気の豆苗(とうみょう)。

 豆苗とはエンドウ豆の若菜で、最近では植物工場で豆を発芽させたものが出回り、水だけで育ち、安く栄養も豊富で、何度も再収穫もできる。人気が出るはずだ。
 
 冬の青菜の少ない時期に、わが家でも室内で栽培して何度か収穫をした。春になって青菜も出回るようになったので、残った株を庭に植えてみた。

 すくすく伸びたツルには、かわいらしいピンクの豆の花がたくさんついた。しかし、実(豆)はならない。


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 原因はよくわからないが、わが家の庭では豆類は比較的よく育つので、土壌や養分が原因で実がつかないとは思えない。

 仕事柄気になるのは、「遺伝子組換え」作物だ。国内では大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、トウモロコシなどに遺伝子組換え品種の流通が認められている(農水省HP)。

 したがって大豆でなくてエンドウ豆ならば遺伝子組換えの可能性は低いかもしれないが、国内の豆苗商品にはアメリカ産のグリーンピース新芽も出回っているとか。真偽は確認できないが、やはり気になるところだ。

 それと、不稔性品種もあるそうだ。実や種ができないように開発された品種で、品種改良や遺伝子組換えにより作られる。

 種ができないから、農家や園芸家は、自家再生できずに種子や苗を毎年種苗会社から買い続けなければならない。

 先進国多国籍企業の種苗会社や農薬会社が途上国原産の植物から不稔性作物を開発して、これを途上国の農民に売りつけて収益をあげることで、生物多様性の南北問題の争点事例の一つにもなっている。

 園芸品種にも、この不稔性(F1不稔性)が多い。(写真は、不稔性のパンジー)


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 豆苗の場合には、ひょっとするとこちらの方かも知れない。
あるいは、単に何かの条件の関係で実が成らないだけかも知れない。

 インゲン豆の件と同時進行だったので、ついつい疑心暗鬼になってしまう。

 いずれにしても、思いがけず体感したわが家のサイレント・スプリングにもつながりかねない不気味な現象。

 科学的な根拠も明確でないのにいたずらに不安を増長させるのもどうかと思うが、一方で安全性が確認されていない以上慎重にならざるを得ないとも思う。

 環境政策では、「予防原則」というのがある。
 新技術などに不確実性があって環境や健康に重大な影響を与える恐れがある場合には、その影響の因果関係が科学的に十分証明されていなくとも予防的に規制するべきというものだ。
 
 産業経済界などからは必ずしも受け入れられないが、世の中、慎重すぎて臆病なほうが良いこともある。

 化学物質だけではなく、遺伝子組換えも、それから原発も、と思うけれど・・・ネ


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 生物多様性とは何か、その必要性、遺伝子組換えとグローバル企業なども。

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見返りを求める援助 求めない援助 [生物多様性]

 安部首相の対「イスラム国」支援のための2億ドル拠出表明と日本人人質殺害との関係が、国会を含めて多くの関心を集めている。

 そんな中、安部内閣は「開発協力大綱」を2月10日閣議決定した。これは政府の途上国援助(ODA)の基本方針を示すもので、以前からの「政府開発援助(ODA)大綱」に代わるものだ。1992年に閣議決定されたODA大綱では、環境保全がODAの基本理念の一つとされ、「先進国と開発途上国が共同で取り組むべき全人類的な課題」と位置付けられている。

 今回の大綱見直しでは、これまで禁止してきた他国軍への援助を、非軍事目的という限定付きながら認めることとなった。安全保障法制度の見直しの行方とともに、今後を注視していきたい。そのほか、中国の援助への対抗も視野にした援助対象国の拡大など、国益重視が目立つ。

 これらについて、私なりの意見はいろいろあるが、今回のテーマは、新たな方針となった「見返りを求める援助」についてだ。

 “見返りを求める援助”には、外務省をはじめ政府のトラウマが源になっているようだ。というのも、1990年に始まった湾岸戦争の際、日本は130億ドル(関連も含めればそれ以上の額)もの多額の援助をしていたにもかかわらず、戦後91年に米紙に掲載されたクウェート政府による30か国への謝意広告に、日本の名が入っていなかったのだ。

 せっかく多額の援助をしたにもかかわらず、評価されなかったということだ。つまり、金の援助だけではなく、姿の見える援助が求められ、それ以来、PKO協力法成立(1992年)をはじめ、自衛隊の海外派遣などが強化されていった。この一連の動向は、現在の安保法制の見直しや今回のODAの他国軍への援助解禁にもつながるものだろう。

 米国を含めて多くの国々が湾岸戦争に介入したのは、この地域が石油産地ということがあったのは明白だと思う。まさに、“見返りを求めて”のことだった。

 当時の日本の援助はクウェート政府に評価されなかったが、20年後の東日本大震災の際には、クウェート政府は“湾岸戦争時の恩返し”として復興支援に原油500万バレル(当時の時価で約450億円相当)の無償提供を表明した(朝日新聞2011年4月27日ほか)。結局は見返りもあったということだ。

 このブログの主要テーマの一つでもある「生物多様性」分野でも、“見返りを求める援助”が幅をきかせてきた。

 生物多様性には、食料、木材・繊維、医薬品などの原材料を提供したり、レクリエーションや芸術・文化の源となるなどの精神的な効果、さらには生存の基盤となる酸素や水の供給・浄化など、さまざまな機能・効果(生態系サービス)がある。

 このうち、食料・医薬品など生物資源の利用は、コロンブス以来の大航海時代、植民地・帝国主義時代には、産出国への援助のかけらもない文字通りの搾取だった。1992年に成立した「生物多様性条約」をめぐる交渉では、まさに生物資源の原産国(途上国)とその利用国(先進国)とのせめぎあい(南北対立)があった。さすがに20世紀後半になると援助も考慮されるようになってきたが、その本質は今でも“見返りを求める援助”には違いない。(「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」)

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植民地・帝国主義時代の象徴 今に残る東インド会社の建物
(インドネシア・ジャカルタ市内にて)

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生物資源として重要産物だったチョウジの乾燥作業
(インドネシア・スマトラ島にて)

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生物多様性条約の締約国会議
2010年のCOP10では、生物資源利用をめぐる「名古屋議定書」が採択された
(名古屋国際会議場にて)



 その典型的な例が、コスタリカ生物多様性研究所(INBio インビオ)と米・独などの多国籍製薬・化学会社メルク社との間で結ばれた契約だろう。メルク社がインビオに援助する見返りとして、インビオは国内で調査研究した生物情報をメルク社に提供するというものだ。もちろん、メルク社ではその情報をもとに、製薬開発を進めることができる。かつては無償で搾取していた生物資源の対価を、資源利用から得た利益として原産国に支払わなくてはならない時代となったのだ。(「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)」)

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コスタリカ生物多様性研究所(インビオ)
(コスタリカ・サンホセ近郊にて)

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インビオでの生物資源のスクリーニング
製薬資源などを選出・抽出する
(コスタリカ生物多様性研究所にて)



 しかし生物多様性は、前述のように生物資源としての機能だけではなく、生存基盤としても重要なものだ。その生物多様性が、地球上の特に豊富な熱帯地域(多くが途上国)で失われている現状において、はたして保全のための援助は見返りを求めるものだけでよいのだろうか。

 例えばわかりやすく、酸素供給機能の確保のための熱帯林保全援助を考えてみる。これは援助国だけではなく、広く人類、さらには生物全体に貢献するものだ。これを“見返り”とみなすかどうかで、この議論は大きく変わる。たぶん、今回の「開発協力大綱」での“見返りを求める”ことには、このようなものは含まれず、もっと具体的、直接的な生物資源のようなものを想定しているのだろう。

 拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店)では、生物資源の確保を目的とした援助と人類共通の生存基盤の保全を目指した国際協調による支援との両者が必要であることを提唱した(拙著 第11章および第13章)。

 私は、1995~1998年の間、インドネシアでのJICA生物多様性保全プロジェクト初代リーダーとして赴任していた。生物多様性の宝庫であるインドネシアの熱帯林の保全が、インドネシアはもちろん、人類にとっても必須だとの思いから活動していた。(「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」) それが、結局は自国だけではなく、人類全体への見返りにもなるのだけれども。

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日本の無償援助で整備された動物標本館

 

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日本の無償援助で整備されたハーバリウム
(ともにインドネシア・チビノンにて)

 

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インドネシアのカウンターパートに技術移転をする日本人専門家
自動的にシャッターが下りて動物が記録されるカメラトラップ
(インドネシア・グヌンハリムン国立公園にて)


 しかし、インドネシア政府高官から、日本はこのプロジェクトの見返りとして、インドネシアからどんな生物資源を期待しているのかと真顔で聞かれた。当時、地球全体の生物多様性保全しか頭になかった私にとって、その発言を聞いた時には一種の戸惑いとショックさえ感じた。それが、拙著執筆のもとともなった(拙著 あとがき)。

 インドネシアでのプロジェクト赴任の当時から、日本の援助であることをPRすることに主眼をおいた「顔の見える援助」が声高に叫ばれ、提供機器などには日本の援助品であることを示すマークのODAシールが貼付されるようになった。プロジェクトにも、日本の援助であることをさまざまな媒体で表明するように要請があった。それはそれで、必要なこととは思うが・・・。

ODAマーク.gif
日本の援助を示すODAマーク

s-CIMG0614.jpg
日本が提供した標本棚の一つ一つにODAマークが貼付
(インドネシア・チビノンにて)

s-CIMG0602.jpg
活きた化石シーラカンスの標本棚にもODAマーク
(インドネシア・チビノンにて)



 一方で、親が子に示す愛のように、見返りを求めない、無償の愛というのもある。あるいは、相手が喜べばそれで本望ということもある。誤解されやすいことわざの一つとして取り上げられる「情けは人の為ならず」。これも、本来の意味は、他人に対する情けも、いずれは自分に巡り返ってくるという意味だ。

 貴重な税金を使う援助(ODA)においては、直接的な、あるいは短期的な「見返り」を求めない援助というのはありえないのだろうか。もっとも、親の愛も、ひょっとすると将来の介護をあてにしているかもしれない、と疑うのは考えすぎだろうか。こんな発想が浮かぶだけでも悲しいことだが。

 ところで、昨年11月の世界国立公園会議(「第6回世界国立公園会議 inシドニー」)でオーストラリア滞在中にホテルでCNNを視ていたら、日本政府のCMが流れてきた。海外で活躍する日本人の紹介で、幾つかのパターンがあるようだけど、最後に必ず安部首相の顔写真が登場する。

 “顔の見える援助”という言葉もあり、日本の宣伝はいいけれど、安部首相のこれでもかの顔写真の宣伝はどうもね。

【ブログ内関連記事リンク】

インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3
名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)
生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)
生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
インドネシア生物多様性保全プロジェクト1

【生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ】

生物多様性カバー (表).JPG世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
生物多様性に関わる国際援助の新たな枠組みも提示。

 本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。

 高橋進 著 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店刊 2014年3月

 目次、概要などは、アマゾン、紀伊国屋、丸善その他書店のWEBなどの本書案内をご参照ください。

 


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対立を超えて -『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4 [生物多様性]

 拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』の第Ⅳ部のご案内です。
 これでご案内は、とりあえず終了です。

 実は現在、国際学会での研究発表のため、ブータンのブムタンに滞在中です。
 この記事は予定投稿ですが、ハッカーによるなりすましの遠隔操作ではありませんので念のため(笑)

s-s13-Kapur樹冠DSC01634.jpg
本書のカバー(表紙)にもなっているカプールの林冠(マレーシア森林研究所FRIMで)
太陽光線を求めて譲り合った結果、複雑に入り組んでいる姿は、
本書のテーマでもある『共生』を見事に表している



 第Ⅳ部では、生物多様性保全のための政策アプローチについて考察し、これまでのまとめを行う。

 まとめとして、まずは第12 章で、地球環境問題としての広がり、地球公共財、生命中心主義などの視点から課題を考察する。

 さらに、地球温暖化、自然災害や国際平和、聖なる山と巨樹を継承することなどに対する生物多様性・保護地域の新たな役割と期待について考え、対立を超えて共生するための政策アプローチと地域、種類、時代を超えた三つの共生を提案する(第13 章)。

s-s13-オイルパーム出荷DSC00076.jpg
地球温暖化防止のためのバイオ燃料の原料アブラヤシ
一方で、プランテーションの拡大は生物多様性の喪失原因

s-s13-奇跡の一本松DSC03904.jpg
自然災害の防止のためにも生物多様性機能は期待されている
写真は、奇跡の一本松(岩手県陸前高田市)

s-s13-ブロモ山日の出DSC02291.jpg
インドネシアの聖なる山ブロモ山で日の出を待つ人々

s-s13-加茂の大クスCIMG3203.jpg
地元に密着した巨樹 加茂の大クス(徳島県つるぎ町)

s-s13-タトラ国立公園(ポーランド).jpg
ヨーロッパでもっとも古い国際平和公園
タトラ国立公園(ポーランド)





【目 次】

第Ⅰ部 生物多様性をめぐる国際関係

(ブログ記事「『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1」参照)

第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係

(ブログ記事「『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係」参照)

第Ⅲ部 インドネシアの生物多様性保全と国際開発援助

(ブログ記事「インドネシアの生物多様性と開発援助 -『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3」参照)

第Ⅳ部 対立を超えて──生物多様性・保護地域 その新たな役割と期待

第12章 生物多様性保全への政策アプローチの検討
 広がりとしての地球環境問題への政策対応
 地球公共財としての政策対応
 生命中心主義への政策対応

第13章 生物多様性・保護地域の新たな役割と期待
 地球温暖化と生物多様性
 生物多様性・保護地域と自然災害
 聖なる山と巨樹の継承
 国境を越えた国際平和公園
 生物多様性保全の政策アプローチ
 持続可能な開発と三つの共生

あとがき
参考・引用文献
索引


生物多様性カバー (表).JPG 【ブログ内関連記事】の紹介は、↑の目次にリンクを貼りました。写真も関連記事にリンクしています。
 書籍内(↑も含む)の写真は、すべて著者が世界各地で撮影してきたものです。

 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店刊 

 割引価格でご提供します。左上ブログメールから連絡してください。


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