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首都圏で貴重なハイキングコースと国立公園名称変更騒動のゆくえ -国立公園 人と自然(16)秩父多摩甲斐国立公園 [   国立公園 人と自然]

 前回の「国立公園 人と自然」では、阿蘇くじゅう国立公園の名称変更を取り上げた。拡張など区域変更に伴う名称変更が多い国立公園の中で、区域変更とは無関係に名称が変更されたもう一つの例に、秩父多摩甲斐国立公園がある。

 s-甲武信岳(三宝山より).jpg関東平野西方の三峰山、両神山や御岳山など手軽なハイキングコースで有名な山々から雲取山、甲武信ケ岳、金峰山など2000mを超える本格的な関東山地の山々がこの公園に指定されている。火山国日本の国立公園では珍しく火山を含んでいない。この公園はまた、荒川、多摩川、笛吹川(富士川)、千曲川(信濃川)など本州中部の代表的な河川の源であり、中津峡や御岳昇仙峡、西沢渓谷など浸食による深い渓谷が刻まれている。山頂までコメツガやシラビソ、トウヒなどの亜高山性針葉樹林の原生林に覆われ、林床にはアズマシャクナゲも咲く山々は、独特の雰囲気を呈している。ツキノワグマやカモシカなど動物も豊富だ。また、奥多摩は東京都民の水瓶となっていて、2万ヘクタールの水源林は都内だけでなく山梨県にまで及び、百年の歴史を有している。

 これらの地域は、公園利用者の多い東京からみて昔から奥秩父や奥多摩と呼ばれていた。1950年に国立公園が指定されたときには「秩父多摩」が公園の名称となったが、これが県域を表す名称でもあることから騒動が始まった。つまり、秩父は現在の埼玉県、多摩は東京都を示す名称であるが、公園面積の4割以上を占める山梨県域を表す名称が付いていなかった。これは指定当時の運動主体が東京だったことなどにもよるが、山梨県としては不満だったようだ。1986年の「阿蘇くじゅう国立公園」への名称変更を知った山梨県は、公園拡張を伴わない名称変更の前例に意を強くして、「秩父多摩」の公園名称に「甲斐」を入れるべく陳情を開始した。

 s-瑞牆山.jpgしかし、事はそう簡単ではない。わずかながら区域が含まれる長野県も、県域を示す信濃あるいは信州などを含めるべきだと主張しだした。地元にとっては誇りであり、また観光産業振興などにもつながるものであろう。だが、関係県に関連するのすべての名を国立公園名に関することは、関係県が11県にも及ぶ瀬戸内海国立はもちろん、他の多くの県にまたがる国立公園では現実的ではない。山梨県と長野県の主張の調整のため、私も両県を何度も往復したことがあった。公園運動を始めてから10年以上、瑞牆山のふもとで全国植樹祭が開催される直前の2000年8月、山梨県関係者の長年の夢であった名称変更がやっと認められた。

 新緑のシーズンから、夏のキャンプ、秋の紅葉のシーズンは、多くのハイカー、キャンパーや観光客でにぎわう。また、木枯らしが吹く前の晩秋から初冬にかけて、落ち葉を踏みしめ、時には枝先に残る紅葉を眺めながらのハイキングは、夏や紅葉シーズンとは違った格別の味わいがある。東京で育った私に、自然の素晴らしさを教えてくれたのもこれらの地域だった。首都圏でのそんなハイキングの対象地にも、地元の面子をかけた知られざる歴史があったのだ。

 名称変更問題は、国立公園にとどまらない。各地で由緒ある地名も、市町村合併や新住居表示などで消滅している。消滅するだけではなく、全国各地で類似の名称が増えて、個性や伝統がなくなってきた。また、意味を含みにくいカタカナやひらがなの名称も増加している。「くじゅう」を名称に加えた国立公園を棚に上げての繰り言だけれど。

1950年7月指定 126,259㌶
埼玉、東京、山梨、長野にまたがる

 (写真上) 甲武信岳
 (写真下) 瑞牆山

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職務経歴書の作成

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
by 職務経歴書の作成 (2012-11-19 17:05) 

staka

職務経歴書の作成さん
ありがとうございます。
ほかにも、国立公園の記事がたくさんありますから、よかったら遊びに来てください。
by staka (2012-11-20 08:39) 

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