温泉と避暑リゾート、世界遺産 -国立公園 人と自然(20)日光国立公園 [ 国立公園 人と自然]
かつて修学旅行や団体客で賑わった中禅寺湖や那須の温泉地も、その賑わいが消えてから久しい。尾瀬が国立公園から分離独立して、一層その感が強い(ブログ記事「自然保護の原点 古くて新しい憧れの国立公園 -国立公園 人と自然(19)尾瀬国立公園」)。
しかし、日光がわが国で最初の国立公園のひとつであり、古くから温泉や避暑リゾート地として利用されてきた観光地でもあることは紛れもない。
日光国立公園は、大きく日光地域、鬼怒川・栗山地域、那須甲子・塩原地域からなる。いずれも那須火山帯に属し、この公園で最高峰の白根山(2,578m)をはじめ、男体山、茶臼岳などの山々と火山活動の名残りでもある中禅寺湖、湯ノ湖などの湖、華厳の滝、竜頭の滝、湯滝などの瀑布と渓谷・渓流などがみられる。
火山に温泉は付き物だが、公園内には鬼怒川温泉、川治温泉、塩原温泉などの大規模な温泉場から、一軒宿の奥鬼怒温泉郷など、多様な泉質の多くの温泉がある。
また低山帯から高山帯にいたるさまざまなタイプの森林や戦場ヶ原、鬼怒沼などの湿原があり、ツキノワグマ、ニホンジカ、ニホンカモシカ、ニホンザルなどの哺乳類をはじめ、多くの野生生物が生息している。
左甚五郎の彫刻でも名高い東照宮は、徳川家康を祀るために建立された。この東照宮と天台宗の輪王寺、古くからの山岳信仰・修験道の中心でもある二荒山神社の二社一寺は、1999年に世界遺産(文化遺産)に登録された。
これら現在の世界遺産の社寺は、文化財保護法だけではなく、国立公園としても規制の厳しい“特別保護地区”として厳重に保護されてきた。自然保護が目的の国立公園で、何故社寺が保護対象となるのか奇異に思うかも知れないが、神社仏閣はわが国の国立公園制度創設時から国立公園の指定要件のひとつとして挙げられている。これは、人と自然が織り成す景観の保護という観点や外貨獲得も含めた観光振興の観点もあるだろう(ブログ記事「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」)。
明治時代になって東京や横浜などに外国人居住者が多くなると、日光は外国人向けの避暑リゾート地としても脚光を浴びるようになってきた。現在まで続く金谷ホテルは、箱根の富士屋ホテルなどとともに、外国人向けリゾートホテルの先駆けでもある。
その後も、欧米各国の在京大使館は、中禅寺湖畔に競うように別荘を建てた。現在でも、イギリス大使館やフランス大使館などの別荘があり、そのうちのイタリア大使館は栃木県が譲り受けて一般公開している。
日本の皇室も例外ではなく、御用邸という名の別荘を設けてきた。現在、日光の田母沢御用邸は県により記念公園として整備公開されている。また、那須御用邸は、豊かな自然と人々のふれあいの場として、「那須平成の森」と命名され、環境省により管理・公開されている。
観光客が減少してきたとはいえ、秋の紅葉シーズンなどのイロハ坂の交通渋滞は、毎年の風物詩のようにニュースに取り上げられる。
かつては観光客からエサをねだるニホンザルが多数出没していたが、日光市による「サル餌付け禁止条例」制定(2000年)により、めっきり少なくなってきた。しかし、中禅寺湖畔の土産物店などでは、観光客からのエサが少なくなった分を取り返そうとするがごとく、強引かつ巧妙、ときには凶暴ともいえるサルの襲撃が多発しているという。
そのサルに代わって観光客の目に付くようになってきたのがシカだ。もともと奥日光などにはシカが生息していたが、オオカミなどの天敵もなく、また地球温暖化により冬でも積雪が少ない今日では、シカの頭数は飛躍的に増大している。
観光客はシカを見ることができて喜んでいるが、戦場ヶ原などの貴重な高山植物も食害を受け、生態系に変化が起きている。このため、環境省などは戦場ヶ原湿原の周囲を鉄柵で囲ってシカの侵入を防いでいるが、隙間から入り込むシカが後を絶たない。
日光国立公園は、かつてリゾート地としても時代の最先端だった。その日光が、再び自然とのふれあいや野生動物との共存の場として、再び脚光を浴びるような、古くて新しい国立公園の姿を想像したいものだ。
1934年12月指定 114,908㌶
群馬、栃木、福島にまたがる
(写真右上)男体山(戦場ヶ原より)
(写真左上)茶臼岳山頂部
(写真右下)東照宮三猿
(写真左下)戦場ヶ原のシカ
(ブログ内関連記事)
「自然保護の原点 古くて新しい憧れの国立公園 -国立公園 人と自然(19)尾瀬国立公園」
「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」
「世界遺産登録 -観光への期待と懸念」
しかし、日光がわが国で最初の国立公園のひとつであり、古くから温泉や避暑リゾート地として利用されてきた観光地でもあることは紛れもない。
日光国立公園は、大きく日光地域、鬼怒川・栗山地域、那須甲子・塩原地域からなる。いずれも那須火山帯に属し、この公園で最高峰の白根山(2,578m)をはじめ、男体山、茶臼岳などの山々と火山活動の名残りでもある中禅寺湖、湯ノ湖などの湖、華厳の滝、竜頭の滝、湯滝などの瀑布と渓谷・渓流などがみられる。
火山に温泉は付き物だが、公園内には鬼怒川温泉、川治温泉、塩原温泉などの大規模な温泉場から、一軒宿の奥鬼怒温泉郷など、多様な泉質の多くの温泉がある。
また低山帯から高山帯にいたるさまざまなタイプの森林や戦場ヶ原、鬼怒沼などの湿原があり、ツキノワグマ、ニホンジカ、ニホンカモシカ、ニホンザルなどの哺乳類をはじめ、多くの野生生物が生息している。
左甚五郎の彫刻でも名高い東照宮は、徳川家康を祀るために建立された。この東照宮と天台宗の輪王寺、古くからの山岳信仰・修験道の中心でもある二荒山神社の二社一寺は、1999年に世界遺産(文化遺産)に登録された。
これら現在の世界遺産の社寺は、文化財保護法だけではなく、国立公園としても規制の厳しい“特別保護地区”として厳重に保護されてきた。自然保護が目的の国立公園で、何故社寺が保護対象となるのか奇異に思うかも知れないが、神社仏閣はわが国の国立公園制度創設時から国立公園の指定要件のひとつとして挙げられている。これは、人と自然が織り成す景観の保護という観点や外貨獲得も含めた観光振興の観点もあるだろう(ブログ記事「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」)。
明治時代になって東京や横浜などに外国人居住者が多くなると、日光は外国人向けの避暑リゾート地としても脚光を浴びるようになってきた。現在まで続く金谷ホテルは、箱根の富士屋ホテルなどとともに、外国人向けリゾートホテルの先駆けでもある。
その後も、欧米各国の在京大使館は、中禅寺湖畔に競うように別荘を建てた。現在でも、イギリス大使館やフランス大使館などの別荘があり、そのうちのイタリア大使館は栃木県が譲り受けて一般公開している。
日本の皇室も例外ではなく、御用邸という名の別荘を設けてきた。現在、日光の田母沢御用邸は県により記念公園として整備公開されている。また、那須御用邸は、豊かな自然と人々のふれあいの場として、「那須平成の森」と命名され、環境省により管理・公開されている。
観光客が減少してきたとはいえ、秋の紅葉シーズンなどのイロハ坂の交通渋滞は、毎年の風物詩のようにニュースに取り上げられる。
かつては観光客からエサをねだるニホンザルが多数出没していたが、日光市による「サル餌付け禁止条例」制定(2000年)により、めっきり少なくなってきた。しかし、中禅寺湖畔の土産物店などでは、観光客からのエサが少なくなった分を取り返そうとするがごとく、強引かつ巧妙、ときには凶暴ともいえるサルの襲撃が多発しているという。
そのサルに代わって観光客の目に付くようになってきたのがシカだ。もともと奥日光などにはシカが生息していたが、オオカミなどの天敵もなく、また地球温暖化により冬でも積雪が少ない今日では、シカの頭数は飛躍的に増大している。
観光客はシカを見ることができて喜んでいるが、戦場ヶ原などの貴重な高山植物も食害を受け、生態系に変化が起きている。このため、環境省などは戦場ヶ原湿原の周囲を鉄柵で囲ってシカの侵入を防いでいるが、隙間から入り込むシカが後を絶たない。
日光国立公園は、かつてリゾート地としても時代の最先端だった。その日光が、再び自然とのふれあいや野生動物との共存の場として、再び脚光を浴びるような、古くて新しい国立公園の姿を想像したいものだ。
1934年12月指定 114,908㌶
群馬、栃木、福島にまたがる
(写真右上)男体山(戦場ヶ原より)
(写真左上)茶臼岳山頂部
(写真右下)東照宮三猿
(写真左下)戦場ヶ原のシカ
(ブログ内関連記事)
「自然保護の原点 古くて新しい憧れの国立公園 -国立公園 人と自然(19)尾瀬国立公園」
「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」
「世界遺産登録 -観光への期待と懸念」
シカの問題は日光だけでなく、日本中の問題になっていますね。尾瀬でも本格的なシカ対策が考えられています。
シカが悪いのではないけれど、食害は自然や環境にとって
とても深刻です。難しい問題ですね。
by hidamari (2013-01-22 16:05)
hidamariさん、尾瀬もシカの食害で生態系が変わってしまったところもあるようですね。
天敵を絶滅させ、地球温暖化を加速させ、その結果のシカの増加なのにシカを目の敵にしている、なんか複雑です・・・
by staka (2013-01-23 00:31)
こんばんは^^
日光ってかなり広範囲なんですか~ かなりの部分行っています。
でも山に登るようになって、動物は怖いです。例え鹿でも猿でも
出会いたくないです(--;
by mimimomo (2013-01-28 18:33)
mimimomoさん、確かに動物と鉢合わせすると怖いですよね( ̄Д ̄;)
でも、たいていの場合は、人よりも先に動物のほうが気がついて逃げるようですよ。たとえクマでも。
by staka (2013-01-28 23:37)
鹿対策に早く狼の導入を! 懸念がある人はこのページを参照 http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/697065/221774?page=3
http://japan-wolf.org/content/faq/
by 名無し (2013-04-20 13:04)
名無しさん、オオカミ導入のご紹介ありがとうございます。
世界で最初の国立公園、米国のイエローストーン国立公園でもいろいろな意見があり、長い検討の結果オオカミ再導入を決めたと聞いています。
日本でも、多くの方々がこの問題について関心を持つことを期待します。
by staka (2013-04-21 11:40)