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国際生物多様性年と名古屋COP10 [生物多様性]

 2010年は、国連が定めた「国際生物多様性年(International Year of Biodiversity: IYB)」だ。また10月には、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)も開催される。COP10は、同時にカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)も兼ねている。このブログでも、生物多様性は主要なテーマの一つだ。しかし、政府の世論調査によれば、「生物多様性」という言葉も聞いたことがない人が大半(60%以上)で、聞いたことはあっても意味まで知っている人はわずかである。ましてや、生物多様性条約あるいはCOP10の認知度は、グッと低くなる(2009年「環境問題に関する世論調査」)。

 s-国際生物多様性年ロゴ.jpg生物および生態系は、これまでもたびたびこのブログで取り上げたように、「生物資源」として食料、医薬品などの原材料を提供しているほか、われわれ人類の「生存基盤」として、酸素供給や水源涵養、気候緩和などの役割も有している。また、芸術文化の対象となるなど精神面でも不可欠のものだ。しかし一方で、地球上から絶滅していく生物種も多い。そこで、多様な生物の保全などのために、1992年に「生物多様性条約」が締結された。

 この条約は、当初は各分野の既存条約を包括する枠組み条約(アンブレラ条約)として検討開始されたが、次第に内容は広範になり、生息域内保全と生息域外保全、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源やバイオテクノロジーを含む関連技術へのアクセス、これらの技術からもたらされた利益の還元、遺伝子改変生物の取り扱いなどが含まれることとなった。これは、条約交渉過程での先進国と途上国との対立、いわゆる南北問題が生じた結果である。92年の「国連環境開発会議」(地球サミット)(リオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)で開催)までに交渉をまとめ上げないと条約の成立は危ういとの焦りからの妥協の産物でもあるのだ。最終的に条約の目的は、生物多様性の保全、生物多様性構成要素(すなわち生物資源)の持続可能な利用、そして遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分の3本柱となった。

 こうして条約は成立したものの、多くの対立的事項が積み残しの課題となった。これらの課題を継続して話し合うのが、条約締約国会議(Conference of Parties: COP)だ。「国連気候変動枠組み条約(地球温暖化防止条約)」のCOP(たとえば、2009年12月コペンハーゲンで開催されたCOP15)が有名だが、各条約にCOPはあり、生物多様性条約でもおよそ2年ごとに開催されてきた。生物多様性条約は1993年12月に発効し、COP1は翌94年11月にナッソー(バハマ)で開催された。この会議には私も参加したが、南北対立事項の対処方針をめぐって、G77などの途上国グループと先進国グループの非公式会議がそれぞれ別々に連日夜更けまで開かれた。しかし結局は、資金メカニズムなどの対立点はもちろん、条約事務局の場所など事務的な事項さえも満足に決定できないまま終了した。s-COP10ロゴマーク.jpg

 その後、COPも回を重ねるごとに懸案事項についての合意事項も増え、遺伝子組み換え生物の扱い(バイオセーフティ)のための「カルタヘナ議定書」なども成立した。こうして、条約発効から10年目の2002年4月にオランダのハーグで開催されたCOP6では、ハーグ閣僚宣言などのほか、「生物多様性条約戦略計画」も採択された。これは、条約の目的を更に推進するために必要な目標、優先すべき活動等を定めたもので、2010年までを計画年次として、「現在の生物多様性の損失速度を2010年までに大きく低減させる」ことを戦略計画全体の目的とした。そのための生態系保全など11の目標が掲げられ、保護地域の強化などが要請された。これがいわゆる「2010年目標」と呼ばれるものだ。

 今年は、その目標年。2006年にブラジルのクリチバで開催されたCOP8の勧告により、同年の第61回国連総会において決定されたのが、2010年を「国際生物多様性年」とすることだ。条約と2010年目標を周知して、条約の達成を推進しようと、世界各地でイベントも開催される。日本では、名古屋で第10回目の締約国会議(COP10)が開催されることになっており、イベントにも力が入る。COP10では、2010年目標達成度の検証とポスト2010年目標のほか、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)、海洋生物多様性保全、地球温暖化による生物多様性への影響など、多くの課題が山積みとなっている。議長国として、イベントばかりに浮かれているわけにはいかない。

 (写真上) 国際生物多様性年ロゴマーク(環境省発表資料より)
 (写真下) COP10ロゴマーク(環境省発表資料より)


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