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多様な生態系のエコツアー:マングローブ林と観光の可能性 -スマトラ島のマングローブ林から(4) [生物多様性]

 チャーターした漁船は、穏やかな海面を滑るように樹林に近づいていく。近くに寄ると、その樹木のどれもが、タコの足のような根を何本も海中に突き刺さして、海流に流されまいと懸命に足を踏ん張っているような姿がはっきりと見て取れる。

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 スマトラ島のマングローブ林

 マングローブとは、熱帯や亜熱帯の海岸沿いや河口などの潮間帯に生育する植物の総称だ。だから、「マングローブ」という固有名の植物ではなく、100種ほどの植物をまとめてマングローブと呼ぶ。日本では、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギ、ヒルギダマシ、ニッパヤシなどの5科7種で、沖縄県の島嶼や鹿児島県南部に分布する。インドネシアでは、バカウ(Rhizophora リゾフォラ)と呼ばれる種とアピアピ(Avicennia アビセニア)と呼ばれる種とが広く分布している。

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   アピアピ種のマングローブ林            アピアピの種子

 潮間帯、すなわち満潮と干潮の間に、海水に浸かったり干潟になったりする海岸や河口部に、マングローブで構成されるマングローブ林が発達する。栄養分も豊富で、マングローブの根に囲まれた安全地帯でもあり、プランクトン、エビやカニ類、貝類、稚魚、さらにこれらを餌とする鳥類などの動物相も豊かだ。まさに、「生物多様性の宝庫」といえる場だ。

 こうしたマングローブ林そのもの、あるいはそこに生息する動物たちを観察するエコツアーが発展すれば、マングローブ林を伐採してエビ養殖池などにしなくとも、地域の人々に収入をもたらすことができるかもしれない。
 
 しかし、マングローブ林が発達するのは海岸の泥地だから、歩いて林内観察をするのは困難だ。そこで、船で周遊することになるが、これはなかなか楽しい経験だ。沖縄では、西表島の仲間川や浦内川などのマングローブ林を周遊する遊覧船もあり、最近ではカヤック(カヌー)で回る体験ツアーも盛んだ。

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   西表島のマングローブ林(後良川)  マングローブ林ツアーボート(セレストン保護地域)

 かつて訪れたメキシコのユカタン半島先端のセレストン生物圏保護地域では、ボートに乗ってマングローブ林を抜けると、フラミンゴの大群を見ることができた。漁業をしていた地域の人々は、現在では地元政府の補助により漁船を観光船に改造し、日常語のスペイン語以外に英語やフランス語などを習得してガイドとして生計を立てている。

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   マングローブ林の先の開けた塩水域    かつての漁民はエコツアーガイドに

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ツアーの目玉はフラミンゴ(メキシコ・セレストン保護地域)



 しかし、インドネシアではマングローブ林は当たり前で、誰も見向きもしない。それどころか、エビ養殖池やマングローブ炭のために伐採されてしまっている現状は、以前のブログ記事での報告のとおりだ(「バーベキュー炭もマングローブから:マングローブの生活資源」、「そのエビはどこから?」)。このため、マングローブ林の伐採により、津波や高潮の被害におびえている住民も多い(「津波とマングローブ林再生」)。

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マングローブ林が伐採されて広大なエビ養殖池が造成されている(スマトラ島にて)


 一方で、スマトラ島ランプン湾内のマングローブ林に覆われたP島では、個人が所有する200haもの広大な土地が、ヘリポート付きのまるでリゾートホテルのように整備されていた。必ずしもマングローブに着目したものではないが、のんびりとした時間の流れを満喫することのできる場としてマングローブ林も一役買っている。

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    個人所有の広大な別荘地(?)        普段は使用されないコテージ

 私の調査研究は、インドネシアのマングローブ林の保全を図りつつ、地域社会に経済的な利益をももたらす方策の可能性と課題などを探るものだ。

 その一つの有力な手段にエコツーリズムがある。動植物観察の「エコツーリズム」だけではなく、地球温暖化対策や津波対策も兼ねた「マングローブ植林ツアー」(「津波とマングローブ林再生」記事参照)も有効かもしれない。

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 左)観察タワーも建てられているが、場所や高さの関係もあり、あまり利用されていない(スマトラ島にて)
 右)マングローブを植林する地元小学生

 都市化が急速に広がるインドネシアでは、海岸近くの住民でも、マングローブ林を見たこともない人々が増加しつつある。

 特権階級(セレブ)だけのマングローブ林リゾートではなく、地域住民も恩恵を受けつつ、拡大しつつある中産階級や海外からの観光客も受け入れる観光の可能性を探求してみたい。

 観光も多様なマングローブ林の機能の一つにすぎない。炭素吸収源としての地球温暖化対策による高潮被害をもたらす気候変動対策への寄与、直接的な津波の防波堤、もちろん薪や炭などの燃料、水産業などの経済的効果など、マングローブ林の効用は計り知れない。

 【ブログ内関連記事】

 「バーベキュー炭もマングローブから:マングローブの生活資源 -スマトラ島のマングローブ林から(3)
 「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)
 「津波とマングローブ林再生 -スマトラ島のマングローブ林から(1)
 
 「オランウータンとの遭遇 エコツーリズム、リハビリ、ノアの方舟 -国立公園 人と自然(番外編8)グヌン・ルーサー国立公園(インドネシア)
 「エコツーリズムの誕生と国際開発援助
 「エコツーリズムと保全について考える -エコツーリズム協会記念大会でコーディネーター

 「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本
 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全
 「南スマトラ調査


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mimimomo

こんにちは^^
2~3箇所でマングローブの生える川を観光しました。
ただ何も知らずの観光でしたが、マングローブって色々有用なものなんですね。
by mimimomo (2013-09-22 13:44) 

staka

mimimomoさん、こんにちは~
自然はいろいろと私たちの生活に役立っていますね。
マングローブもそうですが、雑木林など身近な自然も、私たち人間はついつい自分に直接的な利益がないとそれを忘れて伐採したり・・・
by staka (2013-09-22 15:06) 

yakko

お越しいただき有り難うございます ♩
いろいろ勉強になります(*^_^*)
by yakko (2013-09-23 18:04) 

staka

yakkoさん、コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by staka (2013-09-23 18:47) 

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