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オランウータンとの遭遇 エコツーリズム、リハビリ、ノアの方舟 -国立公園 人と自然(番外編8)グヌン・ルーサー国立公園(インドネシア) [   国立公園 人と自然]

 はるか向こうの枝の上の黒い影。じっと動かないが、こちらを見ている気がする。ガイドがうなり声をあげると、その影はゆっくりと動き出し、こちらに向かってきた。それにつれて、黒い影が少しずつ赤茶色に変化していく。

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オランウータンに遭遇



 インドネシアのスマトラ島にあるグヌン・ルーサー(Gunung Leuser)国立公園で、初めて野生のオランウータンに出会った半年前のことだ。現地語で「森の人」(orangは“人”、hutanは“森”を表す)の名のとおり、いかにも森の主といった雰囲気で現れてきた。

 野生のオランウータンが人に近づくのには理由がある。実は、このオランウータンは人間に育てられたのだ。親が人間の罠にかかり殺され、近くにいた子どものオランウータンがこの公園に保護されてきて、ここで野生復帰(リハビリ)したものだ。

 スマトラゾウ、スマトラトラ、スマトラサイなど大型野生動物の宝庫でもあるスマトラ島は、インドネシアでカリマンタン島(ボルネオ島)と並ぶオランウータンの生息地でもある。

 しかし近年、急速なオイルパーム・プランテーションの拡大による森林伐採やペットとしての密猟などにより、命を落としたり、傷を負ったりするオランウータンも数多い。公園内には、こうしたオランウータンの保護施設がある。
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  左)国立公園のオランウータン・インフォメーションセンター
  右)オランウータンの保護用檻(今は荒れ果てている)

  グヌン・ルーサー国立公園は、スマトラ島の北スマトラ州とアチェ州の境界に広がる面積約792,700haの森林地帯で、1980年に設立された。公園名は、主峰のルーサー山(標高3,381m)に由来する。

 南ブキット・バリサン国立公園などとともに、スマトラの熱帯雨林として世界遺産(自然遺産)に登録されているが、森林伐採が進み、野生動物の生息も危ぶまれるとして危機遺産になってしまったことは、このブログでも南ブキット・バリサン国立公園の違法コーヒー・プランテーション造成など報告でも取り上げてきたところだ。
    
 この公園への観光的なアクセスは、北スマトラ州の州都メダンからが便利だ。Bukit Lawang地区には、川沿いに小規模のホテルが立ち並んでおり、前述のオランウータンのリハビリ施設もある。公園に隣接(ほとんど公園内)のエコ・ロッジ(Eco Lodge)は、ガイド案内の拠点にもなっており、オランウータンなどの動物観察に便利だ。
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     エコロッジのコテージ         川沿いに立ち並ぶホテルとカフェ
 
 国立公園内を散策するには、地元ガイドの案内が義務化されている。ガイドによるいわゆるエコツアーでは、公園内に生息するさまざまな動物を見ることができる。残念ながら、スマトラサイやスマトラトラまでは見ることはできないが。

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  公園内では、オランウータンのほかにも、さまざまなサルや鳥類を見ることができる

 ガイド料金には、公園の入園料金も含まれている。ガイドは、入園料金を公園管理事務所に収める仕組みだ。こうして、地元ガイド案内の義務化は、公園当局にとっとも、雇用の機会を得る地域住民にとっても、双方にプラスになるウィン・ウィンの関係でもある。

 危機遺産となってしまったスマトラ島の熱帯雨林。グヌン・ルーサー国立公園は、そのような動物たちの最後の拠点、ノアの方舟のひとつになってしまった。

 オランウータンなどの野生生物が安心して生息できるようになるのはいつのことだろうか。人間に命さえも奪われそうになり、しかし人間の手によって生かされてきたあのオランウータンの目を忘れることができない。

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mimimomo

こんにちは^^
オランウータンも人馴れしていると可愛いでしょうね^^
殺されたり住処を終われたりしたら可哀相ですね。
自然がしっかり守られると良いのに。
by mimimomo (2013-09-01 12:09) 

staka

mimimomoさん、コメントありがとうございます。
オランウータンのペット輸入国として、日本の存在も大きいと聞くと複雑ですね。
by staka (2013-09-01 14:14) 

SANPOJIN

ご訪問 & nice! ありがとうございました。
by SANPOJIN (2013-09-02 13:32) 

toshi

野生のオラウータン、見てみたいです。
by toshi (2013-09-02 18:33) 

staka

SANPOJINさん、toshiさん、コメントありがとうございます。
人間に育てられたとはいえ、野生復帰したものは、やはり動物園で見るのとは迫力が違いますね。
by staka (2013-09-03 20:35) 

旅爺さん

動物を捕獲したり捕食したりする人が後を絶たないので、保護者の活動も大変なんでしょうね。
by 旅爺さん (2013-09-04 10:17) 

staka

旅爺さん、複雑で、難しいですね。
我々世代の給食の花形だった(旅爺さんも?)クジラの論争もありますが、野生はダメだけど、家畜(養殖)はOK?
どちらも、同じ生命ですけどね。
by staka (2013-09-04 10:36) 

yakko

こんにちは。お越しいただき有り難うございます。♩
野生の動物が生きにくい時代なんですね(-。-;)
by yakko (2013-09-04 16:29) 

staka

yakkoさん、ペットのために密猟はもってのほかですが、私たちが消費する日常生活の食品や薬品などのために、熱帯の森林が破壊され、野生動物も生息地を奪われていますね。
by staka (2013-09-04 16:51) 

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