SSブログ

国立公園とナショナルパークの違い? ― 国立公園のブランド化による外国人観光客誘致(3) [保護地域 -国立公園・世界遺産]

またまた、国立公園のブランド化による外国人観光客誘致の話題で恐縮です。

環境省の記者発表資料(2016/7/25)によると、「日本の国立公園を世界水準の『ナショナルパーク』としてのブランド化を図る」ことで、訪日外国人の国立公園利用者数を東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに1000万人にしようという。(本ブログの記事「スーパー国立公園?発表 ― 国立公園のブランド化による外国人観光客誘致(1)」参照)

ここでいう「国立公園」と「ナショナルパーク」には、どんな違いがあるのだろうか。

もともとは、「国立公園」は「ナショナルパーク(National Park)」の訳語だから、同じはずだけど。

国家や政府機関(省庁)、国際NGOなども含む多数の会員を有する世界最大の自然保護団体、国際自然保護連合(IUCN)では、世界の保護地域をその管理目的などから6種に分類している(保護地域カテゴリー)。(本ブログの記事「日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類」参照)

これによれば、国立公園(National Park)は、第2番目のカテゴリーとなっており、「主として生態系保護とレクリエーションのために管理される保護地域」である。

世界で最初の国立公園である「イエローストーン国立公園」(米国1872年指定)の時代から、その目的は変わっていない。(本ブログ記事「『米国型国立公園』の誕生秘話」を参照)

世界で3番目に指定(1885年)された「ロッキー山脈国立公園」(カナダ)の中心となる現在の「バンフ国立公園」のモレーン湖は、エメラルドグリーンの水色と周囲の氷河地形により、世界遺産カナディアンロッキーの中でも最も美しいといわれ、カナダの20ドル紙幣の図柄にも採用されたほどの景観を誇る。
そこは同時に、カヌー遊びの場ともなっている。

s-CIMG0135.jpg
モレーン湖(バンフ国立公園)2003年撮影


その点では、日本の国立公園も変わりがないはずだ。
当初から外国人観光客誘致のための観光が、国立公園設置の目的となっている。(本ブログ記事「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」 「歴史は繰り返す?インバウンドを狙った国立公園誕生 ― 国立公園のブランド化による外国人観光客誘致(2)」参照)

しかし、IUCNと国連環境計画(UNEP)が共同して作成した世界の保護地域のリスト(国連保護地域リスト)によると、日本の国立公園の多くは、「国立公園(ナショナルパーク)」ではなく、第5カテゴリーの「景観保護地域」に分類されているのだ。

どうやら、日本の国立公園では生態系保護よりも単に絵葉書のような美しい景色の保護が中心であり、また国立公園の土地が国有地ではなく民有地が主体で原生的な自然よりも里山的な自然が中心であること、などがその理由らしい。

なるほど、何度も本ブログ記事に登場してもらい申し訳ないが、日本で最初の国立公園の一つ「瀬戸内海国立公園」は生態系保護が目的とは言い難いと認めざるを得ない。

s-DSC09415.jpg
備讃瀬戸の島々(小豆島寒霞渓より)


s-DSC09373.jpg
多島海に沈む夕日(小豆島より)

今回の環境省選定の8公園は、
「世界水準のナショナルパーク」として集中的に整備などを行おうとするものだという。
ということは、
単なる美しい風景を保護する「景観保護地域」としての「日本型の国立公園」ではなく、生態系保護を重視した「ナショナルパーク」ということだろうか。

でも例えば、今年2016年5月に開催されたG7サミットの会場となった「伊勢志摩国立公園」は、伊勢神宮など日本の伝統文化を有しているものの、自然の面では「瀬戸内海国立公園」とどれほどの違いがあるのだろうか。
私は伊勢志摩国立公園への訪問回数はそれほど多くもなく、誤解もあるのかもしれないが。

英虞湾(横山展望台より).JPG
日本の象徴の一つである真珠の養殖で有名な英虞湾
(伊勢志摩国立公園)



s-CIMG0494.jpg
外国人を惹きつける国立公園内の伝統文化の一つ
世界文化遺産にも登録されている日光東照宮陽明門(日光国立公園)


「世界水準のナショナルパーク」とは、必ずしもIUCNカテゴリーのNational Parkを指すものでもないのかもしれない。

しかし、単に訪日外国人を惹きつけるナショナルパークとなれば、85年前の日本の国立公園誕生とあまり発想は変わっていない?

「世界水準のナショナルパーク」の目指すところを明確にして、単なるブランド化を超えた、エコツーリズムなどの自然を求める外国人の期待に応える公園に育ってほしいものだ。

いや、その前に、国民が国立公園、そしてその自然にふれあい、誇りとするようにならないとね。



【本ブログ内関連記事リンク】

日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類

『米国型国立公園』の誕生秘話

意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史

スーパー国立公園?発表 ― 国立公園のブランド化による外国人観光客誘致(1)

歴史は繰り返す?インバウンドを狙った国立公園誕生 ― 国立公園のブランド化による外国人観光客誘致(2)

新年にふさわしい国立公園、旅の原型お伊勢参りと新婚メッカの真珠の里 -国立公園 人と自然(8) 伊勢志摩国立公園

本ブログ記事の内容に関連する詳細は、下記↓の拙著をご覧ください。

生物多様性カバー (表).JPG『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係

nice!(54)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 54

コメント 2

mimimomo

こんばんは^^
言われてみると、日本の国立公園(わたくし自身はあまり意識したことがないです)は景観が美しいですよね。確かに私有地だからか、国立公園内に「入る」と言う意識も薄い。
外国人にとっての日本の国立公園ってそういう位置づけなんでしょかね。
何だか難しいわ(-。-
by mimimomo (2016-09-04 18:32) 

staka

mimimomoさん
一口に外国人と言っても、85年前の主として欧米人と、現代のアジア人とでも、国立公園に対する意識はずいぶん異なるようですね。う〜ん、難しい!
by staka (2016-09-04 23:02) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0