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地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その1 条約採択と京都議定書 [地球環境・環境倫理]

2015年11月30日から12月12日までフランスのパリで開催されていたCOP21で、『パリ協定』が採択されて閉会した。

新聞各紙やTVニュースなどでも「歴史的合意」などと大きく取り上げられたが、なぜ今頃になって合意されたのか?なぜそれが歴史的なのか? その疑問に迫り、わかりやすく解説してみたい。

なお、COPとは条約などの締約国会議の英名Conference of the Partiesの略だ。COP21は、第21回締約国会議の略になる。
だから、地球温暖化の条約(下記)だけではなく、生物多様性条約など各条約にもCOPはある。

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↑は、COP21ではないが、生物多様性条約のCOP10会議場(2010年、名古屋)


地球温暖化は今更説明するまでもないが、人間活動によって排出された温室効果ガスの増大で地球表面温度が上昇するものだ。
原因となる温室効果ガスにはフロンやメタンもあるが、石炭や石油のような化石燃料の燃焼などから排出される二酸化炭素がその中心だ。

世界の専門家で構成される気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書(2013年)によると、実際にこの100年間で世界の平均気温は0.7度上昇しており、このまま地球温暖化が進むと2100年頃には現在よりも、気温は2.6~4.8度程度上昇、海水面も26~81cm上昇する予測という。

なんだか温室効果ガスは悪者のようだが、名誉のため(?)に説明すると、地球を二酸化炭素などが取り巻いていないとすると、地表部の温度は零下18度となり、とても生物(少なくとも私たちが認識するような生きもの)は住める状態ではない。現在の世界の平均気温の15度に保つプラスマイナス33度が、温室効果ガスの効果だ。私たちが地球上に住むことができるのは、温室効果ガスのおかげということになる。

しかし、これ以上の地球温暖化が進むと、海水面の上昇やそれに伴う国土の水没、異常気象、生態系変化、農業漁業やレジャー産業などへの影響、熱帯性病虫害や伝染病などの蔓延、その他、水や食糧の不足などを含めて私たちの生活に大きな影響が出ると予測されている。

日本も例外ではない。最近の異常気象や高潮は温暖化の影響と推測されている。
世界的には、シリアの内戦などは温暖化による記録的な干ばつが引き金になったとの研究もあるほどだ。

これらの、いわば人類の滅亡へのシナリオを回避するため、世界が一致して温暖化を食い止めようとして合意されたのが「国連気候変動枠組条約」(1992年)だ。

条約を貫く大きな原則に、「共通だが差異のある責任」というものがある。
これは、条約交渉の過程で途上国からの主張を取り入れたものだ。現在の温暖化を招いたのは先進工業国が産業革命以来石炭・石油を大量消費してきた結果で、これから産業発展する途上国にまで足枷をはめるのは不公平、というのが途上国の主張だ。

条約交渉での先進国と途上国の対立(南北問題)は深刻だったが、「国連環境開発会議」が開催されて地球環境問題への国際的関心が高まった1992年を逃せば、この後いつ合意の機運が高まるか分からないとの焦りもあり、いわば妥協の産物でもある。

そして、この条約を具体的に推進するために1997年に京都で開催されたCOP3で採択されたのが『京都議定書』だ。

「京都議定書」では、2008年から2012年まで(第1約束期間)の温室効果ガス削減を先進国のみに義務付けた。ちなみに、削減目標は1990年比で、日本6%、米国7%、EU8%だった。

当時の温室効果ガス国別排出量では、米国が第1位であり、ついで中国、ロシア、日本、インドの順だった。

安い人件費などにより製造された中国製品の進出に危機を覚えていた米国の産業界は、温室効果ガス削減によるコスト高により、ますます中国製品が有利になるとして、米国議会に圧力をかけた。

議会の意向を受けて、当時のブッシュ大統領は、途上国に削減義務がないのは不公平だ、として京都議定書からの離脱を宣言した(2001年)。つまり、この時点で米国は削減義務を負わなくなったのだ。

地球温暖化を扱った「不都合な真実」の著者でノーベル平和賞も受賞したアル・ゴア副大統領を擁した民主党のクリントン政権から、共和党のブッシュ政権に移行した途端の出来事だった。

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火力発電からの二酸化炭素を削減する風力発電の大風車群
(米国カリフォルニア州にて2002年)


日本を含め京都議定書を批准した各先進国でも、温室効果ガス濃度は削減目標には届かず、むしろ増加してしまった。

そうこうしているうちに、温室効果ガスの国別排出量で世界第2位だった中国が、米国を抜いて世界1位に躍り出た。

中国の1位の座は、現在までゆるぎないものとなった。

大国の力自慢を争っている感のある米中両国だが、こんなところで張り合ってもらいたくないものだ。

 
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(地球温暖化関係)

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生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

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コメント 2

mimimomo

おはようございます^^
今回は「パリ協定」成功したのでしょうが、問題はそれがちゃんと守られるかと言うことなんでしょうね?
中国が削減すれば随分日本の空気だって良くなりそうです(^^  pm2.5だって減るかしら。
by mimimomo (2015-12-18 06:31) 

staka

mimimomoさん
そうですね。絵に描いた餅では、何もならないですね。
今回の交渉でも、義務化で揉めました。
米国は、義務化に反対していたようですから、本当に守られるのでしょうかね。
中国も目標は立てていますが、両国とも自分の国の為なら約束反故もしそうですね。
by staka (2015-12-19 10:11) 

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