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オオカミ復活!?  - シカの増加と生態系かく乱を考える [生物多様性]

知人から、ある団体の機関誌をいただいた。
その団体の名は、「一般社団法人 日本オオカミ協会」で、機関誌は「フォレスト・コール」という。

この団体では、日本では絶滅したオオカミを復活させ、シカの林木被害などで荒れている森の生態系を復活させようとしているそうで、昨年には「日米独オオカミシンポ2015」を開催した。

本州・九州・四国に生息していたニホンオオカミは、明治末期に奈良県吉野の山中で捕獲されたのを最後に絶滅したといわれている。北海道でも、明治開拓以降にエゾオオカミが絶滅した。


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エゾオオカミ剥製(北海道大学植物園博物館にて)

ニホンオオカミが最後に捕獲された紀伊半島山間部には現在でもオオカミが生息している、ということを信じている人々がいるのが、時々テレビ番組で取り上げられたりもする。

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オオカミも残っていそうな深い森(吉野熊野国立公園大台ケ原大蛇ぐら)

オオカミ絶滅の原因には、毛皮採取のため、家畜を襲う害獣駆除のため、ジステンバーなど伝染病のため、森林開発による生息地縮小などのため、などいくつかの原因があげられる。ひとつの原因ではなく、これらの複合と考えるのが適当だろう。

オオカミなどの肉食動物(消費者)が草食動物を食べ、その草食動物は草などの植物(生産者)を食べ、そして肉食動物の死骸は土壌生物など(分解者)によって植物の栄養となる。これを「食物連鎖」というのは、生物の教科書などでもおなじみの図だ。

食物連鎖が循環的とすると、上下の垂直的にみたものに「生態系ピラミッド」がある。底辺を構成する多くの生物の栄養をより高次の生物が消費し、段階が上がるにつれて個体数も少なくなることから、これをピラミッド状の三角形で図示したものだ。

かつての日本では、オオカミが生態系ピラミッドの頂点に君臨していた。

そのオオカミの絶滅によって、森林では生態系も大きく変化した。
その象徴的な現象が、シカの個体数増加、分布域拡大と林木食害の増大だろう。

近年のシカの増加には、地球温暖化による降雪量減少の結果、冬期でも雪に足を取られることなく移動することができ、また餌となる植物も豊富であることなどの影響が大きい。

しかし、天敵であるオオカミの絶滅も無関係ではないだろう。
温暖化の影響でシカが増加しても、天敵の存在があれば、一定の個体数コントロールがなされるはずだ。

こうして個体数が増加し、冬期には比較的雪の少ない平地に移動するシカの群れによって、日本各地で林木の樹皮食害による枯死や高山植物などの食害が問題となっている。

日光国立公園では、有名な霧降高原のニッコウキスゲの大群落がシカの食害で絶滅寸前になってしまった。群落全体をネットで囲んだり、シカを追い払ったりと、絶滅を回避するための努力が続けられている。

戦場ヶ原でも、特別保護地区の戦場ヶ原にシカが侵入し、貴重な高山植物などを食べ荒らしている。

このため、シカが侵入しないように、戦場ヶ原全体をネットで囲んでいる。
ネットの外側(戦場ヶ原の周囲)(↓写真の上側)は、シカによって林床の草が食われて裸地になっている。
それに対して、内側(戦場ヶ原側)(↓写真の手前)は、シカに食われないために緑が残っている。
その差は歴然としている。

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しかし、ネットの破れ目などからシカが戦場ヶ原内に侵入することがある。

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戦場ヶ原に侵入したシカ

餌としての草の少ない時期には、シカは下あごの歯で樹木の樹皮を下からめくりあげて食べる。

周囲すべての樹皮を剥がされた樹木は、栄養や水分の移動ができなくなり枯死する。

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シカに樹皮を剥かれた樹木(戦場ヶ原での野外学習授業にて)

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森林内で見つけたシカの頭骨

樹皮の食害防止のためには、幹にネットを巻き付ける。

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黒く見えるのがネット

尾瀬でも、やはりシカによる貴重な植物の食害が問題となっている。
ニッコウキスゲなどは食べられてしまうが、一方で毒素があるといわれるコバイケイソウはシカが食べずに繁茂している。

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シカも嫌う?コバイケイソウの実(尾瀬にて)

シカが尾瀬沼や尾瀬ヶ原に侵入しないように、周囲をネットで囲い、登山道にはシカのヒズメが滑って侵入しにくくするための鉄板(グレーチング)が設置されている。

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尾瀬国立公園沼山峠にて

シカも高山植物を絶滅させようとしているわけではなく、生きるために餌としているだけなのだ。
小鹿のバンビはかわいいが、高山植物や林木に被害が出ると目の敵にするのも可哀そうな気がするけど・・・人間の身勝手さか。

前述の団体では、こうした生態系の管理のためにも、オオカミ復活が必要だと主張している。

実際、世界で最初の国立公園のイエローストーン国立公園(米国)のオオカミ再導入は、生態系管理の実験としても有名だ。
家畜を襲うとして駆除されて絶滅したオオカミを、カナダから再導入して復活させ、増えすぎたエルク(シカ)による生態系の荒廃から再生しようとしている。

ドイツなどヨーロッパ各地でも、オオカミの復活が実現しているという。

ニホンオオカミ協会会長の丸山直樹さん(東京農工大学名誉教授)によれば、日本のオオカミはアジア大陸のオオカミと同種であり、導入しても外来種による遺伝子攪乱には該当しないという。また、意外と臆病で人間を襲うこともほとんどなく、日本の家畜飼育状況では家畜を襲うことも考えられないという。

オオカミは、生態系の食物連鎖の頂点に君臨する肉食動物だが、人間との接触も古く、前回ブログ記事(中国文明と縄文文化 - 兵馬俑展と三内丸山、登呂遺跡)の縄文時代には、既にオオカミを飼い慣らした縄文犬と呼ばれるイヌが家畜(狩猟犬、ペット)として飼育されていたそうだ。

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我が家のイヌ
(縄文犬ではない、ただの雑種、2008年に17歳で死亡)

また、古代から信仰の対象ともなり、オオカミの名は大神から由来したとする説もあるくらいだ。
奥多摩の御岳神社(東京都青梅市)では、魔除けや獣害除けの霊験として信仰されていた。

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御岳山ケーブル

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御岳神社本殿

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御岳神社のお札

古代から人間と共生してきたオオカミ。
その関係が狂ったのはいつからだろうか。

今年の「全国巨木フォーラム」は、狼信仰の中心でもある三峯神社のある埼玉県秩父市で10月に開催される。

単なるロマンチシズムでは無責任になるが、科学的な根拠をもってオオカミ復活について考えてみるのも悪くはない?!


【本ブログ内関連記事リンク】

原始信仰と世界遺産の原生林 -国立公園 人と自然(9) 吉野熊野国立公園

夏の思い出 - 久しぶりの尾瀬訪問

自然保護の原点 古くて新しい憧れの国立公園 -国立公園 人と自然(19)尾瀬国立公園

『米国型国立公園』の誕生秘話

中国文明と縄文文化 - 兵馬俑展と三内丸山、登呂遺跡


巨木フォーラム in小豆島 (1)


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コメント 18

mimimomo

おはようございます^^
生態系の維持って大事ですね。人間にとって邪魔だと思うものを絶やすと食物連鎖が上手く行かなくなりますものね。
山に登っている時、鹿害についてはあちこちで耳にしました。
by mimimomo (2016-01-31 07:41) 

staka

mimimomoさん
おはようございます。シカの食害は凄まじいですね。シカも生きるためで仕方ないのですがね〜
by staka (2016-01-31 09:02) 

トックリヤシ

とても興味あるお話ですね。
あるがままの自然を復活できれば
なによりすばらしいことだと思います。
by トックリヤシ (2016-01-31 11:29) 

staka

トックリヤシさん
オオカミ復活には、米国でもさまざまな意見があったようです。
日本では、ほとんど論じられていません(と、私は思いますが)が、興味ある話題ですね。
by staka (2016-01-31 15:03) 

yakko

こんばんは。
オオカミ復活は鹿の食害を防ぐためには
必要なのかもしれませんね。
by yakko (2016-01-31 19:57) 

staka

yakkoさん
シカの食害防止には良いかも知れませんね。
でも、生態系や地域の生活に予期しない影響がないか、見極めることも必要でしょうね。
by staka (2016-01-31 21:10) 

マリー

Stakaさん初めまして
まだ、ソネブロ 3ヶ月生です
少し、探検に出てStakaさんを発見(?)しました
いろんな興味深い記事が多いですね!
気が向きましたら、拙いブログですが是非お立寄りください
田舎生まれ、田舎育ちなのでカエル大好きです^^;
by マリー (2016-01-31 22:01) 

staka

マリーさん
ご訪問ありがとうございます。
マリーさんの猫ちゃんや絵などのブログ、楽しませていただきました。
これからも、よろしくお願いします。
by staka (2016-01-31 22:36) 

マリー

お気遣いありがとうございました。
遅い時間にお騒がせしてしまいましたね
宜しくお願い致します✿
by マリー (2016-01-31 22:48) 

森田惠子

冬の知床半島でエゾシカが樹皮を食べている姿を見たことがあります。
雪の中、エゾシカが良く見えてシャッターチャンスと思いましたが、そこには広いバックヤードがあったのですね・・・。
by 森田惠子 (2016-02-01 14:44) 

staka

森田惠子さん
私が北海道勤務の30年前は、シカを見るのも稀でした。
フィルムカメラの300㎜望遠を担いで、雪の中を歩き回ったこともありました。
今ではシャッターチャンスも多いみたいですね。
by staka (2016-02-01 21:54) 

讃岐人

捕食者のいない山林は荒れる、また、日本の山林は人の手で環境が維持されてきた面がある。何もかも西洋文明のせいにするのは無責任な態度ですが、全てを人力で変えてしまう西欧近代の開発手法から、古来行われていた生き方への回帰を模索しなければならない時期にきているように思いました。
by 讃岐人 (2016-02-02 05:57) 

staka

讃岐人さん
縄文文化を含めて、西洋文明よりも東洋的な土着文化が再評価されていますね。
世界中で起きているイスラム教とキリスト教の対立も、元は同じユダヤ教なのですがね。
他を認めない一神教よりも、寛容な多神教の方が平和的ですね。東洋だけではなく、かつて古代は世界中がアニミズムだったのですが〜
by staka (2016-02-02 10:06) 

旅爺さん

鹿害の駆除に狼を離したら人間も襲うようになりますよ。
カナダの山中ととロシアの森で野生の狼を見ました。
by 旅爺さん (2016-02-03 19:19) 

staka

旅爺さん
ニホンオオカミ協会では、現代の日本ではオオカミを復活しても人は襲われないと主張していますが・・・・・
私には予想もできません。
いずれにしろ、シカが生きるためとはいえ、現在の自然への圧力は異常ですね~
これも人間の業というものでしょうか。
by staka (2016-02-03 23:01) 

soujirou-3

オオカミですか!
ロマンを感じますが、確かに科学的にある程度裏付けを
もって復活させる案はいいかもしれません
冬の上高地に入ると白樺?や木々の皮を食べている猿が居て
丸裸の木が多いです
冬は食料が無いので彼らも必至ですね

by soujirou-3 (2016-02-04 10:56) 

staka

soujirou-3さん
日本中で、シカだけではなく、サル、イノシシなどによる食害が増加しています。
昔から農家などでは獅子垣を作ったりして、獣害に取り組んできました。今では電気柵かもしれませんが・・・・
by staka (2016-02-04 12:50) 

無名

アムールヒョウの帰化じゃ駄目?ニホンオオカミの後釜担える上に木登りとサル狩りの両立が出来るからニホンザル狩りにはオオカミ以上に効果を発揮します。サル、イノシシ、シカ、カモシカを狩るのでニホンオオカミの後釜を担える上に特性的にオオカミより本州、四国、九州(北海道はエゾシカしかいないからアムールヒョウには向かない)の環境向きです。
by 無名 (2023-10-26 19:00) 

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