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金と同じ高価な香辛料 [生物多様性]

冬季オリンピックが開催され、連日テレビ観戦の人も多いだろう。残念ながら、20日現在では日本選手は銀メダルが最高で、金メダルにまでは手が届かない。各選手はこの大会を目指して過酷なトレーニングに励んできた。それでも才能と努力だけではなく、時の運もメダル争いには加担するようだ。それだけ、金メダルは貴重で尊いものだろ。古代から、人類の富と憧れの象徴だった金。その金と同等の、高価な香辛料がかつてあった。このブログでもたびたび取り上げた「クローブ(丁子)」だ。

s-クローブ0360.jpgクローブは、熱帯雨林の高さ10mほどの常緑樹で、そのつぼみを乾燥させたものが釘に似た形をしているために、中国で「丁」の字が当てられたといわれている。英語のクローブ(Clove)も、フランス語で釘を意味する"Clou"が語源だという。殺菌・消毒効果があるため、紀元前から薬品として利用されてきた。また、その殺菌・防腐効果と独特の香りから、食品の香料としても利用されてきた。精油されたものは日本刀のさび止めにも使われたという。

大航海時代になると、コショウやナツメグなどとともに、主要な香辛料(スパイス)として貿易対象となった。特にその殺菌力と防腐性の高さは、ヨーロッパの肉食生活では、肉の保存と消臭のために重宝された。しかし、産出量も少なく、高価なため、ヨーロッパ列強はその確保にしのぎを削った。当時は、金と同じ重さで取引されたともいわれている。その理由は、クローブが現在のインドネシアの一部、モルッカ諸島だけにしか産しなかったからだ。この地を植民地としたオランダは、クローブ生産をアンボン島だけに制限し、他の島のクローブの木を伐採してしまったほどだ。こうして、オランダは東インド会社を設立して、クローブを含む東南アジアの富を独占した。その後、フランスやイギリスによってひそかに持ち出されたクローブの苗木は、世界各地で栽培されるようになった。これにより、オランダの独占が崩れ、富の源泉も失うこととなった。これは、ゴムが原産地のアマゾンから持ち出されたのと酷似している。現在では、クローブのほとんどが、かつてフランスにより持ち込まれた東アフリカで生産されている。s-CIMG0358.jpg

日本刀のさび止めに使われたクローブ油も、東インド会社のオランダ商人によって長崎出島にもたらされたことに思いを馳せると、何となくロマンを感じる。ジャカルタのスカルノ・ハッタ空港に降り立った時の甘ったるく淀んだ熱帯の空気の感触。これには、インドネシアのタバコに含まれているクローブ(インドネシアでは、チェンケ(cengkeh)と呼ぶ)が多分に影響している。最初はその臭いが気になったが、今では何とも懐かしく、心地よい。

 (写真上)クローブ
 (写真下)クローブの乾燥風景(ランプン・スマトラ島にて)(再掲)

 (関連ブログ記事)「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」、「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
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