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「シーボルト展」をハシゴ ― 日本に魅せられた男の驚異的な日本収集 [生物多様性]

先週末、研究資料収集を兼ねて、『よみがえれ! シーボルトの日本博物館』(江戸東京博物館)と『日本の自然を世界に開いたシーボルト』(国立科学博物館)をハシゴした。

前者の日本博物館展覧会は、夏から国立歴史民俗博物館(千葉県)でも開催されていて、行ってみたいと思っていたけど結局行くことができなかった。

11月6日までの江戸東京博物館(東京都)での会期を逃すと、その後は西日本方面の巡回となってしまうので、会期末ギリギリのところで観覧した。

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展覧会ポスター

シーボルトは、ご存じのとおり江戸末期に長崎出島に来日した人物で、日本に近代西洋医学を伝えたほか、伊能忠敬の日本地図を国外に持ち出そうとしたシーボルト事件で有名だ。

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展覧会カタログ

シーボルトはドイツ人医師だが、自然史研究を行うためにオランダ陸軍の募集に応じて、当時のオランダ領東インド(現、インドネシア)で勤務の後、出島オランダ商館付の医官として1823年に来日した。

日本はまだ江戸時代で鎖国中だったから、オランダ軍軍医となったことが、結果として日本との結びつきのきっかけになった。

来日したシーボルトは、日本そのものに魅せられたようだ。
長崎での滞在中、そして商館長の江戸参府への随行としての道中、各所で自分自身、あるいは日本人協力者により、ありとあらゆる自然や文物を収集し、あるいは自然・文物のほか生活の様子などを絵に描かせた。

オランダに帰国したシーボルトは、愛する日本の理解をヨーロッパでも深めるために、収集物を展示した「日本博物館」設立を構想して、各方面にその実現を働きかけた。

展示会は実現したものの、日本博物館の設立は実現しなかったという。
今回の展示品は、シーボルトが夢見た日本博物館への展示予定品の一部というが、動植物の標本・スケッチから絵画、漆器、仏像などの美術・工芸品、生活用具、人々の生活のスケッチなどなど、膨大なものだ。

展示品は撮影禁止のため、写真でご覧いただけないのが残念だ(カタログは購入したけどネ)。
もっとも、数が多すぎて、とてもブログ記事では紹介できない・・・。

この後、長崎、名古屋、大阪を巡回するそうなので、関心のある方は展覧会へどうぞ。


江戸東京博物館のシーボルト展の後、上野の国立科学博物館で開催されているシーボルトの標本展をハシゴした。

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科学博物館企画展入口

膨大な日本の文物を収集したシーボルトだが、彼の日本滞在の当初の目的は、医者としての診療とともに、日本の自然の科学的調査だった。

シーボルトが収集した動植物の標本、スケッチ画、鉱物標本などは、多くがオランダに送られ、現在でもライデン国立植物標本館などに保管されている。

その標本などをもとに著されたのが『日本植物誌』、『日本動物誌』などだ。
その実物が国立科学博物館と前述の江戸東京博物館のシーボルト展に展示されていた。

私も写真では見たことがあったが、実物を見るのは初めてで、その大きさ(およそ40㎝x30㎝)には驚いた。
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膨大な植物標本の中でも、特に有名なのが「アジサイ」だ。
ライデンに保存されていた標本のうち、複数あるものが日本に返還されたその一つだ。

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科博シーボルト展にて

長崎で出会った日本の娘、タキを愛し、発見したアジサイの学名として「オタクサ」を付した。つまり、「おタキさん」のなまりという。

ちなみに、タキとの間の愛娘イネは、西洋医学を学んだ日本最初の女医としても有名だ。

シーボルトによりヨーロッパにもたらされたアジサイやヤマユリなどは、ヨーロッパにはない珍しい植物として、上流階級にもてはやされた。

ヨーロッパ産のユリの花は小型なため、日本産の美しく大きな花をも持つユリ、中でもカノコユリは絶賛されたという。

このように、当時のヨーロッパ貴族階級では園芸ブームが起きており、東洋やアメリカ新世界などの珍しい植物を売り込んで一獲千金をもくろむ者も多かった。

彼らを「プラントハンター」と呼ぶが、シーボルトも結果としてその一翼を担ったともいえよう。

シーボルトなどによりヨーロッパにもたらされたアジサイやユリなどは、その後に園芸植物として品種改良されて、日本に逆輸入されている。

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園芸品種として改良されたユリ(花菜ガーデンにて)

江戸時代には、シーボルトほかにも、ケンペル、ツンベルク、フォーチュンなどが動植物の標本類をヨーロッパにもたらした。

 → ブログ記事「アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

シーボルト尽くしの秋の一日を楽しんだ。
ちなみに、昼食は江戸東京博物館のある両国で、ちゃんこ鍋を味わった。


【緊急追伸】

このところ、世界は米国次期大統領に決まったトランプ氏の話題で持ちきりだ。

まさにトランプ旋風だが、本ブログの主要テーマでもある環境、人と自然との関係への影響もいろいろと出てきそうだ。

その第一が、地球温暖化防止のための世界の枠組み「パリ協定」からの離脱だ。

生物多様性条約をめぐる自然資源の利用と利益配分にも、依然として参加の見込みはないだろう。

グローバル企業寄りとも思えるその政策は、かつてのブッシュ親子大統領の時代を彷彿とさせる。
ビジネスマンというから、その傾向は強まるかもしれない。

米国追随政策が多い日本(TPPだけは別?)の、このところの世界への対処も気がかりなところだ。

トランプ次期米国大統領のこれまでの言動が、単に選挙用だったのかどうか私には判断できない。

米国の政策、日本の政策に対する考えもまとまらないので、この場での論評は控えることにする。

ただ、トランプショックで世界の環境や生活が台無しになるのだけは御免だ。


【本ブログ内関連記事リンク】

アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

花菜ガーデンのユリ

生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

(緊急追伸関連)

偉大な英国、強大な米国?  ― 英米の選挙に思う一国至上主義の復活と環境問題

地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって

地球環境と一国至上主義 (その1)  気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって

地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その2 なぜ歴史的合意か

地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その1 条約採択と京都議定書

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コメント 4

mimimomo

こんばんは^^
シーボルトさんは随分日本のことを研究されたのですね~特に植物については、わたくしも耳にしていますが、それ以外にも? 地図持ち出し事件は知っていました^^v
トランプさんは、今の日本についてはあまりご存じないとか? ちょっと心配な御仁ではあります。
by mimimomo (2016-11-13 20:48) 

staka

mimimomoさん
そうですねェ~ 
トランプさんにもシーボルトくらいに日本好きになってほしいですね。
いや、日本だけではなく、世界中を好きになって、米国一国主義は払い下げにしてほしいですね。
by staka (2016-11-13 23:28) 

yakko

お早うございます。
シーボルトさんは日本をこよなく愛しておられたんですね〜。 トランプさんになって世界は変わってしまうのでしょうか。不安です・・・
by yakko (2016-11-14 08:50) 

staka

yakkoさん
シーボルトは、日本を愛し、何と再来日までしているそうですね。
それにしても、トランプ大統領はどうなるのでしょう。このところ、だいぶおとなしくなってきたようですが、それが本心かどうか、気になります。
by staka (2016-11-14 12:17) 

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