サイレント・スプリング? [生物多様性]
花も咲き乱れ、虫や野鳥たちも賑やかになるこの時期に、生命の躍動が感じられないという化学農薬DDTへの警告を発したのは、米国の女性科学者レイチェル・カーソン著『サイレント・スプリング(邦題:沈黙の春)』(1962年)だ。
地球環境問題に対する世界の関心が高まる契機ともなった著名な書物だ。
わが家の庭で、これを体感するかのような現象が見られた。農薬で処理された作物の種と不稔性品種改良、あるいは遺伝子組換えの作物?
家人が庭で大豆の種を蒔いた。若芽が出ると早速見張りをしていたキジバトが降り立ち、若芽をついばみ全滅に近い。農家が野鳥を害鳥として嫌う気持ちもわかる気がする。
庭で果実が実った時も、野鳥との競争だった。先日も、キンカンにカラスが群がり実を食べだしたので、あわてて刺で手を痛めながら収穫した。
大豆とほぼ同時に種を蒔いたツルナシインゲンの方は、食べられることもなく青々とした芽が育っている。
キジバトが大豆は好物だけれども、インゲンは嫌いとも思えない。
異なるのは生産地で、大豆種子(豆)は国産で、インゲン種子(豆)はアメリカ産というくらいだ。さらに、インゲン種子のパッケージをよく見ると、「チウラム粉衣処理」と書いてあった。種が薄赤に色付されていたのは、このことか。
ネットで調べると、チウラムとは農薬の一種で、殺菌剤や鳥の忌避剤として使われているらしい。なるほど、土壌細菌による腐りなどを避けて種の発芽率を上げ(パッケージでは発芽率85%以上の表示が)、おまけに鳥がついばむのを避けることができるとは、一石二鳥だ。
確かに無処理の国産大豆はキジバトの食害にあい、農薬処理のアメリカ産インゲン豆はキジバトも食べない。
自家栽培の立場からはありがたいが、野生生物も寄り付かないのはどうか、ちょっと気になる。いくら分解が速くて人体に無害だとはいえ、やはり気になる。昔から、「虫も好かない」というけれど。
これが、体感サイレント・スプリングその1。
その2は、最近人気の豆苗(とうみょう)。
豆苗とはエンドウ豆の若菜で、最近では植物工場で豆を発芽させたものが出回り、水だけで育ち、安く栄養も豊富で、何度も再収穫もできる。人気が出るはずだ。
冬の青菜の少ない時期に、わが家でも室内で栽培して何度か収穫をした。春になって青菜も出回るようになったので、残った株を庭に植えてみた。
すくすく伸びたツルには、かわいらしいピンクの豆の花がたくさんついた。しかし、実(豆)はならない。
原因はよくわからないが、わが家の庭では豆類は比較的よく育つので、土壌や養分が原因で実がつかないとは思えない。
仕事柄気になるのは、「遺伝子組換え」作物だ。国内では大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、トウモロコシなどに遺伝子組換え品種の流通が認められている(農水省HP)。
したがって大豆でなくてエンドウ豆ならば遺伝子組換えの可能性は低いかもしれないが、国内の豆苗商品にはアメリカ産のグリーンピース新芽も出回っているとか。真偽は確認できないが、やはり気になるところだ。
それと、不稔性品種もあるそうだ。実や種ができないように開発された品種で、品種改良や遺伝子組換えにより作られる。
種ができないから、農家や園芸家は、自家再生できずに種子や苗を毎年種苗会社から買い続けなければならない。
先進国多国籍企業の種苗会社や農薬会社が途上国原産の植物から不稔性作物を開発して、これを途上国の農民に売りつけて収益をあげることで、生物多様性の南北問題の争点事例の一つにもなっている。
園芸品種にも、この不稔性(F1不稔性)が多い。(写真は、不稔性のパンジー)
豆苗の場合には、ひょっとするとこちらの方かも知れない。
あるいは、単に何かの条件の関係で実が成らないだけかも知れない。
インゲン豆の件と同時進行だったので、ついつい疑心暗鬼になってしまう。
いずれにしても、思いがけず体感したわが家のサイレント・スプリングにもつながりかねない不気味な現象。
科学的な根拠も明確でないのにいたずらに不安を増長させるのもどうかと思うが、一方で安全性が確認されていない以上慎重にならざるを得ないとも思う。
環境政策では、「予防原則」というのがある。
新技術などに不確実性があって環境や健康に重大な影響を与える恐れがある場合には、その影響の因果関係が科学的に十分証明されていなくとも予防的に規制するべきというものだ。
産業経済界などからは必ずしも受け入れられないが、世の中、慎重すぎて臆病なほうが良いこともある。
化学物質だけではなく、遺伝子組換えも、それから原発も、と思うけれど・・・ネ
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こんばんは
豆苗、、時々買ってきますし、今も水に浸けて二回目の芽が
育っています。 納豆を買うときも「遺伝子組み換えでない」
薄い目で確認しながら買っていますが、実際は・・・
by puripuri (2015-05-02 19:27)
こんばんは^^
いろいろありますね~ 一時期、ジャガイモに芽が出ない加工を施して売り出されていましたけれど、最近はやめたみたいですね。それにしてもわたくしは中〇産以外はあまり気にしないことにしています。と言うより気にしていると食べるものがなくなってしまう(≫‐≪
by mimimomo (2015-05-02 20:19)
puripuriさん
不安がらせたかもしれませんね。スミマセン。
私も実際のところはよくわかりませんが、人間には計り知れないことがたくさんありますし、絶対ということもありませんからね~
悩ましいですね。
by staka (2015-05-02 23:52)
mimimomoさん
そうですよね。心配しだしたら、この世の中、生きていけませんね。
でも、やっぱ、気になりますねぇ
by staka (2015-05-02 23:54)
インゲンの種にコーティングされてた「チウラム粉衣処理」
最初、鳥に食べられなくていいなぁと思ったけど
よく考えたら、やっぱり少し気になる。。
あとそれから利益のために、発展途上国へ
わざと種の出来ない品種を売るなんて、世知辛すぎる。。。
もっと自立を支援しなくてはいけないとおもう
by はなだ雲 (2015-05-03 18:04)
はなだ雲さん
そうなんですよ!!
世知辛いこと、気になることだらけですが、この連休くらいは明るくパ~ァといきたいですね。
by staka (2015-05-03 18:19)
不安がらせて、とコメントされていますが、大丈夫ですよ。
姉がスーパーに勤めているので、隣の国の野菜は××だから
買わないように、と言ってるので気をつけています。
アレもコレも、自国で生産するわけにはいかないのかしら?
by puripuri (2015-05-07 15:32)
puripuriさん、ありがとうございます。
お隣の国の金持ちは、自国産品は買わずに、日本産などを買ったりしているそうですね。
日本でも、かつて(富国強兵の明治時代や高度経済成長期)は経済優先で安全・健康は二の次で公害を垂れ流してましたけど。
イヤ、今も基本は変わらないかな?
by staka (2015-05-07 23:12)