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日本最初の女性心理学博士の生家を探して - 富岡探訪(続き) [ちょっとこだわる:民俗・文化・紀行・時事など]

富岡製糸場を訪れた際、家人の求めで、ある家を探した。

その家とは、日本女性で最初の博士号(Ph.D.)を取得した原口鶴子(旧姓・新井)(以下、「鶴子」)の生家だ。

居住地での男女共同参画の集まりで上映されたドキュメンタリー映画(泉悦子監督『心理学者 原口鶴子の青春』)を見た家人によれば、鶴子は富岡出身で、生家も残されているようなので、ぜひ訪れてみたいという。

事前にWebで調べたところ、誕生は富岡市街から少し離れた一ノ宮だが、生家は富岡製糸場にほど近い中高瀬という地区に移築されているという。

そこで早速、富岡製糸場の受付などで鶴子について尋ねたが、移築された生家についてはもちろん、鶴子自体を誰も知らないという。
郷土が生んだ偉人なのにね。

試しに中高瀬地区まで行って、農協の倉庫事務所で尋ねてみたが、やはり知らないという。
中で一人、自宅近くにそれらしき家があるということで、わざわざ案内してくれたが、結局は分からず仕舞いだった。ご親切にありがとうございました。

それではと、生誕地の一ノ宮に向かった。

ここには、上野国一之宮貫前(ぬきさき)神社がある。以前から、製糸場とともに訪れようと思っていたところだ。

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およそ1500年前の創建と伝えられ、延喜式にも記載されている由緒ある神社だ。
ここの特徴は、何といっても社殿までの参道が”下り”の石段になっていることだろう。
石段を登って社殿に向かう神社はたくさんあるが、下るのは初めてだ。

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拝殿と本殿は、徳川家光の命によって建てられたという極彩色の漆塗りで、国の重要文化財に指定されている。

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本殿

 

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拝殿と彫刻



鶴子は、この一ノ宮地区の裕福な新井家に生まれ、日本女子大学校(現、日本女子大学)英文学部を卒業後、単身で米国コロンビア大学大学院心理学部に留学した。
明治40年(1907年)、鶴子22歳の時である。

留学から5年後、1912年に日本人女性として初のPh.D.を心理学博士号として取得し、当時のニューヨークタイムズ紙にも大きく報じられたそうだ。

ちなみに、女性の博士号取得としては、鶴子よりも早い時期に岡見京子が医学博士号(M.D.)を取得しているという。

後に早稲田大学教授となる原口竹次郎と結婚し、帰国後に母校の日本女子大の教壇に立ち、これからという時に病に倒れ、29歳の若さでこの世を去ってしまった。

この鶴子の生家に関する情報を求めて、貫前神社に隣接する富岡市社会教育会館に立ち寄った。

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この建物は、昭和天皇の陸軍特別大演習行幸(昭和9年1934年)の際の貫前神社参拝を記念して、群馬県民の寄付などにより昭和11年に建設された東国敬神道場が、その前身という。

総ヒノキ造りの長大な建物で、国の登録有形文化財にも登録されている。
内部には部屋数も多く、最近まで児童などの宿泊研修にも使用されていたという。
和洋折衷のような広いフロアの部屋は、講演会のほか、ダンス講習会などにも使用されることがある。

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ここで生家について尋ねたところ、さすがに社会教育会館だけあって、その移築先まで教えてくれた。
先のドキュメンタリー映画も、この会館で今年(2015年)春に2回上映され、満員盛況だったという。

それにしては、鶴子の偉業は、富岡市民の中にまだまだ浸透していないようだ。

再び製糸場の近くの、移築された生家を探し回った中高瀬地区まで戻った。
迷った挙句、細い路地に面した、教えられた現在の所有者のお宅を探し出した。

午前中から何度も行き来したところだ。
およその見当は、間違っていなかったようだ。

こうして、やっと鶴子の生家を見ることができた。

ベランダ付きのモダンな建物だったという生家は、だいぶ改築はされているとはいうものの、もともとしっかりした造りで、100年以上経った現在でも使用に耐えているという。

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突然訪れた見ず知らずの訪問者にもかかわらず、家の中に入ってのお茶まで勧めてくださったが、さすがに恐縮してお断りした。
おもてなしのご厚意には、ただただ感謝するばかり。


安部政権では、「女性の活躍」政策が目玉の一つのようだけれども、鶴子のような女性の存在を広く認識してもらうことも、その一歩かと思う。

かく言う私も、家人からの鶴子生家訪問の求めが無ければ、鶴子の存在自体を知らなかった一人だが・・・

『女が変わる 男が変わる 社会が変わる』(第41回婦人週間標語)


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コメント 4

mimimomo

おはようございます^^
わたくしも初めて知りました。女性の場合結構そういう世に貢献した方はいらっしゃるのでしょうが、あまり知られていないですね。学校で習った「津田梅子」さんくらいですよ^^
by mimimomo (2015-11-15 08:37) 

はなだ雲

「花燃ゆ」見てますので、ちょうどタイムリーで
すごいお勉強になりました^^
一之宮貫前神社までの”下り”の階段が・・
はじめて見ました!とても新鮮☆
by はなだ雲 (2015-11-16 01:15) 

staka

mimimomoさん
世の中には、まだまだ知られていないすごい人々がたくさんいるのでしょうね。

by staka (2015-11-16 20:39) 

staka

はなだ雲さん
「花燃ゆ」も、ちょうど群馬が舞台ですね。
下り階段の神社参道も初めてですが、初詣でお年寄りは大変そうですね。
by staka (2015-11-16 20:43) 

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