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新年にふさわしい国立公園、旅の原型お伊勢参りと新婚メッカの真珠の里 -国立公園 人と自然(8) 伊勢志摩国立公園 [   国立公園 人と自然]

 伊勢志摩国立公園は、実に新年にふさわしい公園だ。公園内には、初詣に多数が参拝する伊勢神宮や初日の出で有名な二見浦の夫婦岩がある。

 s-夫婦岩(伊勢志摩).jpg伊勢神宮は、五十鈴川にかかる宇治橋を渡った皇大神宮(内宮)と少し離れた山田原の豊受大神宮(外宮)などの総称だ。20年ごとに社殿を立て替える式年遷宮は、1300年の伝統を誇る。遷宮にはヒノキなど大量の木材を必要とする。その木材は、神宮後背の神宮林だけではなく、はるばる木曽の山からも運ばれてくるという。神宮林は5,500haもの面積を有し、ヒノキの樹林だけではなく、シイ、タブノキ、ヤブツバキなど照葉樹の自然林としても維持されている。そのため、トキワマンサクやジングウツツジなどの希少植も生育し、シカやサルなども生息する豊かな森となっている。

 江戸時代に日本中がこぞって参詣した「お伊勢参り(おかげ参り)」は、わが国の団体旅行の元祖といえるかもしれない。しかし、伊勢までの旅路には、多くの費用が必要だった。そこで、近隣の人々などで少しずつ金を出し合い、金がたまるとくじ引きなどで選ばれた代表者がお伊勢参りに出かけた。この伊勢講は、いわば現在の旅行積立貯金のような効果もあった。伊勢に到着すると、御師と呼ばれる人が参詣人を案内し、参拝や宿泊の世話をした。また、御師は全国各地に出かけて、札や暦を配って伊勢神宮の霊験を宣伝した。こちらは、現在の旅行営業所のセールスマンあるいはツアーコンダクターのようだ。伊勢講で近隣の代表として参詣した人が持ち帰った土産の数々は、いわば参詣の証拠品でもあり、後世の日本人が旅行先地名の明記された土産物を買うようになった原因でもある、と言う説もあるくらいだ。現在にも通ずるわが国の旅の原型を見る思いがする。

 夫婦岩は、その名前の故か、かつては新婚旅行のメッカとも言われるくらい多くのカップルが訪れた。この二見海岸から鳥羽湾や英虞湾にいたる海岸線は、わが国を代表するリアス式海岸の一つだ。リアス式海岸は、地盤沈下や海水面の上昇などで生じた地形で、起伏の大きい山地の稜線部が複雑に入り組んだ半島状や島嶼状に残ったものだ。その名は、スペインの北西部ガリア地方で入り組んだ海岸線の湾をリアと呼ぶことに由来していると言う。

 s-英虞湾(横山展望台より).jpg公園内のリアス式海岸の中でも英虞湾は、真珠養殖で名高い。複雑な入り江の湾内は波静かで、養殖などには適している。鳥羽出身の御木本幸吉は、英虞湾で真珠の養殖に取り組み、いく度かの失敗の後1893(明治26)年、遂にアコヤ貝から5粒の半円形の真珠を採り出すことに成功した。その後も研究を重ね、1905年には天然ものと変わらない真円真珠の養殖にも成功した。これにより真珠は日本の代表的な輸出産品となり、幸吉は「真珠王」と呼ばれるようになった。

 一般にはあまり知られていないことだが、この公園は第2次世界大戦後初めて指定された国立公園だ。当時は、政府の行政機構はまだ復活しておらず、連合軍総司令部(GHQ)の許可を得て指定された。戦前からいくつかあった公園候補地の中で、なぜ伊勢志摩が第1号となったか、その理由の詳細は今となってはわからない。しかし、景色のみならず、文化的にも極めて日本的なこの地域が、GHQの指導により戦後復活の第1号となったのは、実に興味深い。

1946年11月指定 55,544㌶
三重

 (写真上)初日の出で有名な二見浦・夫婦岩
 (写真下)真珠養殖で有名な英虞湾
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