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ゾウと人との共存を求めて -国立公園 人と自然(番外編1) ワイ・カンバス国立公園(インドネシア) [   国立公園 人と自然]

 私は今、インドネシアのスマトラ島ランプン州に滞在中だ。昨年に続いて、マルガサリ(Margasari)村のマングローブ林再生プロジェクトについて、ランプン大学との共同研究をしている。この研究サイトの近くに、ワイ・カンバス(Way Kambas)国立公園がある。今回の「国立公園 人と自然」は、番外編としてワイ・カンバス国立公園を紹介する。s-飼育されるゾウの群れ0139.jpg

 ワイ・カンバス国立公園は、スマトラ島の南部、ランプン州の中部ランプン県と東ランプン県にまたがる。面積125,621haの公園内には熱帯雨林と広大な湿地が広がる。さらに河川や海岸には、鉄木、ニッパヤシ、マングローブ林などが見られる。これらは、希少な野生動物の生息地となっている。ここでは、70年以上に渡って自然が保護されてきたが、国立公園の候補地になったのは1991年3月で、実際に指定されたのは1997年3月だ。しかしこの国立公園指定までの間に、人口過剰のジャワ島からの移民などにより、公園地域の実に75%以上の熱帯林が伐採され、耕作地に変えられてしまった。それでも公園内には、湿地のハジロモリガモ、アジアヘビウを含む286種にも及ぶ多様な水鳥やイリエワニのほか、多くの希少野生動物が生息している。特にスマトラサイ、スマトラゾウ、スマトラタイガーが有名で、アカウアカリ(オマキザル)やギボン(テナガザル)なども生息している。

 中でもゾウは、この公園のシンボルだ。原生林の開拓に伴って生息地を追われたゾウの群れは、餌などを求めて村のバナナ畑などを荒らすようになった。時には住宅も襲い、倒壊させた。村人は野生の逆襲に恐れおののいた。こうしたゾウを単に駆除するのではなく、捕獲・訓練し、木材運搬や観光に利用して、有益性をアピールしようとの計画が持ち上がった。1985年にはインドネシアで最初のカランサリ(Karangsari)訓練センターが設立された。調教されたゾウの芸や背に揺られてジャングルを進むエコツアーは、多くの観光客を集めている。ゾウの訓練だけではなく、熱帯雨林の復元も試みられている。将来はゾウの野生復帰にも繋がるだろう。

 これは、ゾウと同様、生息地を狭められて集落にも出没し、家畜や時には人をも襲うようになったトラの保護にもなるにちがいない。トラは公園内に約40頭生息しているといわれている。かつては、バリ島やジャワ島にも生息していたが、現在ではインドネシア科学院(LIPI)のチビノン動物研究館(「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」参照)などに、世界でも数枚の毛皮を残すだけだ。s-ゾウの見張り小屋0180.jpgまた、公園内には世界で最初の野生サイの飼育施設もある。カナン(Kanan)川でのボートによるエコツアーでは、多くの水鳥やイリエワニなどのほか、運が良ければサイも見ることができるという。

 スマトラ島は、かつては生物多様性の宝庫だったが、熱帯林は伐採され、そこに生息する動物は絶滅が危惧されるまでになってしまった。海岸部のマングローブ林は薪炭材やエビ養殖池造成などのために伐採された。ここで養殖されたブラックタイガーなどのエビは、安くて手軽なエビの天ぷらやフライとして、日本の外食産業や家庭の食卓を飾っている。内陸部の熱帯雨林も木材供給のために伐採されて、高度経済成長期などに日本の寿命の短い一戸建て住宅建築に大量に使用されてきた。

 現在では、オイルパーム(アブラヤシ)のプランテーション造成などのための伐採が目立つ。特にスマトラ島中央部のジャンビ州では、熱帯林の伐採が急速に広がり、跡地を整理するための火入れによる森林火災も深刻だ。こうして生産されたヤシ油(パームオイル)は、スナック菓子・インスタントラーメンなど揚げ物などに使用される植物性油脂として、日本にも大量に輸入されている。最近では、健康志向で動物性油脂から植物性油脂へ、また環境配慮の石鹸の原料などとしても輸入が増加している。さらに、地球温暖化防止のためのバイオ燃料の原料ともなることから、ますますプランテーションが拡大され、熱帯林も消滅している。

 私たちが日本で何気なく過ごしている豊かな生活は、遠くインドネシアのスマトラ島でこれらの需要を生み、それによって外貨獲得のために熱帯林が破壊されているのだ。ゾウと地域住民との葛藤には、私たちも無関係ではない。ゾウと人との共存のために、私たちにも何ができるのか考えたい。

 (写真上) 訓練センターのゾウの群れ
 (写真下) ゾウの見張り櫓

 (関連ブログ記事)「インドネシアから帰国 -時間は流れる」 「南スマトラ調査」 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」 「熱帯林の消滅


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mimimomo

おはようございます^^
色んな野生の動植物の絶滅の危機というのは、文明国家の話しかと思っていましたが、こう言う熱帯ジャングルに近いような普通の場所でもあるのですね。ちょっと驚きです。
by mimimomo (2013-05-26 07:42) 

staka

mimimomoさん、コメントありがとうございます。
絶滅原因もいろいろ、まさに多様ですね。
食料、医薬品、毛皮、駆除などのために直接的に捕獲(採取)されて生息数が少なくなる場合、生息環境が悪化したり減少したりする場合、人間が持ち込んだ外来生物によるものなどなど。
日本でも、オオカミやコウノトリ、トキなどの例もありますしね。
by staka (2013-05-27 01:38) 

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