地球温暖化と生物多様性 [生物多様性]
11月28日から南アフリカ共和国のダーバンで、国連気候変動枠組条約(地球温暖化防止条約)の第17回締約国会議(COP17)が開催される。ポスト京都議定書の枠組みを決める重要な会議で、世界の関心も高い。
会議が開催されるダーバンは、南アフリカの海岸沿いのリゾート地で、2010年にサッカーのワールドカップも開催されたことから、アフリカ諸国の都市の中では日本でも比較的知られているほうだろう。私も、2003年に開催された「第5回保護地域会議(世界国立公園会議)」参加のために訪れたことがある。今ではどうか知らないが、当時は世界でも有数の犯罪率が高い都市として有名だった。なにしろ、会議資料を日本に郵送するため、ホテルから目と鼻の先の郵便局に行こうとした際、ホテルのボーイが飛んできて、危険だからとわざわざボディーガードに付いてきたほどだ。そういえば、ワールドカップの際にも、武装集団強盗などの犯罪被害にあわないように警告が出されていた。幸い大きな被害はなかったようだが。
ところで、本ブログのテーマでもある生物多様性と地球温暖化とは、どのような関係があるのだろうか。先の第5回世界保護地域会議でも、生物多様性条約と地球温暖化は取り上げられた。この両者の関係を概観してみよう。
地球温暖化と生物の関係ですぐに思いつくのは、テレビ映像などで繰り返し流される氷山の崩壊によって追いつめられる北極海のシロクマだろう。国内でも、北海道のアポイ岳などの高山植物生育地が温暖化によって後退(標高が上昇)していることや、ナガサキアゲハ、クマゼミなど西南日本に分布していた種が、関東地方にまで北上していることなどが報告されている。ほかにも各地で、もともとは南方産の魚の漁獲が増加しているという。そもそも日本各地のシカの増加は、天敵のニホンオオカミの絶滅に加えて、温暖化による積雪の減少の影響が大きい。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書(日本版)には、これらの実態や予測が記載されている。日本の「生物多様性国家戦略2010」でも、生物多様性の危機として、地球温暖化による生物多様性への影響が挙げられている。
これらの地球温暖化による生物多様性への影響、すなわち矢印の方向でいえば温暖化から生物多様性に向かう関係、のほかに逆の関係もある。こちらは、温暖化の原因ともなる二酸化炭素の吸収源としての森林などが減少・劣化する、あるいは木材に蓄積されていた二酸化炭素が燃焼によって放出されるものだ。先の矢印の向きは、生物多様性から地球温暖化になる。
地球の肺とも称される熱帯林は、特に20世紀以降、急速に破壊されている。かつて私が「JICA生物多様性プロジェクト」リーダーとして滞在したことのあるインドネシアでも、ゴム、茶、ヤシ、コーヒーなどのプランテーション造成のために原生林が伐採されていた。伐採された樹木は造成に邪魔なことから、手っ取り早く処分するために焼却された。また、その火は予定外の森林にまで拡大し、森林火災を招いた。その煙は空を覆い、飛行機の運航に支障を与え、車は昼間でもヘッドランプを使用せざるを得ないなど、隣国のシンガポールなどにまで煙害(ヘイズ)をもたらした。
こうした途上国での森林の減少・劣化による温室効果ガス(二酸化炭素やメタンなど)の排出量を抑制するため、世界ではREDD(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)と呼ばれる政策プロジェクトが動き出している。森林減少・劣化の抑制は、新たな吸収源造成のための植林よりも温室効果ガス抑制効果があるとの試算もある。京都議定書では、途上国での植林プロジェクトをCDM(クリーン開発メカニズム)として、温室効果ガスの排出権、クレジットをめぐる一種の経済取引の対象としている。これに代わるREDDの枠組みはまだ定まっていないが、先進国、途上国とも、経済的な効果を期待している。実は私も、環境省の環境研究総合推進費によるREDD関連研究プロジェクトに参加し、国立公園などの保護地域管理と地域社会との関係から森林減少・劣化防止について研究している。
これら両方向の矢印の関係をさらに複雑にしている例がある。それは、車からの温室効果ガス排出を抑制するためにガソリンに代わり使用されるバイオ燃料だ。この原料の多くは、パームオイル(ヤシ油)だ。そしてパームオイルは、オイルパーム(アブラヤシ)の実から精製される。日本でもスナック菓子やインスタントラーメンなどの揚げ物をはじめとする食用油や化粧品などにも使用されているパームオイルのため、熱帯林が伐採されてオイルパームのプランテーション拡大が急速に進んでいる。それに加え、バイオ燃料の原料として需要が高まり、プランテーション拡大にともなう森林伐採がさらに拡大しているのだ。
地球温暖化防止のためのバイオ燃料が、その生成のため森林伐採・焼却によって逆に温室効果ガスの排出を増加させ、さらに吸収源としての森林の減少・劣化を招いている。私たち人間の成すことは、結局のところこの程度なのだろうか。経済性と温室効果ガス抑制だけを追い求めた原発の行く末が、それを示している。
(写真上)熱帯林がプランテーション拡大のために伐採されて焼却されている(グヌン・ハリムン・サラック国立公園隣接地(インドネシア西ジャワ州)にて)
(写真下)見渡す限りのオイルパーム(アブラヤシ)のプランテーション(グヌン・ハリムン・サラック国立公園隣接地(インドネシア西ジャワ州)にて)
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