SSブログ

宮崎アニメ「もののけ姫」 人と自然 [ちょっとこだわる:民俗・文化・紀行・時事など]

 昨日(2010/2/27)のブログで、アカデミー賞候補の3D映画「アバター」と「先住民社会と保護地域」について書いた。その際、宮崎アニメの「もののけ姫」との類似性についても言及した。宮崎アニメは、人と自然を考える上でも多くの示唆を与えてくれる。

 s-屋久島林内p1260224.jpg「もののけ姫」には、「たたら場」をめぐる人間同士の争い、さらに「シシ神の森」の精霊たちと人間との争いが描かれている。「たたら」とは、古代から千年以上の歴史を有する日本独特の製鉄法で、木炭を燃焼させて砂鉄を還元し、製鉄する方法だ。鉄鉱石に乏しい日本では、原料に砂鉄を使用することが多かった。その際に、踏鞴(ふいご:足踏み式)で火力を高めた。そのふいごを古代には「たたら」と呼んだため、これを用いた製錬法ということで、たたら製鉄の名がついたといわれる。たたら製鉄は、近世には中国山地が中心となり、島根県出雲地方などで現在まで継がれている。出雲といえば神話の里、ヤマタノオロチや草薙の剣などの話も、このたたらと関係があるという。こうして精錬された鉄は、鋤や鍬などの農具をはじめ、さまざまな道具に使用された。なかでも、純度の高い玉鋼による日本刀の製作が有名だ。

 古代からたたら製鉄の中心地であった中国地方では、江戸時代に入ると鉄製品の需要の高まりとともにますます製鉄が盛んになった。このため、燃料であるアカマツ炭が大量に使用された。また、砂鉄の採取のために山肌は崩され、さらに精錬の際の汚水が川に流された。たたら製鉄により、現代でいう自然破壊や公害が生じ、それが深い森の奥にまで拡大するようになったのだ。中国地方の植生は、本来(潜在自然植生)はシイやカシなどの照葉樹林(常緑広葉樹林)である。しかし、古代からの森林伐採と土壌の養分の少ない花崗岩とがあいまって、現在のようなアカマツの林に置き換わってしまった。

 s-日光シカ(2)0752.jpg「もののけ姫」は、林縁部に住む人間のたたら製鉄の場(たたら場)拡大により、奥深い森林(原生林)に棲むシシ神や野生動物が追われてしまうという設定とみることができる。復讐心に駆られた乙事主(おっことぬし)や森の生き物たちは、たたり神となって人間を襲うようになった。しかし最後には、焼き払われた原生林も、緑の山に復活した。この復活した林は、いわば二次林であり、里山といったところだろうか。先のアカマツ林や武蔵野の雑木林(薪炭林)も、このように原生林が人間によって伐採・焼き払われ、その後の植生にも手を加え続けた(薪炭や木材のための伐採)ことの結果として成り立つものだ。しかし現在では、そのアカマツ林も松くい虫被害により大幅に減少してしまった。薪炭利用もなくなり、雑木林も荒れ果てている。「生物多様性国家戦略」(第三次:2007年11月)で指摘されている「第二の危機:生活様式の変化などによる自然の質の変化」だ。かつては、もののけ姫に描かれた人間による直接破壊(同、第一の危機)だったが、現在ではやっと復活した自然さえもがさらなる危機を迎えている。森の精霊からみれば、人間とは何と罪深いものだろう。


 (写真上)もののけ姫の森のモデルといわれる屋久島の森
 (写真下)森の生き物シカ(日光国立公園にて)

 (関連ブログ記事)「アバター 先住民社会と保護地域」、「国立公園 人と自然(7) 霧島屋久国立公園 神話と龍馬の霧島、縄文杉の屋久島」、「国立公園 人と自然(9) 吉野熊野国立公園 原始信仰と世界遺産の原生林」、「お天道様が見ている -公と私の環境倫理」、「自然の営みから学ぶ -人と自然の関係を見つめなおして


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。