ss ボゴール宮殿と植物園 天皇皇后両陛下のインドネシア訪問 [ちょっとこだわる:民俗・文化・紀行・時事など]
ボゴール宮殿は、ジャカルタから60kmほど南のボゴール市にある大統領離宮だ。
オランダ植民地(オランダ領東インド)時代の18世紀から19世紀にかけて建設改修が行われた植民地総督の別荘だった。
彼は、宮殿に連なる土地を本国のキューガーデン(王立キュー植物園)から呼び寄せた庭師によってイギリス式庭園として整備したほどだ。
この庭園を妻のオリビア・マリアンヌ夫人と散策するのが何よりもの楽しみだったようだ。
しかし最愛の妻オリビアは、病により1814年に亡くなり、ラッフルズは傷心の中、妻がこよなく愛した庭園に白亜の記念碑を建てた。この記念碑は、現在でも植物園の入口近くに残っている。
オランダ領なのにドイツ人? 彼はアムステルダムで植物学を含む自然科学を学んだとかで、江戸時代に来日したドイツ人シーボルトもオランダ商館の一員だったから、この時代にはよくある話だったかも。
植物園には、世界各地のオランダの植民地から作物や薬草など様々な植物が集められた。
プラントハンターが活躍した大航海時代には、植物園とは植民地からの珍しい医薬品や換金作物を本国オランダに送るための実験農場、気候馴化の中継地でもあったのだ。
1848年には西アフリカから4粒のアブラヤシ(オイルパーム)の種子がボゴール植物園にもたらされ、現在の東南アジアでのアブラヤシ・プランテーション造成の契機となった。
植物園の4本のアブラヤシのうち最後の1本も、1993年には枯れてしまった。
名称も日本語のShokubutsuenと変わった。
この間には、軍部による木材調達のための樹木伐採要求もあったが、中井園長らはこれに抵抗し、植物園の樹木は守られた。
この結果、現在の植物園には、巨大な板根を有するフタバガキ科やカンラン科などの巨木をはじめ、多数の熱帯植物などが残っており、東洋で最大規模の熱帯植物園となっている。
天皇皇后両陛下が、ジョコ大統領の案内でどんな植物をご覧になったかは不明だが、多数の園内植物から、ほんの一部の写真をご紹介。
このうち、1年以上はボゴール宮殿のすぐ裏手にある植物園内建物のオフィスに通い、昼休みには園内をよく散歩したものだ。
大航海時代のプラントハンターと植物園が果たした役割、ボゴール植物園の園長が日本人だったことなど、ご興味のある方は拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生』(ちくま新書)をご覧ください。
植物園の話は、
第1章 現代に連なる略奪・独占と抵抗
1植民地と生物資源
西洋料理とコロンブスの「発見」/ヨーロッパの覇権/チョウジと東インド会社/プラントハンターと植物園/日本にも来たプラントハンター/日本人が園長 ボゴール植物園物語/ゴムの都の凋落
2熱帯林を蝕む現代生活
そのエビはどこから?/東南アジアのコーヒー栽培/インスタントコーヒーとルアックコーヒー/ほろ苦いチョコレート/日本に流入するパームオイル/地球温暖化と生物多様性/熱帯林の消失
ss 巨樹と私たち 巨樹信仰からSDGsまで [巨樹・巨木]
巨樹あるいは巨木は、多くの人々に畏敬の念を抱かせ、現代でもパワースポットとして老若男女が訪れる。
オオカミ信仰でも有名な秩父の三峯神社にもパワースポットの巨樹があり、休日には行列ができるほどだ。
ブログ記事「ss オオカミ信仰 関東最強のパワースポット三峯神社」
そんな巨樹と私たちとの関わりを、古代のアニミズム(自然信仰)から説き起こし、現代生活での枯葉問題など地域資産としての保全管理のあり方、NIMBY、SDGsなどに至るまでを西欧と東洋の自然観・宗教観なども交えながら、世界中で自ら撮影した写真を多用して講義した。
まずは、「巨樹とは何か!」ということで、ギネスブック登録の世界最大の樹「シャーマン将軍の木」(樹高83.8m 幹周34.9m 体積1487㎥)(米国セコイア国立公園)や日本最大幹周の「蒲生の大クス」(幹周24.2m)(鹿児島県姶良市)などの紹介から始めた。
そのほか、講義の目次は、ざっとこんなところ(講義パワーポイントの「あらすじ」より)。
◎「巨樹」の誕生
・巨樹とは何か!
・本多静六・里見信生と巨樹
・巨樹・巨木林調査
◎巨樹信仰の原初
・アニミズム
・巨樹信仰と行事
◎自然へのまなざし
・自然破壊の始まり
ー農耕・牧畜の始まり、ギルガメッシュ叙事詩
・西アジア・ヨーロッパと東洋の比較
ー「自然」の捉え方、登山、自然との対立と共生の思想
◎巨樹と私たちの生活
・現代にも連なる巨樹信仰
・現代生活での巨樹
・巨樹と地域社会
ー地域資産、地域との絆
◎巨樹とSDGs
・SDGsとは
・巨樹の役割とSDGs
◎明日の巨樹へ向けて
・現代に蘇る巨樹信仰
・巨樹を心に
・自然観・環境倫理の変遷と巨樹
◎【付録】全国巨樹・巨木林の会
内容は追って少しずつこのブログでも紹介したい。
いずれにしろ、地球上で最大・最長寿の生命体である「巨樹」
ひとりでも多くの方に関心を持っていただき、地域に存することに愛着と誇りを持っていただきたいとの願いを込めて、講義を終了した次第。
覚書程度の中身がない記事で失礼します。
毎度で恐縮ですが、講義の一部は拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)でも詳しく解説。
目次は下記ブログ記事からどうぞ。
『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用 - みどりの旅路
ss チコちゃんに叱られないよう、雑草について考える! [生物多様性]
先日(2023年5月19日)放映のNHK総合テレビの人気番組「チコちゃんに叱られる!」で、「雑草ってなに?」が取り上げられていた。
チコちゃんに叱られないように、雑草について考えてみたい。
チコちゃんの答えは・・・
「雑草ってなに?」のお答えは、「望まないところに生えているすべての草」とか。
私のブログに興味を持っていただいている読者の方々には、とっくにお分かりのことだろうと思う。
良いものと悪いもの?
前回記事「坂本龍一 街頭音採録の背後には」で、故 坂本龍一氏が、「人間は勝手に、良い音と悪い音に分けている。公平に音を聴いた方が良い」と語っていたことを紹介した。
これに関連して、拙著『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書)からの「害虫と益虫(害獣や雑草とそうでないものなども)の線引きは、人間の一方的な価値判断であり、それも現時点でのものだ。」との私の考えも紹介した。
そう、チコちゃんの答えのとおり!
雑草(害虫なども)は、人間が勝手に役に立たないと考えたり、邪魔だと考えたりしているにすぎないのだ。
そして番組出演者が質問していたが、「同じ草でも、あるところでは雑草で、違うところに生えていたら雑草でなくなることがあるの?」という疑問が当然のごとく湧いてくる。
そのとおり!
同じ草でも、きれいな花が咲くからといって庭に植えていた植物が、繁茂しすぎて邪魔になり、突然に雑草として扱われてしまうことがあるのは、身に覚えのある方も多いだろう。
ドクダミは雑草?薬草?
今は盛りに白い花が咲いているドクダミも、畑や庭、空き地、道端などでは雑草として扱われることが多い。
でも、ドクダミは名無しの雑草ではなく、ちゃんと名前を覚えられているからまだましか?
それもそのはず、ドクダミの独特の臭いの元となるデカノイルアセトアルデヒドの精油成分には殺菌作用もあり、化膿止めや皮膚炎などに効果があるとされている。
ほかにも利尿作用や便秘改善効果、血圧安定効果などもあり、「ドクダミ茶」としても古くから利用されてきた。
江戸時代に貝原益軒の著書である本草学の『大和本草』や寺島良安の類書(百科事典)『和漢三才図絵』などにも薬草としての記載がある。
現在でも、れっきとした薬草で、厚生労働省が発行する「日本薬局方」に「十薬」という生薬名で記載されている。
雑草だけではない!
害虫の蚊やハエも、役に立つことはあるのだ。
ハエの幼虫ウジが化膿して壊死した傷口を食べて、傷の回復を早めることから、チンギス・ハーンが負傷兵士手当のために大量のウジを戦場に運んだり、現代の病院でも使用されていることは、上記の拙著でも紹介したところだ(第3章 便益と倫理を問いなおす 第2節 生物絶滅と人間、「眠れぬ夜にカの根絶を考える」参照)。
多様性と多面性
こうした人間の役に立つかどうか、の前に、害虫や雑草たちも、自然界ではなくてはならない存在でもある。
人間に望まれるかどうか?
そんなの関係ないっ!
蚊やハエが鳥や魚の餌にもなって生態系を支えているのは、わかりやすい例だ。
こうして、あらゆる生物が他の生物と関わり合いながら自然界(生態系)で生きていることこそが、「生物多様性」なのだ。
これは、本ブログの主題のひとつだ。
一方で、前回ブログでも拙著から引用したとおり、「(害虫など)この線引きは、科学技術の進展、生活様式(ライフスタイル)の変化、さらには倫理観の変化などによって、いつ反転してしまうかもわからない」。
この多くの個の存在を認める「多様性」も大事だけれども、ひとつの個も角度によって(見方によって)さまざまな価値や意味を持つ「多面性」(多義性など)も大事かと思う。
このことについても、後日考えてみたい。
多様性と多面性は、自然界・生物だけではなく、人間社会でも真剣に考えてみる必要があるだろう。
拙著目次は下記記事からどうぞ