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富士山入山料 -国立公園の入園料と利用者数制限 [保護地域 -国立公園・世界遺産]

 本年6月の世界文化遺産の登録以来、富士山旋風が吹き荒れている。テレビ番組も富士山特集がたびたび放映されるし、本屋の店頭にも富士山コーナーが出現した。

   s-富士山ご来光CIMG0499.jpg    s-千駄ヶ谷富士塚CIMG0455.jpg
   左) 富士山ご来光   多くの人がご来光を拝みに深夜から登山する          
   右) 都内の富士塚(千駄ヶ谷富士) 
             江戸時代にも富士山ブームで富士講が盛んになった
             富士山に登拝できなくとも近所のミニ富士(富士塚)登山でご利益
  
 富士山本体にも登山者が押し寄せている。環境省の登山者数速報値発表(2013年8月1日環境省関東環境事務所)によると、山開きの7月1日から21日までの8合目付近での登山者数は7.9万人だという。これは、平成17年の各登山道8合目付近への赤外線センサー設置以来最高で、昨年同期よりも約2万人、35%増だそうだ。

 今年は、各登山道で環境保全協力金の徴収が7月25日から8月3日までを試行期間として始まった。いわゆる「入山料」で、金額は1000円だ。

 世界遺産の登録に際し、ますます増大が予想される登山客による環境汚染などの懸念から、より一層の環境保全が求められた。このこともあり、トイレの管理、ごみ清掃などに要する費用の利用者負担、さらには登山者数の規制などを念頭に地元で入山料徴収が検討されてきた。特に快適なトイレにしようとすればするほど、電気水道などのない山岳地では莫大な管理費用がかかる。

 しかし、徴収のための根拠となる法制度だけではなく、実施体制や徴収金の使途なども確定できなかったため、とりあえず“試行”することになった。「入山料」といわず「協力金」と名付けられているのも、そのためだ。

 米国など海外の国立公園を訪問したことのある人は、入り口のゲートで入園料(入山料)を支払った経験もあるに違いない。しかし日本の国立公園では、入り口ゲートもないし、ましてや入園料徴収などは考えられない。

    s-キナバル国立公園CIMG0024.jpg        s-クルーガー国立公園ゲートCIMG0290.jpg
 キナバル国立公園(マレーシア)のゲート   クルーガー国立公園(南ア)のゲート

 その最大の理由(原因)は、米国などの国立公園が国立公園専用地として国有地化されて管理されているのに対して、日本の国立公園は一般住民も居住する耕作地や産業用地として利用されている民有地などを国立公園に指定しているからだ。一般住民の居住区で民有地でもある地域で、いくら国立公園といっても勝手にゲートを作って入園料を徴収したら、それこそ憲法違反にもなりかねない。

 この米国型と日本型の国立公園における土地所有、管理制度のちがいを、私はあえて「ディズニーランド型」と「大道芸(ストリートパフォーマンス)型」と命名して解説してきた(「富士山の麓で国立公園について講演」参照)。

 ディズニーランドは、さまざまなアトラクションなどを楽しみに行く場として管理運営され、利用者も当然のごとく入り口で入園料金を払っている。これに対してストリートミュージシャンが演奏する駅前広場や道路などは、もともとは通行のための場であり、一般の人が自由に立ち入ることのできる場だ。そこでの演奏に対しては、強制的に料金を取ることはできず、せいぜいチップ程度だ。
s-大道芸CIMG3034.jpg
上野公園での大道芸
通りすがりの人が誰でも見物できる

 この例えは、必ずしも正確ではないし、このブログでは解説内容も不十分だが、両者の違いのニュアンスをご理解いただければ幸いだ。

 日本の国立公園で、この入園料あるいは入山料が検討されたのは、今回の富士山が初めてではない。尾瀬の入山料問題は、1988(昭和63)年に自然保護団体が入山料構想を発表したことに端を発して、国会論争にもなった。入山料の根拠となる法律がなく憲法違反になる、誰でも楽しむ山や国立公園が金持ち(入山料を払うことのできる人だけ)のものになってしまう・・・・・・・・

s-尾瀬ヶ原至仏山DSC00935.jpg
尾瀬国立公園尾瀬ヶ原

 入園者数の規制の意味では、マイカー規制もある。尾瀬や上高地などでは、中心部(上高地では中の湯から上高地、尾瀬では沼山峠や鳩待峠まで)へのマイカーでの乗り入れを規制して、手前でシャトルバスに乗り換えるものだ。これによって、中心部までの到達をスムーズにし、排気ガスや駐車のための林内乗り入れを減少させ、さらにシャトルバス乗換に伴う若干の金額と不便さとによって、利用者数の抑制をも目指した施策だ。

 多くのところでは夏の混雑期にだけ実施されているが、上高地では通年で実施されている。交通安全や渋滞対策の観点から道路交通管理者など(警察や自治体など)との協力のもとに実施されているが、直接的に国立公園ゲートで利用者数のコントロールができない日本では、実質的な利用者規制手段でもある。

 富士山でも、富士スカイライン(静岡県側)と富士スバルライン(山梨県側)では、シーズン中は料金所(跡)~5合目までの間はマイカーの乗り入れが禁止されてシャトルバスかタクシーなどだけの利用となる。このマイカー規制は、実施期間が年々延長され、実施路線も増加している。

 しかし、マイカー規制の前夜などはかえって登山者が殺到し、5合目駐車場が満杯のために車を手前の路上においてから5合目駐車場(頂上ではない!!)まで延々と数時間も歩く人々と路上駐車の車の列の光景が毎年繰り広げられている。

 入り口ゲートで入園料徴収や利用者数のコントロールができない日本の国立公園では、このほかにも様々な工夫をして利用者負担や利用者コントロールを試みている。駐車場利用に伴う協力金(自然公園財団)やチップ式公衆トイレなど、別の機会に紹介したい。

 今回の富士山環境保全協力金(入山料)は、事前のアンケート調査結果でも協力に好意的な回答が多かったが、実際の募金でも意外と金額が集まったようだ。私がかつて担当したころの富士山のチップ式トイレでの事前アンケートと募金実態の乖離とは大きな違いだ。

 かつての経験といえば、尾瀬での入山料問題が起きた1988(昭和63)年の夏、国会対応などで夏休みもとれない私をあてにできない妻と子供たちは、さっさと自分たちだけでオーストラリア旅行に出かけてしまった。それまでオーストラリア旅行の経験のない私は、しばらくの間、食事のたびのオーストラリアでの出来事の話題の仲間入りをすることができなかった。

 そう、「入山料」と聞くと、今でもあの25年前の夏のことを思い出す。家族からの疎外にかなり落ち込んだようだ。今と違って仕事優先の世の中での自業自得でもあるけどね。

 久しぶりに尾瀬にでも行ってみようか。

 【ブログ内関連記事】

 「富士山の麓で国立公園について講演
 「祝 富士山世界文化遺産登録 -世界遺産をおさらいする
 「富士山 世界文化遺産登録へ -その秀麗な姿と信仰と芸術の源泉、そして自然
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mimimomo

おはようございます^^
>入山料の根拠となる法律がなく憲法違反になる、誰でも楽しむ山や国立公園が金持ち(入山料を払うことのできる人だけ)のものになってしまう< 
こう言う考え方は、いかにも戦後教育の悪しき面が出た思考ですね。
皆で大事にしようと思えば、法律を作れば良い。
むしろあの手この手で制限するほうが、行きにくい人が出てくるやも知れません。
富士山のみならず、やはり自然を大事に、綺麗な国土であって欲しいです。
by mimimomo (2013-08-05 07:06) 

staka

mimimomoさん、いつもコメントありがとうございます。
できるだけ多くの人に自然に親しんでもらいたいし、かといって過剰利用で自然が荒れてしまっては元も子もないし。
利用者の皆さんが自覚を持って、ゴミの持ち帰りも含めて対処してくれればよいのですが・・・・
突き詰めていくと、休暇の取り方、つまり勤務体系・ワークバランスなど社会システムや生活の質、経済活動を含めた価値観にまでも関係してきますね。
by staka (2013-08-05 18:50) 

hidamari

ぜひぜひ、久しぶりの尾瀬を歩きにきてください。
いろいろ聞かせてほしいです!!
by hidamari (2013-08-13 06:55) 

staka

hidamariさんは、尾瀬ブログ仲間をたくさんご存知のようですね(真利さんとか、よしころんさんとかとか・・・・)。
尾瀬で皆さんと逢えたら、一層楽しくなるでしょうね。
しばらくご無沙汰の私には、尾瀬はノスタルジアの場でもありますが。
by staka (2013-08-13 11:01) 

mimimomo

こんにちは^^
毎日暑いです。しかし夏がいいわ~冬は嫌いです。
富士山へ出かける人が凄いですね。
先日新宿で待ち合わせをしていたら、凄い人《ツアー客》
何処へ行くのかお訊ねしたら『富士山』ですって。
ヒールのある靴の方もいらっしゃったから五合目あたりまででしょうかしらね。
世界遺産になったから、兎も角行ってみようという方が増えたようですね。
by mimimomo (2013-08-14 11:41) 

staka

mimimomoさん、とにかく暑いですねェ~ 富士山頂はきっと涼しいでしょうね。

富士山も、京都や奈良の世界遺産と同じと考えているのか、気楽に行けるものと思っている人も多いようですね。ツアーの宣伝パンフなどでも、世界遺産富士山の企画商品が目白押しです。
でも、ブームが去ったら、ゴミとし尿だけが残ったというのでは困りますね。
地元にとっても、細く長く観光客が来てくれるほうがメリットがあるのですが・・・・
by staka (2013-08-14 12:36) 

U3

 世界遺産に登録する前に登録後の運営を含めたビジョンをしっかり構築している諸外国と、登録されてからおもむろに考える日本との違いが如実に出ていますね。イメージ先行で中身が伴わないのはいつもの事です。これを果たして日本人の国民性と言い切って良いのかどうかは分かりません。
 因みにわたしは世界遺産登録などしない方が良いという考えです。自分の国の文化は自分達で守る。これ基本中の基本だと思います。これはナショナリズムではありません。
by U3 (2013-08-14 22:06) 

staka

U3さん、コメントありがとうございます。
 富士山の世界遺産登録は、日本人には「まだだったの?」「なぜ今頃?」と思う人が多いようですね。
 「日本の象徴が世界遺産にもなっていないのはおかしい」として、富士山を世界遺産にする国民会議も設立されました。ちなみに、会長は中曽根元総理です。
 さらに、観光など産業経済面からの期待が大きいのも事実ですね。現に、観光客も激増しましたし。
 いずれにしろ、危機遺産にならないようにしないといけませんね。
by staka (2013-08-14 23:48) 

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