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生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで [生物多様性]

 私たちが西洋料理の食材と思い込んでいるドイツ料理のジャガイモ、イタリア料理のトマトなどは、いずれもヨーロッパ原産ではない。これらの食材やたばこなど多くのものが南米から伝わった。1492年、旗艦サンタ・マリア号に乗り込んだコロンブスが、アメリカ(西インド諸島)にたどり着いたときからそれは始まった。以降、つまり大航海時代には、食材だけでなく、香辛料や薬草を求めて、探検家たちは世界を駆け回り、ヨーロッパ列強は世界を分割支配した。肉料理に使う香辛料のチョウジは、モルッカ諸島(現在インドネシアの一部)だけに産出した。当時は同じ重さの金よりも高価であった。覇権争いに勝利したオランダは、東インド会社を設立し、これらの権益を独占した。
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 私たちが病気のときに世話になる医薬品。今日使用されている薬品の40%以上は野生生物に由来している。南米インカで使用されていたキナ樹皮に由来するキニーネは、マラリア特効薬として有名だ。現代でも、プラントハンターと呼ばれる多くの人々が密林の奥深くで新薬の原料を探している。ガンやエイズの特効薬も、こうして発見され、商品化されつつある。何しろ、ひとたび薬品がヒットすれば、1品目で年に軽く1500億円は稼げるという。近代科学の申し子のような医薬品も、その情報を提供してくれるのは皮肉にも未開の人々といわれる先住民族たちだ。

 この生物資源をめぐって、世界の国々は現代でも争っている。もちろん、大航海時代やその後の植民地、帝国主義の時代のように、武力を行使するわけではない。争いの場所は、国際的な環境政策を協議する場である。1992年の地球サミットを契機に制定された「生物多様性条約」は、生物の保全と生物資源の持続可能な利用を目的としている。この条約でも、先進国と途上国とがしのぎを削っている。いわゆる、南北問題である。先進国や多国籍企業は、農産物改良や新薬発見のために新たな生物資源を探査、利用したい。一方途上国は、発展を犠牲にしてこれらの資源を保全してきたのは自分たちだという。先進国や企業はその資源を利用してきたので、そこから生じた利益を資源の原産国である途上国に還元すべきであると主張し、利益をむさぼる企業の行為を生物資源の海賊行為(バイオパイラシー)と非難している。

 資源にもなり得る生物の絶滅が、将来の人類生存の危機にもなることは、各国とも理解している。しかし、結局は総論賛成、各論反対。途上国の主張を取り入れた条約に対する企業などからの反対により、米国はいまだに条約を批准していない。ここにも米国の「一国主義」が見え隠れする。

 (写真) はるか遠くのアメリカ大陸を指さすコロンブスの像(スペイン・バルセロナにて)
                     (この記事は、2004年11月 タウンねっと No.9 に掲載されたものです)
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