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雄大な「神の座」に遊ぶ動物たちと咲き乱れる高山植物 -国立公園 人と自然(12)大雪山国立公園 [   国立公園 人と自然]

  北の国では、紅葉の季節から、長い冬の入り口に差し掛かろうとしている。全国でも一番早い紅葉の景色を見ることができることで有名な北海道の大雪山では、山頂部では既に紅葉から雪景色に変わりつつあるが、紅葉前線は麓にまで下りてきている。

 s-大雪山(裾合平) (winlive2).jpg大雪山は、一つの山の名ではなく、旭岳(2290m)を主峰に、黒岳、間宮岳など20連峰におよぶ山々の総称だ。十和田を愛し、十和田に眠る文人大町桂月は、大正10年(1921年)に来道し、大雪山にも登山した。その桂月は後に、「富士山に登って山岳の高さを語れ、大雪山に登って山岳の大きさを語れ」と記した。しかし、わが国の国立公園誕生の黎明期、その雄大さは残念ながら国立公園候補地とは足りえなかった。大正10年に当時の内務省が選定した国立公園候補地16カ所には、道内では阿寒、登別、大沼が挙げられているものの、大雪山の名はなかった。この国立公園選定の中心人物で日本の国立公園の父とも呼ばれる田村剛は、その著の中で、国立公園として第一流なのは富士山、日光、上高地、朝鮮金剛山(当時は日本領)などであり、第二流として、道内では箱庭的な美しさのある大沼公園(現在は国定公園)が挙げられているものの、大雪山は挙げられていない。しかし、足の悪い田村を駕籠(かご)に乗せて層雲峡などを案内した結果、田村も大雪山の雄大さに感銘を受けたという。この結果、大雪山は昭和9年(1934年)12月にわが国の国立公園の第1陣として指定された(厳密には、同年3月に霧島などが指定されているが、12月指定のものまでも含めて「最初の国立公園」とすることも多い)。今日の大雪山国立公園は、地元の人々の熱き想いと猛烈な陳情などの運動の結果である。

 アイヌの人々はこの壮大な山々を昔から「カムイミンタラ(神の座)」として崇めてきた。その山系は、例年だと9月に入ると早くも山頂付近から順にウラシマツツジやナナカマドなどの紅葉で染まりだす。やがて初雪もやってくると、雪の白と紅葉の赤や黄、さらに麓の緑とのコントラストが見事だ。

 この大雪山国立公園は、わが国最大の国立公園だ。また、神奈川県とほぼ同じ面積のこの公園の約95%は国有地(国有林)で、民有地の多いわが国の国立公園の中では最も高い国有地率を誇っている。北海道の自然はもともと雄大だが、大雪山のエゾマツやトドマツなどの針葉樹原生林や山頂部の高山植物・雪田植物の群落はいずれも大規模で、見る者が圧倒される。単にお花畑が大きいだけではなく、エゾノツガザクラなど1種類ごとの群落面積がとにかく大きい。ここにはヒグマやエゾシカなどの哺乳類、クマゲラやシマフクロウなどの鳥類、さらにウスバキチョウやダイセツタカネヒカゲ、アサヒヒョウモンなどの高山蝶が生息している。氷河期の生き残りといわれるナキウサギは、重なり合った岩場を住家としており、その名のとおり鳴き声をあげて仲間に警戒を伝えたりする。

 s-銀河の滝(層雲峡)2 (winlive2).jpgまた、大雪山には羽衣の滝など滝も多い。特に層雲峡には無数の滝がかかる。中でも銀河の滝と流星の滝が有名だ。層雲峡は石狩川に沿って約24kmにわたり、100mから200mもの高さの柱状節理(マグマが凝固してできる柱状の割れ目)の断崖が続くわが国最大級の大渓谷で、そのために滝も多いのだ。川沿いの大函、小函は、柱状節理の景観が見事だが、残念ながら車道からは見ることができない。道路改良のために現国道はトンネルとなってしまっている。柱状節理というのはいわば風化の進んだ岩盤だから、落石も多い。現在でも道路改良が続き、トンネルは年毎に多くなっていく。これも安全のためには致し方ないか。落石だけではなく、十勝岳の噴火による災害もたびたび起きている。

 層雲峡の紅葉も間もなく終わろうとしている。これから雪に覆われた長い冬が始まるが、道路改良も進み、除雪体制も進んでいる現在の北海道では、家に閉じこもることもなくなってきた。真冬でも運行するロープウェイなどにより、凛とした「カムイミンタラ」の世界を訪れることもできる。しかし、本当の大雪山の自然は厳しい。くれぐれも自然を甘く見て、侮らないようにしてもらいたい。

大雪山国立公園 1934年12月指定 226,764㌶ 北海道

 (写真上) 高山植物が咲き乱れる裾合平(旭岳)
 (写真下) 層雲峡 銀河の滝

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