北アルプスの白馬岳(2932.3m)に登山した。腰痛起因の大腿部痛をおしての登山のため、大雪渓ルートは避けて、比較的容易な栂池から白馬大池のルートをとった。
さすが天然記念物に指定されるほど高山植物で有名なだけあって、数えきれないくらいの花々。
花だけではなく、ライチョウの親子も。
頻繁に写真を撮るので、行程はゆっくりだ。
若かりし頃の植物写真撮影は、フィルム代や現像代を気にして、構図や被写界深度など慎重に見極めるため、撮影枚数は少なかった。
しかし今では、デジタルでフィルム代もかからないし、最近ではデジカメも持たずにスマホだけ。あとで構図の修正もできる。シャッターを切る数は圧倒的に多い。
それでも、ついつい昔の癖で、構図などを気にしてしまうことも多いし、撮影枚数も若い人に比べれば少ないのでは。
今回はこうしてフィルム代を気にせずに撮影した多くの高山植物の写真から、そのごく一部の「ハクサン」の名を冠した高山植物をご紹介。
その前に、ちょっとご説明・・・・
かつて私は、約8000種の日本産高等植物(『植物目録』環境庁1987年)名の接頭辞部分を解析・分類したことがある。
その結果は、動植物名、地名、色彩、物品、大小などの形容詞、数字、生育場所など701の接頭辞に分類できた。
その分類の中では、地名に関する接頭辞(227分類、該当する接頭辞が冠された植物1805種)が圧倒的に多く、マツやキクなど植物に関する116分類1165種、オオ(大)やコ(小)、ホソ(細)など形容詞の111分類1912種、イヌやチャボなど動物が59分類337種などと続く。
動物名を冠した高山植物の代表のひとつがコマクサ。花の形状が馬(駒)に似ているからという。今回の白馬岳にも多数が生育。
該当種数の多いものは、なんといってもオオ(大)の262種だ(このうち、オオバ(大葉)が付くのが76種)。オオの次には、ヒメ(姫)の256種、エゾ(蝦夷)200種、ミヤマ(深山)165種といった具合だ。
地名に関するものでは上述のとおり、エゾ(蝦夷、該当植物200種)が圧倒的に多く、ツクシ(筑紫、68種)、リュウキュウ(琉球、67種)、ヤク(シマ)(屋久島、66種)など。
白馬岳にも生育するウルップソウは地名の付された植物名で、その由来は千島列島のウルップ島で最初に発見されたからという。
山地・山岳名に関する接頭辞は65分類(392種)で、植物種数の多いものをあげると、イブキ(伊吹山、22種)、フジ(富士山、19種、ただし、植物の藤を由来とするものは除く)、ハクサン(白山、18種)、ハコネ(箱根山、16種)、ニッコウ(日光山、15種)などとなる。
山地・山岳名を冠した植物は、必ずしもその山固有(そこだけに生育)というわけではないが、ウルップソウのように最初に発見された場所として付される場合も多い。
ちなみに、種数1位の伊吹山は、滋賀県と岐阜県にまたがる標高1377mの日本百名山の山地だ。石灰岩地帯特有の植物も多く、牧野富太郎など多くの植物学者により調査されてきたこともあり、イブキを冠する植物名が多い。
その代表のひとつがイブキトラノオ。白馬岳にも多く生育していた。
これは、動物名のトラ(虎)を冠した植物でもある。トラノオ=虎の尾(2023/08/20追記)
白山は、富士山、立山とともに日本三大霊山といわれている。信仰だけでなく高山植物の宝庫でもあり「花の白山」としても有名だ。
先の分類でも、伊吹山、富士山に次いで第3位の18種の植物名にその名が冠されている。
(以上の植物名の分類と山岳については、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生』(ちくま新書)にも記載されているのでご参照を。拙著の内容・書評は、はてなブログ「『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用」)
ということで、やっと本記事の本題「白馬岳で白山の高山植物を鑑賞」する。お待たせしました。
とはいうものの、今回の登山で写真撮影できたものはわずか3種だけ。
写真を見直していたら、もう1種発見して追加したので4種。(2023/08/20追記)
羊頭狗肉、期待外れはご容赦を!
ハクサンイチゲ(2023/08/20追加)
おまけで、今回の白馬岳ではないけれどハクサンチドリ
(関連ブログ記事)
先日(2023年5月19日)放映のNHK総合テレビの人気番組「チコちゃんに叱られる!」で、「雑草ってなに?」が取り上げられていた。
チコちゃんに叱られないように、雑草について考えてみたい。
「雑草ってなに?」のお答えは、「望まないところに生えているすべての草」とか。
私のブログに興味を持っていただいている読者の方々には、とっくにお分かりのことだろうと思う。
良いものと悪いもの?
前回記事「坂本龍一 街頭音採録の背後には」で、故 坂本龍一氏が、「人間は勝手に、良い音と悪い音に分けている。公平に音を聴いた方が良い」と語っていたことを紹介した。
これに関連して、拙著『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書)からの「害虫と益虫(害獣や雑草とそうでないものなども)の線引きは、人間の一方的な価値判断であり、それも現時点でのものだ。」との私の考えも紹介した。
そう、チコちゃんの答えのとおり!
雑草(害虫なども)は、人間が勝手に役に立たないと考えたり、邪魔だと考えたりしているにすぎないのだ。
そして番組出演者が質問していたが、「同じ草でも、あるところでは雑草で、違うところに生えていたら雑草でなくなることがあるの?」という疑問が当然のごとく湧いてくる。
そのとおり!
同じ草でも、きれいな花が咲くからといって庭に植えていた植物が、繁茂しすぎて邪魔になり、突然に雑草として扱われてしまうことがあるのは、身に覚えのある方も多いだろう。
今は盛りに白い花が咲いているドクダミも、畑や庭、空き地、道端などでは雑草として扱われることが多い。
でも、ドクダミは名無しの雑草ではなく、ちゃんと名前を覚えられているからまだましか?
それもそのはず、ドクダミの独特の臭いの元となるデカノイルアセトアルデヒドの精油成分には殺菌作用もあり、化膿止めや皮膚炎などに効果があるとされている。
ほかにも利尿作用や便秘改善効果、血圧安定効果などもあり、「ドクダミ茶」としても古くから利用されてきた。
江戸時代に貝原益軒の著書である本草学の『大和本草』や寺島良安の類書(百科事典)『和漢三才図絵』などにも薬草としての記載がある。
現在でも、れっきとした薬草で、厚生労働省が発行する「日本薬局方」に「十薬」という生薬名で記載されている。
雑草だけではない!
害虫の蚊やハエも、役に立つことはあるのだ。
ハエの幼虫ウジが化膿して壊死した傷口を食べて、傷の回復を早めることから、チンギス・ハーンが負傷兵士手当のために大量のウジを戦場に運んだり、現代の病院でも使用されていることは、上記の拙著でも紹介したところだ(第3章 便益と倫理を問いなおす 第2節 生物絶滅と人間、「眠れぬ夜にカの根絶を考える」参照)。
こうした人間の役に立つかどうか、の前に、害虫や雑草たちも、自然界ではなくてはならない存在でもある。
人間に望まれるかどうか?
そんなの関係ないっ!
蚊やハエが鳥や魚の餌にもなって生態系を支えているのは、わかりやすい例だ。
こうして、あらゆる生物が他の生物と関わり合いながら自然界(生態系)で生きていることこそが、「生物多様性」なのだ。
これは、本ブログの主題のひとつだ。
一方で、前回ブログでも拙著から引用したとおり、「(害虫など)この線引きは、科学技術の進展、生活様式(ライフスタイル)の変化、さらには倫理観の変化などによって、いつ反転してしまうかもわからない」。
この多くの個の存在を認める「多様性」も大事だけれども、ひとつの個も角度によって(見方によって)さまざまな価値や意味を持つ「多面性」(多義性など)も大事かと思う。
このことについても、後日考えてみたい。
多様性と多面性は、自然界・生物だけではなく、人間社会でも真剣に考えてみる必要があるだろう。
拙著目次は下記記事からどうぞ
]]>
義理チョコ(懐かしい!)からも縁遠くなったけど、今日(2月14日)はバレンタインデー
そこでチョコレートの話をしよう。
と言っても、チョコの美味しさや人気ブランドではなく、チョコをめぐる歴史と植民地化などの国際関係など、いわばチョコレートと生物多様性(生物資源)だ。
最近はバレンタインチョコの選択も、ブランドやデザインなどではなく、SDGsの観点が盛り込まれることが多いと言う。
SDGsについては後日アップとして、まずは
目次
「ニホンオオカミは犬との混血?」記事で、三峯神社などでのオオカミ信仰について記事を書くことをお約束してからからほぼ1か月が経ってしまった。
そこで、この記事では、「人間と野生動物」の関係の視点から、オオカミ信仰をみてみよう。そして、三峯神社探訪も。
目次
NHKテレビ「ダーウィンが来た!」で「解明!本当のニホンオオカミ」(2023/2/19放送)を観た。
120年ほど前に絶滅したニホンオオカミ。残されていた標本は、実はイヌと交雑したものだったと判明した、というものだった。
光るメダカの飼育と販売で逮捕者が出たことから、前回記事では遺伝子組換え生物やその取扱いに関する国際条約に基づく「カルタヘナ法」について取り上げた。
しかし、途中で息切れして(というか、あまり長文のブログもどうかとも思い)カルタヘナ法にまでたどり着けなかった。
ということで、前回記事の品種改良と遺伝子組換えの比較、その事例である緑の革命と青いバラの紹介、これに関してのノーベル賞受賞とその後の評価などに続き、今度こそ遺伝子組換え生物をめぐる国際間の攻防に迫りたい。
目次
遺伝子が組み換えられて体が赤色に光るメダカを違法に飼育するなどしたとして、メダカ販売店経営者など計5人が逮捕されたという(2013年3月8日、警視庁発表)。
カルタヘナ法による国の承認を受けずに、遺伝子組換え生物を飼育・販売などしたもので、同法による逮捕者は初めてだそうだ。
それでは、遺伝子組換え生物とは、そしてカルタヘナ法とは何か、みてみよう。
目次