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祝 富士山世界文化遺産登録 -世界遺産をおさらいする [保護地域 -国立公園・世界遺産]

 プノンペン(カンボジア)で開催中のユネスコ第37回世界遺産委員会において、本日(2013年6月22日)富士山が世界遺産リストに登録することが決定したと、富士山世界文化遺産学術委員会委員の私にも速報が入った。

 これによると、日本時間で22日17:28に世界遺産一覧表への「記載」が決定されたという。いわゆる「登録」の決定だ。世界遺産一覧表への正式な記載日は、委員会の審議最終日である6月26日付となる見込みで、記載する正式名称は「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」、争点となっていた三保の松原も含まれることになったという。まずは、目出度し、目出度しだ。

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富士山と田貫湖


 この富士山を含め、世界遺産についてはこれまでもブログで紹介してきたが、この機会におさらいをしてみよう。

 世界遺産は、1972年に成立した世界遺産条約(正式名:世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約)に基づき世界遺産リストに登録されるものだ。

 エジプトのアスワン・ハイ・ダム建設による遺跡水没に端を発した世界的な文化財を保護するための条約策定と、国際自然保護連合(IUCN)などが進めてきた世界的な自然を保護するための条約策定とが、それまで別々に作業されてきた。

 これらの動きが、1972年にストックホルム(スウェーデン)で開催された初の世界的な環境会議「国連人間環境会議」を契機に合体して結実したのが、この世界遺産条約である。

 こうした経緯もあり、世界遺産には「文化遺産」と「自然遺産」とがある。条約に定められたそれぞれの登録基準のうち、少なくとも1項目以上が該当する「顕著な普遍的価値」を有すると世界遺産委員会で認められたものである。2005年には、両者の基準を備えた「複合遺産」という区分も誕生した。

 日本は、先進国の中では一番遅く、条約制定から20年もたった1992年にやっと締結(批准)した。この年は、国連環境開発会議(リオサミット)が開催された年でもある。翌1993年に法隆寺と姫路城が文化遺産に、白神山地と屋久島が自然遺産にそれぞれ登録され、その後登録数も増加して、今日の富士山登録を迎えた。

 条約を管轄しているユネスコによると、2012年9月現在で190カ国が条約を締結しており、世界遺産リスト登録数は、文化遺産747件、自然遺産193件、複合遺産29件の合計969件で、登録遺産は157カ国に分布しているという。

 世界遺産リストを眺めて、訪問した世界遺産を地域ごとに掲げてみると・・・・ざっとこんなところ

【ヨーロッパ】
ボイン渓谷の遺跡群(文化遺産、アイルランド)、ジャイアンツ・コーズウェーとコーズウェー海岸(自然遺産、イギリス)、ロンドン塔、キューの王宮植物園群(ともに文化遺産、イギリス)、ローマ歴史地区(文化遺産、イタリア)、アントニ・ガウディの作品群、セゴビア、トレド(すべて文化遺産、スペイン)、ヴェルサイユの宮殿と庭園 、パリのセーヌ河岸 (ともに文化遺産、フランス)、ブルッヘ(ブルージュ)歴史地区(文化遺産、ベルギー)、クラクフ歴史地区、ヴィエリチカ岩塩坑、ワルシャワ歴史地区(すべて文化遺産、ポーランド)
 

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  セゴビア(スペイン)              サグラダ・ファミリア(スペイン)

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   トレドの泉(イタリア)             ニューグレンジ(アイルランド)


   s-ジャイアントコーズウェイ.jpg   s-カカドゥ国立公園.jpg
   ジャイアント・コーズウェイ(イギリス)    カカドゥ国立公園(オーストラリア)

【オセアニア】
カカドゥ国立公園 、ウルル=カタ・ジュタ国立公園(ともに複合遺産、オーストラリア)、グレーター・ブルー・マウンテンズ地域(自然遺産、オーストラリア)、シドニー・オペラハウス(文化遺産、オーストラリア)

【アジア】(日本を除く)
ボロブドゥル寺院遺跡群、プランバナン寺院群、バリ州の文化的景観(すべて文化遺産、インドネシア)、ウジュン・クロン国立公園、スマトラの熱帯雨林遺産(ともに自然遺産、インドネシア)、 石窟庵と仏国寺、昌徳宮、慶州歴史地域(ともに文化遺産、韓国)、済州の火山島と溶岩洞窟(自然遺産、韓国)、北京と瀋陽の明・清王朝皇宮(紫禁城など)、万里の長城、承徳避暑山荘と外八廟、明・清王朝の皇帝墓群(すべて文化遺産、中国)、九寨溝(自然遺産、中国)、峨眉山と楽山大仏(複合遺産、中国)、キナバル国立公園(自然遺産、マレーシア)

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 仏国寺(韓国)               慶州古墳群(韓国) 
 
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紫禁城(故宮博物館)(中国)        万里の長城(中国)

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   楽山大仏(中国)           九寨溝(中国)


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峨眉山(中国)                  キナバル山(マレーシア)

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ソンサンイルチュルボン(韓国・済州島)  

【南北アメリカ】
カナディアン・ロッキー山脈自然公園群(自然遺産、カナダ)、エバーグレーズ国立公園、ヨセミテ国立公園、ハワイ火山国立公園(すべて自然遺産、米国)、メキシコシティ歴史地区とソチミルコ、古代都市テオティワカン、古代都市ウシュマル(すべて文化遺産、メキシコ)、パナマのカリブ海側の要塞群:ポルトベロとサン・ロレンソ(文化遺産、パナマ)、グアナカステ保全地域(自然遺産、コスタリカ)、カナイマ国立公園(自然遺産、ベネズエラ)、クスコ市街、リマ歴史地区、ナスカとフマナ平原の地上絵(すべて文化遺産、ペルー)、マチュ・ピチュの歴史保護区(複合遺産、ペルー)

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 バンフ国立公園(カナダ)          ヨセミテ国立公園(米国) 


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カナイマ国立公園(ベネズエラ)       ウシュマル遺跡(メキシコ)

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  マチュピチュ(ペルー)          太陽のピラミッド(メキシコ) 



【アフリカ】
グレートリフトバレーのケニア湖水システム(自然遺産、ケニア)、イシマンガリソ湿地公園(自然遺産、南アフリカ)

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 イシマンガリソ湿地公園(南アフリカ)


 自分の訪問した世界遺産をリストアップしたのは初めてだが、こうしてみると我ながら結構な箇所の世界遺産を訪問していると感心する。日本は除いて、21か国50件の世界遺産だ。

 しかし、そのほとんどは世界遺産とは意識せずに、また世界遺産訪問を目的にしたものではない。長年の間に、結果としてこれだけの世界遺産を訪れただけだ。ちょっと自慢になってしまったかも・・・・

 日本では、今回の富士山を含めて、文化遺産13件、自然遺産4件が登録されている。私は、世界遺産登録以前を含めれば、文化遺産はすべて訪問したことがあるが、肝心の自然界遺産のうち白神山地には残念ながらまだ足を踏み入れたことがない。すぐ近くの深浦十二湖などには40年も前に訪問したことがあるのだが・・・

【日本】
(文化遺産)
法隆寺地域の仏教建造物(1993年)、姫路城(1993年)、古都京都の文化(1994年)、白川郷・五箇山の合掌造り集落(1995年)、原爆ドーム(1996年)、厳島神社(1996年)、古都奈良の文化財(1998年)、日光の社寺(1999年)、琉球王国のグスク及び関連遺産群(2000年)、紀伊山地の霊場と参詣道(2004年)、石見銀山遺跡とその文化的景観(2007年)、平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群(2011年) 、富士山-信仰の対象と芸術の源泉(2013年)

(自然遺産)
屋久島(1993年)、白神山地(1993年)、知床(2005年)、小笠原諸島(2011年)


 世界遺産委員会での審議の俎上に載るためには、まずは各国が推薦した暫定リストに掲載される必要がある。わが国では現在のところ、富士山、武家の古都・鎌倉以外にも、富岡製糸場と絹産業遺産群、北海道・北東北の縄文遺跡群、佐渡鉱山の遺産群、彦根城など10件がリストアップされている。このほか、世界遺産による地域の活性化を期待して、全国で100件以上が誘致活動を行っているという。

 確かに世界遺産の登録により、日本の世界遺産の地域では、観光客数が急増した。これとともに自然や地域生活への影響も生じてきた。富士山でも、登山者の増加とこれによるゴミ、し尿問題などが懸念されている。地元では、入山者数制限や入山料徴取なども話題に上っている。

 このブログでも報告したように、インドネシアのバリサン山地(スマトラの熱帯雨林遺産)の自然遺産は、熱帯林の違法伐採によるコーヒー・プランテーション化などによって「危機遺産」に登録されてしまった。米国のエバーグレーズ国立公園も、湿地生態系として自然遺産に登録されているが、流入する汚水などによる生態系の悪化から、2010年に危機遺産に登録されてしまった。

 s-南ブキット・バリサン.jpg      s-エバーグレーズ国立公園.jpg
  南ブキット・バリサン国立公園(インドネシア)    エバーグレーズ国立公園(米国)


 この危機遺産は、前述の文化遺産、自然遺産、複合遺産の正式な分類とは異なるが、世界遺産の存続が危ぶまれる状態になったものは危機遺産リストに登録されるのだ。

 自然遺産第1号のガラパゴス諸島(エクアドル)は、観光客の急増とそれに伴う汚染などによる生態系影響のため、2007年には危機遺産リストに登録されてしまった。その後の取組により、2010年には危機遺産リストから除かれた。

 しかし、ドイツのドレスデン・エルベ渓谷のように、交通渋滞緩和のための渓谷への架橋によって、渓谷と都市の一体的な文化景観や自然が損なわれるとして、世界遺産の取り消し(抹消)にまで至った例もある。

 そして、現在開催中の世界遺産委員会では、内戦が続くシリアにある古代都市アレッポなどシリア全土6カ所の世界遺産(いずれも文化遺産)を危機遺産に登録することが決議された(6月20日)。

 アフガニスタンでは、アフガン紛争により2003年以来危機遺産になっていたバーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群(文化遺産)の石造大仏が、当時のタリバン政権によって2001年に爆破破壊され、その映像が全世界にニュースとして配信されるというショックな事件も起きた。

 富士山の世界遺産登録自体は、これに学術委員として携わった私としても喜びをともにしたいが、今後の保全管理の重要さを考えると身の引き締まる思いだ。

 日本の象徴の富士山が、危機遺産に、そして登録抹消になるようなことが決してないよう、願わずにはいられない。
 
 そして同時に、人類共通の財産を脅かす戦争・紛争がなくなることも願わずにはいられない。アウシュビッツや原爆ドームのような「負の遺産」は、これ以上増やしたくない。願い下げだ!!


(ブログ内関連記事)

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旅爺さん

三保の松原も含めてOKになりましたが、赤城山では松くい虫にやられて松が全滅状態です。三保の松原は大丈夫なのかな?
by 旅爺さん (2013-06-23 08:56) 

staka

旅爺さん、コメントありがとうございます。
全国各地のマツが松くい虫にやられてしまいましたね。昭和50年代をピークにだいぶ減ってきてはいるようですが。
世界遺産、三保の松原は枯らすわけにはいきませんね。
by staka (2013-06-23 09:30) 

mimimomo

おはようございます^^
世界の世界遺産には結構訪れていますが、案外日本の世界遺産には行っていないところが多々あります。
富士山もあまり観光客が増えないほうが良いように思います。危機遺産では困りますものね。
by mimimomo (2013-06-23 09:43) 

staka

mimimomoさん、いつもコメントありがとうございます。
世界遺産で有名になって観光客が増えるのは良いのですが、それに伴って地元の人の生活が支障をきたしたり、環境が汚染・破壊されたりするのは困りますね。
世界どこでも共通の困難な問題です。
でも、やはり世界遺産の地には行ってみたいですよね(*^^*)
by staka (2013-06-23 11:03) 

mamii

富士山、世界遺産に登録されましたが、有名になって環境問題を起こさないといいのだが・・・・
by mamii (2013-06-23 15:36) 

staka

mamiiさん、まったく同感です。
現在でも、7・8月の短期間に30万人もの登山者があるといいます。日本の世界自然遺産先進地の例をみても、観光客が倍増し、環境問題が懸念されていますしね。
by staka (2013-06-23 17:33) 

hidamari

三保の松原も含めての世界遺産登録になったのですね!
世界遺産になって、ますます保護と利用のバランスが
大切になってきますね
尾瀬でも今年は山開き以降例年以上の
入山者がありますが、富士山もまた世界中から
多くの人が登山に訪れるでしょうね~!

by hidamari (2013-06-24 04:27) 

staka

hidamariさん、そうなんです。三保の松原には、早速観光客が押しかけているとか。
海外からの観光客も、今まで以上に富士山を目当てに来る人が増えるでしょうね。
尾瀬もミズバショウシーズンなどの混雑は大変のものですが、富士山でもきっと登山道は数珠つなぎ。落石事故などなければよいのですが・・・・
by staka (2013-06-24 14:18) 

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