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意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史 [保護地域 -国立公園・世界遺産]

 現在、世界的にも自然保護のための中心的な制度のひとつになっている「国立公園」。世界最初の国立公園といわれる「イエローストーン国立公園」が米国で誕生したのは、1872年であった。しかし、この制度が日本で誕生したのは、他の自然保護制度に比較すると意外と遅かった、というのが今回の話題である。

 日本の自然保護のための法制度、特に保護地域指定を伴うものには、自然公園法(国立公園など)、鳥獣保護法(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)(鳥獣保護区)、森林法(保安林、保護林)、文化財保護法(天然記念物)、都市公園法(都市公園)、都市緑地法(都市緑地)、さらに自然環境保全法(自然環境保全地域など)、種の保存法(絶滅のおそれのある動植物の種の保存に関する法律)(生息地等保護区)などがある。最近では、世界的な条約などに基づいた「世界遺産」、「ラムサール条約登録湿地」、「生物圏保存地域」なども設定されている。

 これらの法制度の多くのものの原点は、明治時代に誕生した。もちろん、明治以前にはわが国には自然保護制度がなかったわけではない。例えば、江戸時代には「御留山(御禁山)」や「御巣鷹山」など、幕府や領主(大名)のために有用樹木の伐採を禁じたり、鷹狩用の鷹繁殖地を保護するための山が各地に存在した。「木一本、首一つ」といわれる厳しい伐採制限を課して「木曾五木」(ヒノキ、サワラなど5種類の有用木材樹種)を保護した尾張藩の政策が有名だ。s-富士山0232.jpg

 明治維新以降は、様々な分野で西洋の法制度を取り入れた「近代化」が推進された。自然保護関連分野も、その例外ではなかった。太政官布告(1873(明治6)年)の「社寺其ノ他ノ名区勝跡ヲ公園ト定ムル件」により、上野、浅草、芝など現在でも存続している公園が設定された。近代日本で公に「公園」の名称が使用された最初でもあった。これが、現在の都市公園制度の始まりといわれている。鳥獣保護でも、「鳥獣狩猟規則」(1873(明治6)年)に始まり、「狩猟規則」(1892(明治25)年)、「狩猟法」(1895(明治28)年)と次々に整備され、その後の「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」(1963年)、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(2003年)へと連なっている。同様に、「森林法」(1897(明治30)年)の風致保安林などは、現在の保安林制度となっている。天然記念物も、明治時代ではないものの、大正時代に入って間もなく「史蹟名勝天然記念物保存法」が制定(1919(大正8)年)されている。

 これに対して、「国立公園」の基となる「国立公園法」が制定されたのは、昭和6年(1931年)になってである。もちろん、国立公園がこの時期に突如として話題になったわけではない。明治時代に既に、「国設大公園設置ニ関スル建議案」(富士山中心)が第27回帝国議会で採択(1911(明治44)年)され、「日光ヲ帝国公園トナスノ請願」が第28回帝国議会で採択(1912(明治45)年)されている。さらに大正時代には、内務省は国立公園制度創設のために16候補地の調査を開始(1920(大正9)年)し、翌年には「明治記念日本大公園国立ノ請願」(富士山地域)が第44回帝国議会で採択(1921(大正10)年)された。

 明治時代からの動きにもかかわらず国立公園の誕生が他の制度に比較して遅れた理由は様々であるが、主要なものは米国と違って細分化された土地利用と土地所有形態、さらに国立公園の目的が自然保護が主体か、観光開発が主体かといった論争などであろう。これが、昭和に入って急遽制度化されることになったきっかけは、1929年(昭和4年)の米国ウォール街での株価大暴落に象徴される世界恐慌である。すなわち、外貨獲得のために外国人観光客を誘致することが国策となったのだ。実際この時期には、不況対策のための国際観光地開発(1927(昭和2)年 経済審議会答申)、国立公園協会設立(1927(昭和2)年)、国立公園調査会設置(1930(昭和5)年 閣議決定)、鉄道省(現在の国土交通省)に国際観光局設置(1930(昭和5)年)と相次いで関連施策が講じられている。そして、ついに「国立公園法」の制定(1931(昭和6)年)と国立公園指定(1934(昭和9)年)となるのである。ただし、国立公園の誕生は、決して外貨獲得の観光政策だけが原因ではなく、米国を範としながらも土地所有にこだわらない日本型の公園指定制度(いわゆる地域制)の考案などにより、懸案が解決したことも大きい。s-釧路湿原.jpg

 このような「国立公園」制度誕生の背景は、その後の日本の国立公園の性格に長く影を落としてきた。これについては、別のブログ記事で紹介する。それにしても、日本での国立公園誕生の時代背景は、円高の違いはあるものの、世界不況といい、観光立国と観光庁誕生といい、現在の社会経済情勢などと酷似している。果たして、現下の不況対策からは、将来にも影響を及ぼすような自然保護上の施策は生まれるであろうか、注目したい。

 (写真上) 明治時代からの国立公園候補「富士山」(静岡県側富士川から望む)
 (写真下) 釧路湿原国立公園(北海道)(2番目に新しい国立公園。最新の国立公園は「尾瀬国立公園」だが、日光国立公園からの分離独立(一部拡張)だから、実質的には釧路湿原国立公園が最新の国立公園ともいえる。)

 (関連ブログ記事)「富士山の麓で国立公園について講演」「主な講演
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