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MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって [生物多様性]

 いよいよ本日(2010年10月11日)から、名古屋で生物多様性の国際会議が始まった。新聞などでは「国連地球生きもの会議」として取り上げられている。本ブログでも、これまで「国際生物多様性年と名古屋COP10」などで取り上げてきたものだ。しかし、新聞などを注意して読むと、今日から始まった会議はMOP5(あるいはCOP-MOP5)とも書いてある。それでは、今日から始まったMOP5なる会議は一体何なのか。COP10との関係はどうなっているのか。ここで、簡単に解説しておこう。

 今日から始まった“MOP5”(COP-MOP5)は、“5th meeting of the Conference of the Parties serving as the Meeting of the Parties to the Cartagena Protocol on Biosafety”(カルタヘナ議定書第5回締約国会議)の略だ。一方の“COP10”は、以前のブログでも解説したとおり“10th meeting of the Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity”(生物多様性条約第10回締約国会議)の略だ。COP10が「生物多様性条約」加盟国(締約国)の会議であるのに対して、MOP5は「カルタヘナ議定書」加盟国(締約国)の会議だ。これが、一番の相違である。しかし、生物多様性条約とカルタヘナ議定書は一体のものなので、同時に開催され、マスコミでは総称して「地球いきもの会議」などと呼んでいる。

 一般的に、条約と議定書の関係は、少々乱暴ではあるが国内法の「法律」と「施行令」「施行規則」との関係と類似していると考えればわかりやすい。法律で実施する施策の細部を規定したものが施行令や施行規則だ。条約も総論を示しただけで、実施のための細部までは決まっていないことが多い。それを補うのが議定書だ。多くの人に馴染みのある地球温暖化防止のための「国連気候変動枠組条約」と「京都議定書」の関係を思い浮かべてもらえば理解しやすいだろう。いずれにしろ、条約も議定書も、国際間の約束事である点には変わりない。

 s-農地DD129_L.jpgカルタヘナ議定書とは、遺伝子組み換え大豆などのような「遺伝子改変生物」(Living Modified Organism: LMO)(かつては、Genetically Modified Organism: GMOの用語が多用された)が自然界に放出されることによる生物多様性への影響を回避するための措置を定めたものだ。生物多様性条約では、第19条にバイオテクノロジーの取り扱い及び利益の配分として、COP10での課題の一つである「遺伝資源のアクセスと利益配分(ABS)」とともに、バイオテクノロジーによって改変された生物の安全な取扱い等についての「議定書」検討が規定されている。度重なるCOPでの検討を経て、1999年にコロンビアのカルタヘナで草案が検討(採択は、翌年のカナダ・モントリオールの会議)されたことから、「カルタヘナ議定書」と呼ばれているが、正式名称は「バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書」という。加盟各国は、輸出の際にLMOを含んでいる場合には、LMOの明記と相手国の同意、通報などを求めている。日本では国内法として「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)を2003年に定めている。

 加盟国は、カルタヘナ議定書の効果を高めるため、LMOが万が一自然界に放出されたりした場合の補償などについて合意を目指している。しかし、遺伝子組み換え農産物の主要生産国である米国やカナダ、アルゼンチンは、特に農業や製薬などでのLMO使用に対する規制を嫌いカルタヘナ議定書自体に加盟(批准)していない。生物多様性条約事務局が所在(モントリオール)するカナダにおいてさえも、各論となるとこの対応とは驚きだ。

 LMOのよく知られた例に、除草剤耐性品種がある。これは、農作物の大敵である雑草対策の除草剤開発において、雑草だけを枯らしてしまう選択性の除草剤開発が困難なため、すべての植物を枯らす強力な除草剤を開発し、この除草剤の影響を受けない遺伝子を改変した農作物品種とセットにするという、ある種のビジネスモデルでもある。世界的な農業従事者の減少などを受けて、この除草剤耐性品種であるダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ(綿)などの作付面積は広がっている。カルタヘナ議定書に加盟している日本にも、除草剤耐性などの性質を有したこれらのLMO品種が輸入農産物などからこぼれ落ちたりして、私たちの知らぬ間に自然界にも広がりつつあるという。安全性には配慮されているとはいえ、その影響の本当のところは誰も確認できない。人間の浅知恵によって取り返しのつかないことが起きないように、くれぐれも慎重に取り扱いたいものだ。 (写真は、本文とは関係ありません。)

 (関連ブログ記事)「国際生物多様性年と名古屋COP10」、「生物多様性をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」、「生物多様性国家戦略 -絵に描いた餅に終わらせないために」、「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」、「金と同じ高価な香辛料


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