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日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類 [保護地域 -国立公園・世界遺産]

 熱帯林などの生物多様性の減少が地球規模で進む中、自然保護地域(以下、「保護地域」)の役割はますます増大している。世界には、国立公園を含めて、原生的な自然の保護を目的としたものから、記念物的なもの、あるいは特定の景観や動植物種を保護対象としたものなど、多様な保護地域がある。国連環境計画(UNEP)の付属機関、世界自然保全モニタリングセンター(WCMC)の2008年公表データによれば、陸上保護地域だけでも全世界で12万か所を超え、地球上の陸地面積の12.2%を占めているという。

 この保護地域の性格や位置づけ、管理体制などは実に多様である。たとえば、一口に「国立公園」といっても、国によってその形態や問題点は様々だ。世界の保護地域の現状を把握し、問題点などを抽出するためには、ある程度同一の基準で包括的に分類してリスト化することが有効だ。このため、UNEPと国際自然保護連合(IUCN)は共同して、「国連保護地域リスト」を作成している。1994年に改定されたカテゴリーでは、世界の保護地域を次のように6カテゴリー(類型)に分類している。

保護地域カテゴリー(IUCN 1994)
I 厳正保護地域/原生地域
 Ia 厳正保護地域(Strict Nature Reserve)
  主として学術的な目的のために管理される保護地域
 Ib 原生地域(Wilderness Area)
  主として原始性の保護のために管理される保護地域
II 国立公園(National Park)
  主として生態系保護とレクリエーションのために管理される保護地域
III 天然記念物(Natural Monument)
  主として特異な自然物を保全するために管理される地域
IV 生息地/種管理地域(Habitat / Species Management Area)
  主として管理介入を通じた保全のために管理される保護地域
V 陸域景観/海域景観保護地域(Protected Landscape / Seascape)
  主として陸域景観・海域景観の保全とレクリエーションのために管理される保護地域
VI 資源管理保護地域(Managed Resource Protected Area)
  主として自然生態系の持続可能な利用のために管理される保護地域

s-南硫黄島0468.jpg このうち、Iの厳正保護地域(原生地域)は、人為の影響のない、あるいは少ない自然をそのまま手つかずに残しておこうというものだ。日本では、「自然環境保全法」(1972年)によって指定される「原生自然環境保全地域」などが相当する。米国では、日本の自然環境保全法が制定されたときのモデルの一つにもなった「原始地域法(または原生自然法)(Wilderness Act)」(1964年)による「原始地域」などがある。いずれも、科学研究や教育の場として確保し、許容される利用も、登山など徒歩利用による原始的なものに限定される。時には、立ち入りが禁止される地域も設定される。日本でも、太平洋に浮かぶ無人島の「南硫黄島原生自然環境保全地域」では全島が、わが国唯一の「立入制限地区」に指定されている。

 しかし、何といっても、保護地域の中で中心的役割を担っているのは、今も昔も「国立公園」だ。以前のブログ記事で紹介したとおり、世界最初の米国の国立公園(「『米国型国立公園』の誕生秘話」)と、日本の国立公園(「意外と遅い?国立公園の誕生」)とでは、その成立過程の違いから、公園の指定対象までもが異なっている。国連保護地域リストでは、これまで日本の国立公園の多くが、カテゴリーIIの「国立公園」ではなく、カテゴリーVの「景観保護地域」に分類されてきた。

 環境省(かつての環境庁)では、やっきになって景観保護地域から国立公園への変更をIUCNに働きかけたことがある。その結果、日本でも国立公園と位置づけられる公園がだいぶ多くなってきた。一方、同じように国立公園が景観保護地域に分類されている英国は、「景観」こそが人類と自然との相互の長年の営み(協働)によって作り上げられてきたもので、後世に残すべきものであると、むしろ景観保護地域に分類されたことを誇りに思っているようだ。

 紺碧の海原から見上げれば、蜜柑が色づき、陽光を浴びて白い除虫菊が咲き乱れる多島海の島々を巡る瀬戸内航路。蒸気汽船の汽笛も聞こえてきそうなのんびりとした風景だ。日本で最初の国立公園のひとつ、瀬戸内海国立公園が指定された昭和9年(1934年)当時は、こんな様子だったことだろう。これではどう見ても、原始的な自然を保護する国立公園ではなく、風光明媚な景色を保護する景観保護地域と言われても仕方ない。

 (写真) 日本で唯一の立入制限地区が指定されている「南硫黄島原生自然環境保全地域」(鳥は、カツオドリ)
 (関連ブログ記事) 「『米国型国立公園』の誕生秘話」 「意外と遅い?国立公園の誕生」 「富士山の麓で国立公園について講演


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