奇跡の一本松と川を遡った津波 -被災地訪問記2 [日記・雑感]
今回の被災地訪問で、どうしても訪れたい場所があった。それは陸前高田市の「奇跡の一本松」だ。
全国巨樹・巨木林の会の会長でもある私は、巨樹についての寄稿を頼まれると、「人と巨樹との関わり」あるいは「巨樹のドラマ」として、このところは奇跡の一本松を取り上げてきた。しかし、実のところは訪問したことはなかった。
陸中海岸国立公園の名勝「高田松原」は、全長2㎞、7万本の松林が続き、海水浴や散策の場として市民に親しまれていた。かつてのチリ地震津波では、津波の威力を軽減して災害を少なくしたという。しかし、今回の東日本大震災の津波にはひとたまりもなく壊滅してしまった。その中で、唯一残ったのがご存知の松だ。これを人々はいつしか「奇跡の一本松」「希望の一本松」などと呼ぶようになった。
この一本松も、侵入した海水に根を傷めつけられ、樹木医など関係者の努力の甲斐もなく枯死してしまった。現在は、往時をしのぶレプリカ(複製)が設置されている。また、接ぎ木や実生苗による後継樹も育成されているという。
この間、地元の人々には復興への希望と勇気を与え、全国からの支援の絆の象徴でもあった。残念ながら、一本松が「巨樹」となることはもはやありえない。でも、人々の心の中で育ち続け、いつしか巨樹となってほしい。
土台だけが残る高田市内 ガレキの山もまだそのまま
それにしても、海岸沿いに拓けた陸前高田の市街地では懸命な復興作業が続けられているが、まだまだ無残な姿をさらしている。ここにかつては家並みがあり、人々の平穏な生活があったと思うと、目頭が熱くなるのを禁じ得ない。
その日の朝、朝食に立ち寄った「竹駒食堂」は、海岸から4~5㎞ほど内陸に入ったJR大船渡線竹駒駅の近くにある。ログハウス風の小さな食堂で、地元の女性たちが元気に料理を作り、配膳をしている。(竹駒食堂に立ち寄った経緯は、次回訪問記にて)
どこにでもありそうな食堂だが、宮古市田老町の被災地から海岸沿いを南下してきた今回のドライブで目に焼き付いた光景を知る者にとっては、食堂周辺の光景にも戸惑いを隠せなかった。国道340号沿いなのに、家もまばらで、夏草に覆われた空き地が目立つ、何やら不思議な光景だ。そう、これまで見てきた津波被災地と同じ光景なのだ。
(左) いまだに草地のままの被災地には打ち上げられた(?)ボートが
(右) 世界大遺跡との入口看板も、下半部は津波で壊されてしまった
食堂の女性に聞いてみると、気仙川を遡った津波により周囲の家はすべて流され、最近復興されてきたところだという。道路沿いにある「世界大遺跡玉山霊場」の大看板も、下3分の1ほどは津波により破壊されている。草原にポツンと展示してあるかのようなモーターボートも、津波で海岸からもたらされたものかもしれない。
奇跡の一本松入口の駐車場の仮設土産物店の男性は、「自分たち漁師は津波の被災も覚悟していたが、竹駒のような内陸の人々には予想もできなかっただろう」と言っていた。
チリ地震津波などを経験した人々、地域、でさえ予想もできなかった今回の大津波。単に想定外と言って済ますわけにもいかないほどの大被害をもたらした。そのことは、福島原発事故も同じだ。
被災地の光景が焼付いた脳裡は、折に触れて震災のすさまじさを甦らせて悲しみを湧き出させるが、田老町の仮設作業場で黙々と干し昆布の作業をしていた漁民の皆さん、竹駒食堂で働く女性たち、仮設土産物売り場のおじさん・おばさん、その他多くの人々の復興への願いと元気な姿からは、逆に明日への希望とエネルギーを与えられる。
私に明日への活力を与えてくれた被災地の皆様の一刻も早くの復興を願わずにはいられない。そして、震災のメモリーが次々と消えていく中、奇跡の一本松はいつまでも人々の心の中で育ち続けて巨樹となって、希望の象徴の一本松になってほしい。
【ブログ内関連記事】
「震災被災跡地の風化 -被災地訪問記1」
「三陸復興国立公園の中核として -国立公園 人と自然(14)陸中海岸国立公園」
「どこんじょう 震災にめげずに巨木フォーラム開催」
「震災復興への思いを込めて 被災地での巨木フォーラム」
「地震ニュースとCMの多様性 -私的テレビ時評」
「イベント自粛と被災地との連帯 -自粛の連鎖から多様性を考える」
「津波とマングローブ林再生 -スマトラ島のマングローブ林から(1)」
全国巨樹・巨木林の会の会長でもある私は、巨樹についての寄稿を頼まれると、「人と巨樹との関わり」あるいは「巨樹のドラマ」として、このところは奇跡の一本松を取り上げてきた。しかし、実のところは訪問したことはなかった。
陸中海岸国立公園の名勝「高田松原」は、全長2㎞、7万本の松林が続き、海水浴や散策の場として市民に親しまれていた。かつてのチリ地震津波では、津波の威力を軽減して災害を少なくしたという。しかし、今回の東日本大震災の津波にはひとたまりもなく壊滅してしまった。その中で、唯一残ったのがご存知の松だ。これを人々はいつしか「奇跡の一本松」「希望の一本松」などと呼ぶようになった。
この一本松も、侵入した海水に根を傷めつけられ、樹木医など関係者の努力の甲斐もなく枯死してしまった。現在は、往時をしのぶレプリカ(複製)が設置されている。また、接ぎ木や実生苗による後継樹も育成されているという。
この間、地元の人々には復興への希望と勇気を与え、全国からの支援の絆の象徴でもあった。残念ながら、一本松が「巨樹」となることはもはやありえない。でも、人々の心の中で育ち続け、いつしか巨樹となってほしい。
土台だけが残る高田市内 ガレキの山もまだそのまま
それにしても、海岸沿いに拓けた陸前高田の市街地では懸命な復興作業が続けられているが、まだまだ無残な姿をさらしている。ここにかつては家並みがあり、人々の平穏な生活があったと思うと、目頭が熱くなるのを禁じ得ない。
その日の朝、朝食に立ち寄った「竹駒食堂」は、海岸から4~5㎞ほど内陸に入ったJR大船渡線竹駒駅の近くにある。ログハウス風の小さな食堂で、地元の女性たちが元気に料理を作り、配膳をしている。(竹駒食堂に立ち寄った経緯は、次回訪問記にて)
どこにでもありそうな食堂だが、宮古市田老町の被災地から海岸沿いを南下してきた今回のドライブで目に焼き付いた光景を知る者にとっては、食堂周辺の光景にも戸惑いを隠せなかった。国道340号沿いなのに、家もまばらで、夏草に覆われた空き地が目立つ、何やら不思議な光景だ。そう、これまで見てきた津波被災地と同じ光景なのだ。
(左) いまだに草地のままの被災地には打ち上げられた(?)ボートが
(右) 世界大遺跡との入口看板も、下半部は津波で壊されてしまった
食堂の女性に聞いてみると、気仙川を遡った津波により周囲の家はすべて流され、最近復興されてきたところだという。道路沿いにある「世界大遺跡玉山霊場」の大看板も、下3分の1ほどは津波により破壊されている。草原にポツンと展示してあるかのようなモーターボートも、津波で海岸からもたらされたものかもしれない。
奇跡の一本松入口の駐車場の仮設土産物店の男性は、「自分たち漁師は津波の被災も覚悟していたが、竹駒のような内陸の人々には予想もできなかっただろう」と言っていた。
チリ地震津波などを経験した人々、地域、でさえ予想もできなかった今回の大津波。単に想定外と言って済ますわけにもいかないほどの大被害をもたらした。そのことは、福島原発事故も同じだ。
被災地の光景が焼付いた脳裡は、折に触れて震災のすさまじさを甦らせて悲しみを湧き出させるが、田老町の仮設作業場で黙々と干し昆布の作業をしていた漁民の皆さん、竹駒食堂で働く女性たち、仮設土産物売り場のおじさん・おばさん、その他多くの人々の復興への願いと元気な姿からは、逆に明日への希望とエネルギーを与えられる。
私に明日への活力を与えてくれた被災地の皆様の一刻も早くの復興を願わずにはいられない。そして、震災のメモリーが次々と消えていく中、奇跡の一本松はいつまでも人々の心の中で育ち続けて巨樹となって、希望の象徴の一本松になってほしい。
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一本だけ残った松のことをニュースで知った時は、本当に感動しました。そして、それも複製になってしまったのが残念でしたが、このように写真で拝見するとやはり感無量です。希望の象徴に、きっとなりますね!
by palette (2013-10-27 22:54)
paletteさん、7万本の中の1本。やはり感動ですね。
いつまでも全国の人々の心の中に残り、そして陸前高田の人々が日々見上げる希望になってもらいたいものです。
by staka (2013-10-27 23:51)
家の土台だけが広がる景色に胸が詰まりました。
ここが玄関だったのかな、あそこが浴室だったのかな・・・と思うだけで涙が溢れ、車から降りられませんでした。
by 森田惠子 (2013-10-30 17:41)
森田惠子さんもそうでしたか。
一瞬にして家々が流されていくあの光景は、それまではテレビ映像の中だけでしたが、現実に被災地に立ってみるとやはり胸に迫るものがありますね。
by staka (2013-10-30 18:38)
こんにちは。
お越しいただき有り難うございます。♩
by yakko (2013-11-02 12:52)