そのチョコレートはどこから? [生物多様性]
先週はバレンタインデー。
そんなものには縁遠かったが、バレンタインデー前日の土曜日に、3月に出かける海外調査(マレーシアのボルネオ島・サラワク州)の航空券手配に行った近所の旅行社の女性社員(女性二人だけの営業所)からチョコをもらった↓。
もちろん義理チョコ(?)、というより営業アイテムだが、何となく心はホンワカと!!
そこで遅ればせながら、バレンタインデーにつきもののチョコレートの話題。
チョコレートの原料はカカオ豆だ。
カカオの実は、幹から直接垂れ下がったように付いている。
熟れたカカオの赤黒い実を割ると、中には白い果肉が20~30個ほど。
ほのかな甘さの果肉を食べた後、種子を捨てないように農園主に諭された。
カカオ豆は、この種子のことだ。
これが、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。
写真↓は、白い果肉とカカオ豆の断面(紫色のもの)。
チョコレートにポリフェノールが豊富な理由は、この辺にありそうだ。
カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。
少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。
現在ではジャングルの中に埋没しているマヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ、ユカタン半島)。
ここでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。
そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたようだ。
そのラテンアメリカも、コロンブス以降の大航海時代には、スペイン人などに征服された。
チョコレートを既に造っていたマヤの帝国や広大な領土を南米に広げた(←追加修正しました2016/02/21)インカの大帝国も、スペイン人などの征服者によって破壊され、滅ぼされた。
インカ帝国の首都クスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。
そして、トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。
現在のようなチョコレートの製造法は、オランダのバンホーテン社が19世紀に開発した。
しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。
カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカにはヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。
農園といっても、カカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。
その後、ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。
新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。
19世紀の帝国主義の時代、チョコレートを巡ってもヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたのだ。
現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴ、ルワンダなど)を獲得した国の一つだ。
日本のチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、ヨーロッパ列強の植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。
ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。
オランダの植民地となったインドネシアは、現在ではガーナに次いで世界第3位のカカオ豆生産国となっている。
中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。
しかし、世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。
その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。
また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。
ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。
バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案したとの説が有力だ。
企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、途上国の人々の生活も翻弄されていると思うと、何やら複雑な思いだ。
もっとも、販促は今に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンは、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。
でも、これによる大量消費(だけではないが)で、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんも罪深い?
【本ブログ内関連記事リンク】
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「金と同じ高価な香辛料」
「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」
「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」
「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」
「一番人気の世界遺産 空中都市 マチュピチュ」
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そんなものには縁遠かったが、バレンタインデー前日の土曜日に、3月に出かける海外調査(マレーシアのボルネオ島・サラワク州)の航空券手配に行った近所の旅行社の女性社員(女性二人だけの営業所)からチョコをもらった↓。
もちろん義理チョコ(?)、というより営業アイテムだが、何となく心はホンワカと!!
そこで遅ればせながら、バレンタインデーにつきもののチョコレートの話題。
チョコレートの原料はカカオ豆だ。
カカオの実は、幹から直接垂れ下がったように付いている。
実が付いたカカオの木(2014年 スマトラ島(インドネシア)にて)
熟れたカカオの赤黒い実を割ると、中には白い果肉が20~30個ほど。
ほのかな甘さの果肉を食べた後、種子を捨てないように農園主に諭された。
カカオ豆は、この種子のことだ。
これが、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。
写真↓は、白い果肉とカカオ豆の断面(紫色のもの)。
チョコレートにポリフェノールが豊富な理由は、この辺にありそうだ。
カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。
少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。
現在ではジャングルの中に埋没しているマヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ、ユカタン半島)。
ここでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。
魔法使いのピラミッド
尼僧院
総督の館(奥)と生贄の心臓を置く台チャックモール(手前)
そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたようだ。
そのラテンアメリカも、コロンブス以降の大航海時代には、スペイン人などに征服された。
コロンブス像(2004年 バルセロナ(スペイン)にて)
チョコレートを既に造っていたマヤの帝国や広大な領土を南米に広げた(←追加修正しました2016/02/21)インカの大帝国も、スペイン人などの征服者によって破壊され、滅ぼされた。
インカ帝国の首都クスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。
↑写真の中央部、黒っぽい平滑な石積みがインカ時代のもの(2011年 クスコにて)
インカ時代の石積みのままの狭い道、石積みの上にはコロニアル風建物
路地の奥には、観光名所ともなっている12角の石組みが
路地の奥には、観光名所ともなっている12角の石組みが
そして、トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。
現在のようなチョコレートの製造法は、オランダのバンホーテン社が19世紀に開発した。
しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。
カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカにはヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。
農園といっても、カカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。
その後、ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。
新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。
19世紀の帝国主義の時代、チョコレートを巡ってもヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたのだ。
現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴ、ルワンダなど)を獲得した国の一つだ。
日本のチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、ヨーロッパ列強の植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。
ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。
オランダの植民地となったインドネシアは、現在ではガーナに次いで世界第3位のカカオ豆生産国となっている。
中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。
しかし、世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。
その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。
また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。
ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。
バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案したとの説が有力だ。
企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、途上国の人々の生活も翻弄されていると思うと、何やら複雑な思いだ。
もっとも、販促は今に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンは、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。
でも、これによる大量消費(だけではないが)で、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんも罪深い?
【本ブログ内関連記事リンク】
「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)」
「そのおいしいコーヒーはどこから? -スマトラ島の国立公園調査」
「金と同じ高価な香辛料」
「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」
「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」
「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」
「一番人気の世界遺産 空中都市 マチュピチュ」
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上記ブログ記事の生物資源の伝播など、本ブログ記事に関連する内容も多数掲載。
豊富な写真は、すべて筆者の撮影。おかげさまで第2刷。
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おはようございます^^
カカオ豆一つをとってもいろいろ競争があるのですよね~
ペルーのクスコ、懐かしく拝見^^ カカオ豆がこの辺りにもあったのは知らなかったです。そういう話題は一度もなかったような・・・
by mimimomo (2016-02-21 07:25)
mimimomoさん
おはようございます。
確かにクスコではカカオの話題は出ないかもしれませんね。
標高が高く、カカオ栽培には不適と思います。カカオはマヤあたりでしょうが、スペインに征服されて、ヨーロッパにもたらされた作物との関連で写真掲載しました。
誤解を与えるようで、すみません。
by staka (2016-02-21 08:28)
お早うございます。
カカオの実の生り方を初めて見たとき(@_@;)しました。
by yakko (2016-02-21 09:39)
yakkoさん
植物がお好きなyakkoさんは、色や形がいろいろと変わった花や実をたくさんご存知でしょうね。
by staka (2016-02-21 13:43)
カカオが、「紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃
あるいはその前から栽培されていたともいわれている」
「少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていた」 びっくりなのは私だけでしょうか^^;
by マリー (2016-02-21 14:36)
初めてみました。カカオがなっているのを・・・。
カカオ自体も見るの初めてです。
by garden (2016-02-21 16:28)
マリーさん
私も、生物多様性分野の研究を始めるまで知らずにチョコレートを食べてましたけど〜
by staka (2016-02-21 17:05)
gardenさん
私も、インドネシアで初めてカカオの実がなっているのを見ました。熱帯の植物には、幹から直接付いているような果実もたくさんありますね。
by staka (2016-02-21 17:11)
バレンタインに因んでのチョコレートうんちく
とても面白く読ませて頂きました^^
仕事の合間の眠気覚ましですが
以前はチョコだったのが今ではキャンディーに変わり・・・
私のそのちょっとした心境の変化が
アフリカのストリートチルドレンを増やしていたのか?!
と、しょうしょう心配になりました
by はなだ雲 (2016-02-21 19:53)
はなだ雲さん
個人の意志で選択を変更するのは、気にしなくても良いのでは?
コマーシャリズムに流されるのは…とも思いますが。
でも、難しいですよね〜 かく言う私も。
by staka (2016-02-21 22:33)
カカオの実がこんなに大きいとは知りませんでした
せいぜい親指くらいと思っていました
by soujirou-3 (2016-02-22 11:00)
実の付いたカカオの木の写真初めて見ました。大きいですね。
by yamagara22 (2016-02-22 15:44)
soujirou-3さん
yamagara22さん
カカオの実をご覧いただき、ありがとうございます。
皆さんに知っていただいただけでも、記事アップの意義がありました。
今後ともよろしくお願いします。
by staka (2016-02-22 19:15)